うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

水の雫 

2016年09月11日 | 真面目な日記

休日をいいことに、ダラダラ書いちゃったのです。

しかも、ショックを受けるかもしれない内容が含まれます。

おかまいなく、スルーしてください。

※ちなみに、不思議話(怪談)の方ではありません。

 

最近は、給湯器の不調のせいで、

風呂が沸かせずシャワーで済ませていたが、

珍しく風呂が沸いたので、ゆっくり入る事にした。

そうすると、きくも風呂場に入って来て、私をジッと見る。

 

「分かったよ。これだろう?」と声を掛けながら、

指で風呂の湯をピシャピシャ鳴らし、

今度はその湯を少量すくって、上に向けて跳ね上げてやる。

きくは、そうやって出来た、いくつもの水の雫が、

キラキラ光って落ちてくる様を捕まえるのが好きなのだ。

濡れる事など厭わずに、延々掴もうとするネコの様子を見ていたら、

私は昔味わった、あの感覚を思い出した。

 

ある日、私は自分で借りた訳でもない借金の肩になり、

2人の見知らぬ男に連れられて、黒塗りの大きな車に乗り込んだ。

精一杯の虚勢を張って、優雅に乗り込んだつもりだったが、

私の体は、余すところなく震えていた。

これを境に、平凡な主婦だった私は、

まるで異次元のような世界に、その後数年、身を置く事となった。

 

風俗店に連れて行かれ、面接という品定めを受けた。

そして、なんと、落とされた。

顔面神経麻痺でひん曲がった私の顔を見て、

その風俗店の店主らしき男は、

「これじゃ、うちでは使えないよね。」と言って笑った。

その意味すら分からぬ私は、負けじと笑って見せた。

しかし内心は、面接に落とされて安堵したような、

女として全面的に否定されたような、

そんな複雑でみじめな思いに駆られ、泣きたくなるのを堪えた。

 

風俗店の面接に落ちた私は、

結局、男達の組織の息の掛かった店で、ホステスとして働く事となる。

店のママは、見た事もない程、美しい女性だったが、

「こんな薄汚いブス、死ぬ気で何でもやってもらわないと、

すぐ辞めてもらうわよ。」と凄んだ。

 

そして私は、自分の僅かに残っていたプライドを捨て、なんでもやった。

煌びやかな女達と、それに魅せられてやってくる男達の、

噎せる程の欲が渦巻く中、

鼻からピーナッツを飛ばす、私。

鼻ピストルであなたのハートを打っちゃうぞと、のたまう、私。

高価な洋酒のボトルを一気に飲む、客のネクタイを頭に巻いてる、私。

 

ママは、そんな私を見て、困惑した表情で、

「うちね、そういうお店じゃないのよ、おかっぱちゃん。

なんでもやれって、そういう意味じゃないの。」

と呆れながらも、

「おかっぱちゃん、アレ見せて差し上げて。

ほら・・・鼻からスカシッペ。」と、無茶振りしてきた。

 

店で働く女達は、それぞれの武器を持って戦っていた。

永遠の35歳の美女、推定45歳。

子持ちの処女。

整形に等しいメイクの達人。

身持ちの固さが売りの、尻軽女。

他にも多くの女達が居たが、

本当の姿なんて、知る由もなかった。

その珍獣動物園のような店の中には、

少女のように可愛らしい、異国から来た女も居た。

 

この世界の事など、何も知らぬ無防備な私に、

こっそり教えてくれるのは、いつも異国の女だった。

「あの客は、危険。ついてっちゃダメ。」

「あの話には、乗ってはダメ。」と、

囁くために寄せてくる、彼女の横顔は、

うっとりするほど美しく、透き通った水の雫のようだった。

 

私は、異国の女の事を、もっと知りたいと思ったが、

ママも他の日本人の女達も口を揃えたように、

あの子に深入りするなと、釘を刺した。

何も知らぬ私でも、その頃には、どういう事かが、

おぼろげに理解できるようになっていた。

 

異国の女は、行きも帰りも迎えが来ていた。

それは、上等な扱いをされている意味ではなく、

自由を制限されているという意味だった。

私にも、個人的な事は一切話してなどくれないが、

寮の前に居る、野良ネコの事だけは、いつも聞かせてくれた。

「叱られるの、ご飯あげるのダメって。

どうして?腹が減るのは可哀そうよ。

腹が減るのは、すごく辛いね。だから、ご飯分けてやるよ。

腹いっぱいは、嬉しいでしょ?」と、微笑む彼女に、嘘偽りはなかった。

 

ある日も、仕事の合間を見て、異国の女に声を掛けようとしていた。

ネコちゃん、元気?とそれだけでもいいから、声を掛けようと。

私は、彼女の横顔を見つけたが、でも声は掛けられなかった。

あの水の雫のような透き通った肌は、薄暗く濁って見えた。

そして、次の日には、彼女は店から消えていた。

 

ふっと我に返ると、きくの額に水の雫が当たって消えた。

もう、かなり濡れているのに、

きくは、もっとやれと、せがむように私を見て、

今度こそは掴んでやると、身構えていた。

 

欲と闇に飲み込まれそうになりながら、

偽りで固めた女達は、みんな夢を掴もうと、手を伸ばしていた。

その夢は、明るい未来か。

それとも、大切な人の夢のためか。

金か、真実か、誠の愛か、今とは違う自分か。

いずれも、掴めば無くなる、水の雫に手を伸ばす、

このネコのように真っすぐで、

みな切なく美しく見えたのは、なぜなのだろうか。

そして、あの子は、透き通った雫を掴めただろうか。

 

きく「お前の掴もうとした雫は、何だったのだ?」

君と遊ぶ自分であり続ける事だったのかもしれないね。

 

きく「じゃ、掴んだんだな。」

掴んだのだろうか?

その鼻、スカシッペ出来る?

鼻でスカシッペって、どういうことだったのだろうか・・・