鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

面白いに尽きる9時間ものシェイクスピアの大作「ヘンリー6世」

2009-11-08 | Weblog
 7、8日両日は東京・初台の新国立劇場中劇場で、シェイクスピア原作の戯曲「ヘンリー6世」を観賞した。第1部から第3部まで7日の午前、午後と8日の午後、それぞれ3時間づつ、合計9時間もの大作で、37人もの役者が合計200以上もの役をこなす力のいれようで、演技している舞台俳優の熱演ぶりが伝わってきた。書斎にあるシェイクスピアの英語のシナリオ集でみたら100ページにわたる大作で、これを一挙に上演する芸術監督の鵜山仁はじめ関係者のエネルギーに最後まで圧倒された。
 「ヘンリー6世」は14世紀イギリス・ロンドンのウエストミンスター寺院でのヘンリー5世の葬儀の場面から始まるが、その後を継いだヘンリー6世がまだ1歳に満たぬ幼少であるため、摂政役にグロスター公が就くが、これを快く思わないウインチェスター司教やサフォーク伯らとの間に権力闘争が巻き起こる。さらにはヘンリー6世よりは自らこそが王位継承にふさわしいと思い込むヨーク公リチャード・プランタジネットがサマセット公と対立し、権力争いを複雑にする。
 そこへフランスとの百年戦争が起き、ジャンヌ・ダルク率いるフランス軍との間で戦いが続くが、一旦ジャンヌ・ダルクを破ってフランスを傘下に収めると直ちに権力争いが激化する。サフォーク伯が自ら見染めた清純なナポリ王の娘、マーガレットをヘンリー6世の妃に推挙することを画策し、王の了解を得る。
 ところが、そのマーガレットは結婚してすぐに本性を現し、夫のヘンリー6世が無能であるとわかると、宮廷の主導権を握り、摂政のグロスター公を失脚させるが、徒党を組んだサフォーク伯らがヨーク公らに敗退することになり、ヘンリー6世はますます無能さをさらけ出し、英国はまたもや薔薇戦争に突入する。ここではマーガレットも戦争の指揮を執るところとなり、みずからフランスのルイ十一世に支援を頼みに行くが、最後はヨーク公の長男のエドワードの軍門に下り、そのエドワードの戴冠式で幕を閉じる。
 ハンリー6世は若くして王位に就いたこともあって、何ひとつ自分で決められず、決定を臣下に委ね、王位をないがしろにされても誰をも憎むこともしない。そのうちに王の意思を確認することもなく、王位を剥奪され、ロンドンタワーに幽閉され、最後にはヨーク伯の子息に殺されてしまう。ヘンリー6世を演じたのは涌井健治で、第31回菊田一夫演劇賞を受賞しているのでさぞかし演技力があるのかな、と思っていたが、役柄か最後まで力ないセリフ回しで、良さが伝わってこなかった。
 わずかに第3部の後半で、天井から下がってくるシーンで、自らの不運を嘆きながら「死んだ方が良かった」とつぶやきながら、下界の戦争シーンで知らずに死んだ父親から財布を盗もうとして、父親が死んだことを確認する息子と、逆に息子と知らずに戦って殺してしまった父親が嘆いているのを眺めながら、同情するところだけは見せてくれた。
 シェイクスピアが言いたかったのは無能な治世者を抱いた国民は悲劇であるということなのだろうか。何も決められない王を持つと、権力争いが激化し、被害を蒙るのは民である、とでも言いたかったのだろうか。9時間の間の半分は戦争シーンで、国土は荒廃し、民の生活は休まる時がない、と痛感した。
 英国の中世は日本の戦国時代のように戦争に次ぐ戦争の時代で、物語としては宝庫の時代なのだろう。シェイクスピアに限らず、ロビンフッドなど多くの英雄が輩出し、常に語られる時代なのだろう、とも思った。
 あと感じたのは確かにこの「ヘンリー6世」の表面上の主役はヘンリー6世を演じた俳優であるが、役柄上のインパクトがなかったせいか、マーガレット役の中島朋子や、ジャンヌ・ダルクとヘンリー6世の皇太子エドワード役を演じたソニンも主役級の演技を見せてきれたし、脇役陣の村井国夫、渡辺徹、木場勝己、中島しゅうらも主役をしのぐ演技を見せてくれた。それ以外の若手俳優陣も縦横無尽に舞台を駆け回って存在感を示してくれた。だれもが主役だったといえるほどの熱演ぶりだった。
 あと印象に残ったのは正面右手前に池を配し、照明と中央に小道具をうまく散りばめて舞台転換を図り、様々にシーンを演出していたのもうまい、と思った。
 とにかく、9時間を決して飽きさせることなく、見事に演出仕切った面白いの一語に尽きる演劇「ヘンリー6世」だった。こんなに面白い演劇が第1部から第3部まで新国立劇場中劇場いっぱいの観客に迎えられたのも今後の演劇界にとっていいことだ、と思った。だれのファンなのかわからなかったが、特に若い女性が多かったのは日本の文化を支えているのはこうした層ではないか、と思わせた。
 
コメント
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