鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

やれば出来ることを証明したテレビ朝日の大作「刑事一代」

2009-06-23 | Weblog
 19、20日とテレビ朝日の開局50周年記念と銘打ったドラマ「刑事一代~平塚八兵衛の昭和事件史!吉展ちゃん誘拐、三億円事件、伝説の取調室10日アリバイの壁3000キロの捜査」を見た。サンケイ新聞の記者の書いた実録をもとに上下のドラマに仕立てたもので、まれにみる感動の面白いドラマだった。主演の渡辺謙の好演もあるが、テレビドラマにしてはお金をかけた大作で、らればできることを示してくれた。
 「刑事一代」はサンケイ新聞の記者が退官した平塚八兵衛の自宅をカメラマンとともに訪れ、回想記を聞き語りで掲載することを頼みこむシーンから始まる。当の記者は平塚八兵衛を現役の頃から夜討ち朝駈けで追い回した記者だったが、八兵衛は容易なことで応じようとはしなかった。ところが、一緒に訪れた若い女性のカメラマンが父親も同じ刑事だったことを告白し、その父親が八兵衛を尊敬していた、と話したことから、回想記の掲載に同意する。
 そして、八兵衛は昭和の戦後まもなくからの鬼刑事と言われた自身の捜査を話し始める。まず、手がけたのは帝銀事件といわれる銀行に押し入って、並みいる銀行員を予防のためといって毒入り溶液を飲ませ、大金を奪った事件で、八兵衛は捜査の方法で文句をつけ、犯人が残していった名刺を追いかける名刺班に送り込まれる。名刺に書かれた当の人物が配った先を1軒1軒当たり、名刺を持っていない人物を順番に捜しあてるという大変な作業を積み重ねたうえ、東北青森に住む平沢貞通なる人物につきあたる。犯行当日のアリバイを丹念に調べ、うそがあることを突き止め、逮捕に至る。
 次いで、有楽町のそごう守衛室であった強盗殺人事件で、当初ねらった犯人と目される人物を追い詰めるが、刑事のカンで犯人ではないと対象からはずすが、捜査会議の場でそのことをなじられ、あくまでも犯人ではないと主張し、犯人らしき言動をしたその友人に目をつけ、追いまわす。で、証拠の当日着ていたレインコートを入手し、血液のルミノール反応をするが、鑑定にはシロと出る。そんなはずはない、と悩んだすえ、当のレインコートが防水であることに思い当り、実験の結果、防水だとルミノール反応を通過してしまうことを突き止め、犯人逮捕に至る。
 そして、最大の事件である昭和38年の吉展ちゃん誘拐事件で、捜査開始後2年も経ってから、捜査班がシロと断定した小原保の捜査を命じられる。郷里の福島へ行き、完璧と見られた小原保のアリバイをひとつずつ崩していく。関係者に順番に会っていくうちに以前の捜査では会っていない事実が判明し、足取り捜査の重要性が改めて浮き彫りとなる。
 そのうえで、別件逮捕で、あと10日間の事情聴取期間しかない小原保を取調室に呼び込み、当初の腕時計の詐欺事件の状況から聞いていく。ところが、小原保も用心深くなかなか本音を吐かず、難航する。のらりくらりと事情聴取を重ね、かねてのアリバイ崩しの尋問もしないうちに10日間を過ぎてしまい、警察上層部から人権侵害との世論配慮して事情聴取の打ち切りを命じられる。そこで、米国へ脅迫電話で録音された声と小原保の声を声紋判定するため、ひそかに録音することになり、再度小原保を取調室に呼びこみ、雑談を始める。いつになくリラックスした調子に小原は4月2日に日暮里の火事を見かけたことをポロッとしゃべり、当日は福島にいたはずの自らのアリバイを崩してしまう。
 それを聞いた八兵衛はここを先途とばかり、福島で調べてきたアリバイのうそで攻め立て、最後は小原の母親が雨の中、八兵衛に土下座して、「足の悪い保をかばって育て損なった。罪を犯しているのなら、厳重に罰して下さい」と頭を下げたことを暴露して、小原保の琴線に触れ、見事、誘拐事件の自供をもたらした。小原の心の底に母親に対する申し訳なさがある、と見抜いた八兵衛の勝利だった。
 その後、八兵衛は同じように3億円事件の捜査に加わり、捜査のキャップにまでなるが、時代の変化もあって以前のような足による捜査では解決に至らず、時効の半年前に捜査班からはずされる。捜査中に仙台の刑務所からの電話で小原保が死刑になったことをしらされ、小原から「真人間になって死んでいきます」との伝言を受ける。
 それでも定年までずっと捜査一課の刑事として全うし、引くまで警視総監賞を含め96回もの表彰を受けていたのは脅威である。最後に福島小原保の実家を訪れ、小原の墓に参り、ドラマは終わる。死亡は66歳と若かった。
 ドラマとして誇張や創作はあるのだろうが、テレビドラマとしては面白く、充実したものだった。帝銀事件はその後、平沢貞通が冤罪であると主張していたし、吉展ちゃん事件も誘拐のところなどの場面がなかったなど不満なところもなきにしもあらずだったが、総体として満足のいく作品だった。上下5時間弱と映画より長く、下手な映画より見ごたえがあった。スポンサーもトヨタ自動車、新日本石油、花王など6社がついていたが、おそらく高い製作費をカバーするだけのスポンサー料はもらっていないことだろう。テレビがこんな大作ばかり作っていたのではもたないのは確実だが、やれば出来ることを証明したのは事実だ。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする