休日をいいことに、ダラダラ書いちゃったのです。
しかも、ショックを受けるかもしれない内容が含まれます。
おかまいなく、スルーしてください。
※ちなみに、不思議話(怪談)の方ではありません。
最近は、給湯器の不調のせいで、
風呂が沸かせずシャワーで済ませていたが、
珍しく風呂が沸いたので、ゆっくり入る事にした。
そうすると、きくも風呂場に入って来て、私をジッと見る。
「分かったよ。これだろう?」と声を掛けながら、
指で風呂の湯をピシャピシャ鳴らし、
今度はその湯を少量すくって、上に向けて跳ね上げてやる。
きくは、そうやって出来た、いくつもの水の雫が、
キラキラ光って落ちてくる様を捕まえるのが好きなのだ。
濡れる事など厭わずに、延々掴もうとするネコの様子を見ていたら、
私は昔味わった、あの感覚を思い出した。
ある日、私は自分で借りた訳でもない借金の肩になり、
2人の見知らぬ男に連れられて、黒塗りの大きな車に乗り込んだ。
精一杯の虚勢を張って、優雅に乗り込んだつもりだったが、
私の体は、余すところなく震えていた。
これを境に、平凡な主婦だった私は、
まるで異次元のような世界に、その後数年、身を置く事となった。
風俗店に連れて行かれ、面接という品定めを受けた。
そして、なんと、落とされた。
顔面神経麻痺でひん曲がった私の顔を見て、
その風俗店の店主らしき男は、
「これじゃ、うちでは使えないよね。」と言って笑った。
その意味すら分からぬ私は、負けじと笑って見せた。
しかし内心は、面接に落とされて安堵したような、
女として全面的に否定されたような、
そんな複雑でみじめな思いに駆られ、泣きたくなるのを堪えた。
風俗店の面接に落ちた私は、
結局、男達の組織の息の掛かった店で、ホステスとして働く事となる。
店のママは、見た事もない程、美しい女性だったが、
「こんな薄汚いブス、死ぬ気で何でもやってもらわないと、
すぐ辞めてもらうわよ。」と凄んだ。
そして私は、自分の僅かに残っていたプライドを捨て、なんでもやった。
煌びやかな女達と、それに魅せられてやってくる男達の、
噎せる程の欲が渦巻く中、
鼻からピーナッツを飛ばす、私。
鼻ピストルであなたのハートを打っちゃうぞと、のたまう、私。
高価な洋酒のボトルを一気に飲む、客のネクタイを頭に巻いてる、私。
ママは、そんな私を見て、困惑した表情で、
「うちね、そういうお店じゃないのよ、おかっぱちゃん。
なんでもやれって、そういう意味じゃないの。」
と呆れながらも、
「おかっぱちゃん、アレ見せて差し上げて。
ほら・・・鼻からスカシッペ。」と、無茶振りしてきた。
店で働く女達は、それぞれの武器を持って戦っていた。
永遠の35歳の美女、推定45歳。
子持ちの処女。
整形に等しいメイクの達人。
身持ちの固さが売りの、尻軽女。
他にも多くの女達が居たが、
本当の姿なんて、知る由もなかった。
その珍獣動物園のような店の中には、
少女のように可愛らしい、異国から来た女も居た。
この世界の事など、何も知らぬ無防備な私に、
こっそり教えてくれるのは、いつも異国の女だった。
「あの客は、危険。ついてっちゃダメ。」
「あの話には、乗ってはダメ。」と、
囁くために寄せてくる、彼女の横顔は、
うっとりするほど美しく、透き通った水の雫のようだった。
私は、異国の女の事を、もっと知りたいと思ったが、
ママも他の日本人の女達も口を揃えたように、
あの子に深入りするなと、釘を刺した。
何も知らぬ私でも、その頃には、どういう事かが、
おぼろげに理解できるようになっていた。
異国の女は、行きも帰りも迎えが来ていた。
それは、上等な扱いをされている意味ではなく、
自由を制限されているという意味だった。
私にも、個人的な事は一切話してなどくれないが、
寮の前に居る、野良ネコの事だけは、いつも聞かせてくれた。
「叱られるの、ご飯あげるのダメって。
どうして?腹が減るのは可哀そうよ。
腹が減るのは、すごく辛いね。だから、ご飯分けてやるよ。
腹いっぱいは、嬉しいでしょ?」と、微笑む彼女に、嘘偽りはなかった。
ある日も、仕事の合間を見て、異国の女に声を掛けようとしていた。
ネコちゃん、元気?とそれだけでもいいから、声を掛けようと。
私は、彼女の横顔を見つけたが、でも声は掛けられなかった。
あの水の雫のような透き通った肌は、薄暗く濁って見えた。
そして、次の日には、彼女は店から消えていた。
ふっと我に返ると、きくの額に水の雫が当たって消えた。
もう、かなり濡れているのに、
きくは、もっとやれと、せがむように私を見て、
今度こそは掴んでやると、身構えていた。
欲と闇に飲み込まれそうになりながら、
偽りで固めた女達は、みんな夢を掴もうと、手を伸ばしていた。
その夢は、明るい未来か。
それとも、大切な人の夢のためか。
金か、真実か、誠の愛か、今とは違う自分か。
いずれも、掴めば無くなる、水の雫に手を伸ばす、
このネコのように真っすぐで、
みな切なく美しく見えたのは、なぜなのだろうか。
そして、あの子は、透き通った雫を掴めただろうか。
きく「お前の掴もうとした雫は、何だったのだ?」
君と遊ぶ自分であり続ける事だったのかもしれないね。
きく「じゃ、掴んだんだな。」
掴んだのだろうか?
その鼻、スカシッペ出来る?
鼻でスカシッペって、どういうことだったのだろうか・・・