鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

大沢ワールドの「欧亜純白」の興味は10年以上も刊行が遅れたこと

2010-04-20 | Weblog
 大沢在昌の「欧亜純白(ユーラシアホワイト)」を読んだ。1997年の香港の中国返還前後に週刊プレイボーイに連載されたものが10年以上経って単行本として刊行されたもので、ロシア、中国、日本のユーラシア大陸をまたにかけてのヘロイン・ネットワークを構築しようという企みに麻薬捜査官がからんでいき、最後には計画をつぶしてしまう物語である。例によって複雑にからむ国際組織の錯綜がテンポよく進む大沢ワールドが華麗に展開し、一気に読ませるのは小気味いい。
 「欧亜純白」はグアム島で麻薬の売人と思われる現地の男が殺される場面から始まる。どうやら男女関係のもつれからの殺人のようだが、その裏にはヘロインの取引をめぐる暗躍があったようで、ロシアのヘロインマフィアがからんでいるようだった。米CIAの捜査官が内偵を進めるうちに米国へのヘロインの持ち込みを図ろうとする一大組織があることがわかってきた。香港の中国返還をきっかけにヘロインの流通ルートに一大変革が起こりそうな気配が出てきたのだ。
 一方、日本の厚生省麻薬取締班は日本で暗躍する中国のヘロイン組織のうごめきに手をやいていた。野球をやっていた三崎捜査官はある日、麻薬の売人を追ううちに中国人グループに襲われ、仲間を殺されたうえ自身も瀕死の重傷を負う。そこへかけつけた中国人の地下銀行の大物、徐に救われ一命を取り留める。しかし、捜査当局からは死んだものとして扱われていることを知り、期せずして覆面捜査官として徐の側近の中国人として行動し、山口組を思わせる坂本組との折衝にあたることになる。
 ここから米連邦司法省麻薬取締官、CIA捜査官、中国人捜査官が入り組んで、世界にヘロイン・ネットワークを構築しようとする悪の組織と立ち向かう様が縦横無尽に展開さていく。香港が中国に返還されると、中国政府の影響下に置かれるため、従来のように自由にヘロインを取り扱えなくなる惧れが出てくる。そこで、日本経由で、最大の市場である米国へのルートを開きたい、とするホワイトタイガーなる新たな組織が出てきたわけで、肝心の正体がなかなか掴めない。
 最後は坂本組との取引の場に登場人物がすべて顔をそろえ、壮絶な撃ち合いのもとにホワイトタイガーなる組織も殲滅されてしまうが、首謀の女は「それでも何も終わらない、顔ぶれが変わるだけ」とうそぶいたところで、幕となる。
 東京・新宿での東南アジアの麻薬マフィアを追う刑事、新宿鮫で売りだした大沢在昌ワールドが世界へ勇躍したのがこの「欧亜純白」である。麻薬をめぐる裏の世界をテンポよく渉猟していく様は大沢在昌独自のもので、他のだれにも及ばないもので、面白いの一語に尽きる。連載してから10年以上もお蔵となっていたのはなぜなのか、単に編集担当者の怠慢だったのか、そちらの興味も尽きない。
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