続き
最高峰の王ヶ頭(2084m)まではほんの一登り。ホテルやテレビ中継塔が目障りなほど立ち並び百名山と謳われた山頂に立った実感をどこでどう感じ取れば良いのか戸惑うばかりだ。此処を百名山の一つに選んだ深田氏もさぞやお嘆きの事だろう。足を止める事も無く王ヶ鼻に向かった。
王ヶ頭の無残な景色もここまで足を延ばせばそう苦にならないし主人も漸く山男に帰ってくれて私は清々しい気持ちで眼下の谷の錦の樹海に目を向ける余裕が生まれた。この時食べたミカンの美味しかった事!
ここから一旦三城(サンシロ)方面に向かいドンドン下り続ける。これから辿る予定の「二人の小道」は案内書によれば溶岩台地の中腹を水平にトラバースしており変化に富んでいると有ったので注意しながら下ったのだが分岐点が解らないまま、オカシイと思う程下ってしまい桜ロッジが在る石切り場に出てしまった。ここは4か所ある登山口の一つ石切り場。と言う事は一からやり直しと言う事だ。
もう一度地図を載せて置きましたので御参照下さい
疲れ切った足での登り返しは相当な時間を要するだろうし、それ以上に精神力も必要だ。とにかく頑張っていくしかないと言う決心とは裏腹に膝から崩れてしまいそうな疲労感が私を包む。12時を回っているがお弁当を開くでも無く15分休み何の会話も無いまま落ち葉を踏みしめひたすら登る。
主人は不快な表情が有り有りと見て取れる。二人の小道の分岐を見損じた責任は私に有るので仕方ないがこんな時は文句を言ってくれた方が気が楽になる。展望もはかばかしくなく気分は滅入るばかり。普段だったら良い気晴らしになるはずの紅葉、多分、鹿だろうがガサガサッと走る抜けていく音もそれを声に出せず私は自分の世界の中で歩くしかなかった。ガサゴソと言う落ち葉を踏みしめる重い足音。何時まで経っても出口を見せない樹林の中のジグザグ登り。辛い。
桜清水でロッジで休んでいる時に口にした主人の「今日は少しも楽しくない」と言った言葉がまた頭をよぎる。何が悪いのか、どうして歯車が嚙み合わないのか。
1時間近く歩いてもう限界かと思われたとき突然視界が開け前方に王ヶ頭が見えた。左に大文字の岸壁が迫る地点である。暗闇から一気に脱出した気分を意識した。
薄く剥がれた石が道の上に崩れ落ち足元から三城に凪落ちる斜面はまるで雪の様に一面真っ白だった。気が付けば主人も平静を取り戻し息が詰まる様なあのいやーなムードは何処にもない。前方に王ヶ頭、眼下にのびやかな三城牧場を俯瞰する一地点で涼風に憩いながら「自然の力は凄い。私には出来ない心の入れ替えを難なくやってのけてしまうのだから」と心で呟いていた。後は一気に王ヶ頭まで登り上げるだけだ。
【さぁ何処でも勝手にお歩きなさいと言った風だ】そう記した深田氏の感激は、景観を壊す鉄塔などにそのまま伝わる事は無いが怪我の光明と言うべきか、あのまま二人の小道を歩いていたら味わう事の無かった深田氏の世界を体感する事は出来なかっただろう。
昼食を忘れていた私達は王ヶ頭すぐ下の道のド真ん中でラーメンをすすりカメラに納めきれない景色と山を埋め尽くす紅葉を楽しんだのだった。
松本の奥座敷と言われる浅間温泉で共同浴場を探して狭い路地に入り、こじんまりした旅館で教えて頂いた枇杷の湯の暖簾を潜った。「高そうな旅館ね」と言って通り過ぎたそれが共同浴場だったのだ。 初代松本城主・石川数正公の時代に此処に湯殿を置いたのが始まりという事から歴史は古い。
温かい風呂に浸かれば美しい残像と心地よい疲労感だけだった。終わりよければ全て良し、めでたしめでたし。
何十年も前の記録にさえ、案じてしまうのですから年齢や体力では尚更でしょうね。
山が好きだけでは登れないと感じました。
最後の枇杷湯にほっとしました。
山に、こういうのがあると心までが温かくなります。
緊張して読んでしまいました。
ありがとうございます。
辛い...でも...
お二人のお写真がね...
やっぱりご主人様の優しさ愛情をすっごく感じるんですよ(*^^)v
(ああ~~~たか様愛されてらっしゃる~~~ヽ(^o^)丿(*^^)v)
辛い想い、思い出があったからこそ余計でも自然の有難みを感じることが御出来になったんだろうなぁ~~~
ああ~~~素敵な山登りに体験記録(*^^)v
お二人の絆をしっかと感じさせて頂きましたm(__)m(*^^)v\(^o^)/
雄さんは自分が車で道を間違えた分、何も言えなかったのでしょうね。。。
山の前では人間の悩み事なんて、取るに足ら
ないちっぽけなもの、とは言え、昨日の写真に比べて雄さんのお顔がにこやかに変わっているのでホッとしました。(笑)
やっぱり山は良いですね~!
街中と違って山間部などでは、ガソリンスタンドが少ないので前もっの給油が必要ですね。
私もそんな体験があります。一度そんな思いをすると早め早めの給油を心がけるので、
それも良い体験だったと言えるのかもしれません。
美ヶ原も俗化して、深田久哉さんが日本100名山に選ばれ、
尾崎喜八さんが、登りついて不意にひらけた眼前の風景に
しばらくは世界の天井が抜けたかと思う。 と書いた世界は既にないですね。
珍しく今回は少し歯車かみ合いませんでしたね
雄さんもどこかで言い過ぎたとは思ってるのでしょうね
どこかで仲直りのタイミング見つけるのが大変なんですよね
最後温泉に浸かって疲れが取れて気持ちもほぐれてよかったです
登らずに遠くから眺める山と実際に足を踏み入れるとでは全く違いますね。
山は一寸した不注意がとんでもない結果を招くものです。
今回は計画した私の読図の見間違いが引き起こした失敗でした。それが更に悪い方に悪い方にと( ;∀;)
今では苦笑して済ませられる登山となりましたけどね。
枇杷の湯、400年以上前に既にそう命名されていたと言う事ですから、その効能は当時も注目されていた植物だったのですね。
そう(^^) 私の気持ちで一緒に登って下さったなんて嬉しくて感動してしまいました。
自然はhimeさんと同じく優しく偉大なものですね。 噛み合わない歯車を噛み合う様に導いてくれますものね。
私も雄さんも完璧な人間では有りませんから長い時を共にしていますと何度かは衝突する事も有ります。
そして気まずい思いで仲直りしながら平穏な生活に戻る・・・
まあ、こんなものなのでしょうね、人生って。
えっ!!!
>・・・目障りなほど立ち並び百名山と謳われた山頂に立った実感をどこでどう感じ取れば良いのか・・・
そうでしたか~!
>深田氏もさぞやお嘆きの事だろう
うんうん
>・・・主人も漸く山男に帰ってくれて私は清々しい気持ちで眼下の谷の錦の樹海に目を向ける余裕が生まれた
そうでしょう、そうでしょう!
>分岐点が解らないまま、オカシイと思う程下ってしまい・・・
山にはつきものですね
>と言う事は一からやり直しと言う事だ。
え~っ
地図上で左下の石切り場をやっと見つけました!
こんな感じでしたか?
綺麗な紅葉で身も心も洗われませんでしたか?
>15分休み何の会話も無いまま落ち葉を踏みしめひたすら登る。
なんだかその気持ち分かる気がします。
>不快な表情が有り有りと・・・
これもアルバムに書いているんだ!
いつもの雄さんじゃなく「主人」というところに注目・・・
>『辛い。』
気分はでした?
あっ、ご主人にほのかな笑顔が・・・
>あのいやーなムードは何処にもない
良かったですね~!
ありゃ、たかさん可愛い表情で、心のなかに「ごめん」が入っているのかな?(笑)
ご主人もいい顔されてますね~。
>昼食を忘れていた私達
笑いましたよ、そんなものですかね?
>終わりよければ全て良し
楽しいレポートでした。
有難うございました。
美ケ原は多くの人が言っている場所なので観光でならばスムーズに行けても登山口となると道迷いして今回の様な事になりかねません。
それを責めると絶対に喧嘩になってしまいます。偶に罵り合っている姿を見たりもしますが山では絶対タブーですよね。
山はやはり風景を楽しみたいですし出遭う動物に感動したいものです。そしてそれを語りながら歩きたいですよね。
それが曇ってしまったら何の為の登山か分からなくなってしまいます。 雄さんの笑顔で美ケ原が名の通り美しく纏められ思い出が楽しいものに変わったのは幸いでした。 gabaoさん、表情の細かな所まで見て下さって有難うございました。
まだ行ったことが無いのです。
でも流石、こういう状況でも冷静さを失わない行動をされるたかさんはベテランの登山家です。
お疲れ様でした。
私は今、山野草の勉強を始めました。