プラマイゼロ±

 某美少女戦士の内部戦士を中心に、原作、アニメ、実写、ミュージカル等問わず好き勝手にやってる創作、日記ブログです。

出逢い

2014-01-10 23:59:31 | SS







 後悔していた。

 駅で偶然、新しい塾の体験入学募集のポスターを見てその場で入ってみることに決めた。場所の都合も良かったし、もしかしたらそこで最高の教えを請えるかもしれない、という期待をしていた。
 だからしばらく忙しくなるかも、と会話の流れで言ったら、美奈にひどく嫌味を言われたのも覚えている。これ以上塾入ってどうするの、とか、それ以上勉強しなくてももう十分でしょ、とか。そして最終的にあたしとの時間が減るでしょなんてぐずぐず言われて、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちがあったこともはっきり記憶に残っている。

 でも、せっかくお勉強ができる機会を捨てるのは嫌だったし、それこそ、彼女のためにお勉強も何もかも簡単に放り出すような私は、きっと軽蔑されてしまうだろうから。

 私が行くのは週頭から一週間の集中セミナーで、授業について来られたら正式に入学手続きをしていただきます―と、当然のように最初の説明会で告げられて、その時点であまりいい気はしなかったのだけれど、授業がいざ始まってみて、やっぱり、という思いに変わるのに時間はかからなかった。

 いかに知識を蓄え、それを還元し周りに役立てるか、というのが私は学習の本分だと思っている。もちろんそれがすべてでないことも知っているけれど、私はそれが好きで、ためた知識そのものは決して無駄にならないと信じているから。厳しく学場せてもらうのは、覚悟していたつもりだった。
 でもその塾は、いきなり、いかに人を蹴落とし一番上に立つか、一番になるために頭に知識を詰めろということをとくとくと語るのみで。
 人を蹴落とし自分が上に立つために勉強する―という人も、もちろんいるのだろう、とは思う。まったく歓迎はできないけど、悲しいけどそういう人がいるという現実を認めるくらいには、私は今の世界に慣れてしまっている。

 だけど、自分がそうなれるかというのはやっぱり別だった。

 そこは、自分が高みに上がるためには他人を落とすという熱い空気が蔓延していた。私だけが浮いていた。人と共有する場所に馴染めないのは慣れていたつもりだったけど、暖房の熱と違い、どこか底冷えを起こすような暗い熱の中で息が詰まりそうになる。

 人を蹴落として視線が交わる場所が変わったところで、自分のいる場所は変わらないというのに。

 結局、わずか一日で私はひどく疲弊していた。お勉強は手段という考えは共有できるのに、目的が違う。
 それでも、短期集中のセミナー、ゴールはあるし、続けていれば見えてくるものもあるかもしれないと思った。たった一日で答えを出すのは早計かとも。







 自分で決めたことだけど、やはり塾に向かう私の足取りは重かった。高圧的な講師は過剰な言葉で塾生を追い立てるようにしていて、教室の空気はぴりぴりと張りつめていて、息を吐く音すらはばかられるような気がした。
 それでも、室内は熱い。気温でなく、熱気が渦巻いている。自分が上に立つという目的がはっきりした人たちが、闘争心と錯覚するような空気を作り上げている。

 ここは教わるところではない。戦うところだ。戦士の身である私でも、戦うことが好きとは思えないから、はっきり思った。

 ここは、私の居場所ではない。






 くたくたの頭を抱え、塾を出て、もうすっかり真っ暗になった街でいつもは少し不安を覚える暗さにどこか安心する。息詰まる教室から解放されて、それでも明日はまた朝からここに来なければならないのかと思うと気が重くなった。
 学校のあと毎日通い続けて、やっと週末。学校がない残り二日、朝から晩まで拘束されるように講義に出なければならない。気が重かったけれど、自分で決めたことだし、学習をしているのは確かだからと自分に言い聞かせていた。
 事実、かなり参考書のページは進んだし、知識そのものは増えた。周りの空気を気にしなければ、勉強そのものは決して苦ではない。周囲の目を無視することも、慣れているはずだ。

 とはいえ、頭も体も疲れていた。でも、なぜかまっすぐ家に帰る気にはならなくて、同級の生徒たちが流れるように街に散っていくのをぼんやり見ていた。
 母も出張中だったし、帰っても誰もいない。お腹が空いたという感覚があるのに、それをどうにかしようという気にならない。今の状況がまずい、という漠然とした危機感が、どこか他人事みたいに感じる。立ち止まっても迷惑だから夜の人の波を行っても、自分でどこに向かっているのか、よくわからない。

 それでも、やっぱり私は戦士であるらしかった。

 普通の人間として著しく注意力が低下している感覚はなんとなくわかっているのに、不意に不穏な気配を感じる。レイちゃんでもないのにそんなことがわかるんだな、そんな妙に危機感のない感覚で思って、とにかく人ごみから離れなくてはともつれかけた足で駆けだす。自分より守らなくてはいけないものだけははっきりしているから、とにかく人のいない方に走った。幸いにして、不穏な気配は私を追ってくれた。
 走るごとに、体に血が通っていく感じがする。人が、店や民家や車からの光が、街灯がどんどん乏しくなっていく方に、狭く、誰の気配も感じなくなる方に自分を追い込む。気配はついてくる。息が上がって、ひさしぶりに生きている実感がわいてくる。参考書が詰まった鞄とほんの少しの恐怖を胸に抱え、それでも走る。雑踏から遠ざかり、自分の呼吸音と胸の音と足音しか聞こえなくなるころ、街から忘れ去られたような一角、月明かりしか差し込まない路地の片隅、行き止まりに。
 追いかけっこの終わり。不穏な気配は一定の距離を置いて、やはり私を追い込んできた。

 息を何とか整え、壁に背中を預け誰もいない空間を睨む。呼吸を整え、少しでも余裕のある表情になるように努力する。ここに追い込んだのは、私も同じだから。

「Vちゃん」

 夜だったけど、人の気配からはるか遠い場所だから声が出せた。とても静かな夜だったから思いのほか大きく響いて、自分で少し驚いた。暗がりの中から少しの間をおいて、すぐそばの壁の上から、彼女は闇夜を祓うように金糸のような髪をなびかせ、羽のような身軽さで私の目の前に着地した。

 誰がおりてくるか、はっきりわかっていたのに。それでも、その姿は。

「・・・空から降ってきたから、天使かと思っちゃった」

 さっきより声を落として、いろんな意味を込めて。ルナみたいに抱き留めることはできなかったけど、挨拶をした。『彼女』に会うのはほんとうに久しぶりだったから。美奈からもずいぶん離れていた気がするけれど、それにもまして、彼女は。
 でも、あいにく機嫌がいいわけではないらしい。暗闇の中、マスク越しでも、明らかに不機嫌ですよとわかる顔をして腕を組み迫ってきた。

「・・・いつ気づいてたの?」
「塾から出たあたりから、かしら。すぐ走ったもの」
「だったらなんでこんな真っ暗なとこまで走って逃げるわけ?」
「こんなところにでも来ないと、私みたいな普通の中学生がセーラーVと話しているのはおかしいでしょう?」

 ひさしぶりに会った彼女は、私が戦士として目覚める前から、それこそニュースや新聞や週刊誌でしか見られなかったその姿で。
 その気配を感じてから、ほかの人に見られてはいけない、と思った。もちろんセーラー戦士が活躍しだしてからVの話が世間に流れなくなってもう久しいし、法律的にもなにか問題があるわけではないけれど、誰にも見られたくなくて、誰かに知られるのが怖くて、私は彼女が他の人の目に触れないように胸を昂ぶらせながら必死で逃げた。

「その姿で会えるなんて思ってもみなかったし・・・どうして今日はヴィーナスじゃなくてセーラーVのほうなの?」
「そりゃー・・・正義の味方として、たまには夜の街のパトロールすることだってあるわよ。でもヴィーナスだったらほかの人も、もしかしたらあなたみたいに夜ふらついてる戦士に見られたらなにか事件発生かもーって思うじゃない。だから、戦士として外にいるけど、問題が起こってるわけじゃないわよっていう区別のためよ」

 あなたみたいに、という部分をやたらと強調する彼女は、こんな夜遅くに外でぼんやりしていた私を遠回しにたしなめているのかもしれない。もちろんほかの戦士の目にたまたまヴィーナスが触れたら何事かと思うだろうし、変身して彼女を追いかけるだろうから、それもきっと嘘ではないのだろうけど。

「あなたみたいな危機かんりのーりょくがない子がこんな時間にうろうろするから、あたしだってパトロールせざるを得ないのよ。週末の夜なのに」
「・・・そうね。確かに・・・ぼんやりしてたわ」
「お勉強ばっかしてるからそうなるのよ」
「・・・ごめんなさい」

 やはり彼女の機嫌は芳しいとは言えない。私は素直に頭を下げた。言ってることは最もで、反論のしようもない。それでも申し訳ないというよりうれしい気持ちが勝ってしまうのは、ほんとうに久しぶりに彼女に会えたからだと思う。
 まさかこうやって仲間になって一緒に戦うことになるなんて思っていなかったし、こうやってこんな夜に出会うことになるなんて想像もしていなかったけど、それでもいつもニュースや新聞で、見ていた彼女。仲間になって一緒に戦って、私が塾に通うと言って、私との時間が無くなると言ってくれた彼女。

「でも、ぼんやりしてた私を心配して、追いかけてくれたのよね」
「・・・たまたま通りがかっただけよ」
「そうね。でも・・・会えてうれしいわ。Vちゃん」

 ほんとうに久しぶりで、胸が熱くなる。走っているとき以上に全身に血が巡る感覚がする。ずっとお勉強をしていたのに、頭が今ようやく働き始めた気がして、表情が勝手に緩んでしまう。
 彼女の方は相変わらずご機嫌ななめ、という表情をしている。マスク越しのしかめっ面で私の顔を覗き込んでくる。

「なんでそんなにうれしそうなのよ。あたしは怒ってるのに」
「そうね・・・おかしいわよね。でも、会えてうれしいからかしら」
「あなたが放置したんじゃない!」
「それでも、わざわざ来てくれたんでしょう。Vちゃんに変身までして」
「そんな風にふらふらしてるからでしょう!今日は特に顔色も悪いしっ・・・一日も休まずに根詰めて塾ばっか通って・・・こんな遅くまで・・・」
「毎日見てくれたの?」
「だって・・・だって心配じゃない!」

 吐き捨てるように彼女は言って、きれいな髪を翻して私に背を向ける。少しだけ震えている肩は、私への怒りなのかもしれない。たぶん、私が隙だらけだったからこそ、彼女も私に隙を見せたのだろう。今週をすべて潰して、ようやく出会えた。
 ここまでさせていることに胸が痛むのに、ひどいことをしてしまっていたということに苦しくなるのに、ここまでしてくれたことがうれしいと思う気持ちの方がはるかに勝っていた。私は思わず後ろからその腕を掴んだ。

「・・・待って」
「あたしは帰るわよ、もう・・・亜美ちゃんも早く帰りなさいよ」
「帰るなら送っていくわ。送らせて」
「今の状況わかってるの!?あたしは戦士だけどあなたは普通の中学生でしょうが!」
「だったら私も変身するわ!今日はあなたひとりで帰さない!」

 周りに人がいないとはいえ、うっかり出してしまった声は夜の街に高く響いた。しまったと思ったけど、それでも彼女は振り向いてくれた。自分の言ったことに顔に熱が上がるのを感じるけど、言ったことは取り消せない。
 熱が巡る感覚に頭がくらくらする。塾の熱気とは、まるで違う。

「・・・Vちゃん。明日、空いてる?」
「明日・・・」
「よかったら私と会って」
「・・・塾は」
「やめるわ」
「・・・嘘。だって」
「今決めたの。もうあそこには行かない」
「そんな・・・」
「あなたさえよければ・・・あなたがいいって思えるまで何時間でも何日でも待つから」
「・・・・・・・・・」
「あなたとの時間が欲しい」
「・・・あたしが同じこと言ってもあなたは拒否したじゃない」
「だから、私も待つって決めた」

 ずっと憧れてたあなたに会えたから。

 お勉強をおろそかにしている自分は、口ではどうと言っても評価されないと思っていた。好きな人にふぬけた姿を見せてしまうことは、彼女が好きと言ってくれる私ではないような気がしていた。
 でも、私の居場所はここで、お勉強はどこだってできるから。彼女の気配を感じてようやくそれを思い出した。それこそ、お勉強したいことは、彼女が私に振り向いてくれる気になるまで待ってる間にでもやってしまえばいい。

「やっと目が覚めたの」

 彼女をひと目見ただけで、そう思えてしまうのは、きっと。

「・・・・・・なんで、Vちゃん?」
「え?」
「Vちゃんって呼ばれるの・・・恥ずかしいんだけど」
「だって、VちゃんはVちゃんだし」

 真面目なふりをして言い返すと、彼女は不機嫌そうな顔をして変身を解除した。私の中で光が弾ける感覚。ああ、やっぱり、天使みたいだ、と思う。出会う前から知っていたその姿でなくっても、彼女は少しも変わらないけど。
 ふて腐れた顔。それでも、ちゃんと私を見てくれている。

「これで、私が美奈を送っても問題なくなったわね」
「はあ?」
「帰りましょう。私も、戦士の姿とはいえあなたを夜に歩かせたくないの。変身前ならなおさら」
「・・・・・・・・・」

 勉強する理由を、ようやく思い出した。大切な人を守るため、だ。大切な人にこんな思いをさせてこんな風に夜に出歩かせて、得るものなどない。私は美奈の手を引く。ここまで素直になれたのは、きっとこの夜に天使に会えたからだ。美奈はしばらくむむむと言って、口元をとがらせて言う。

「・・・・・・こないだ、おいしいスイーツの店、テレビでやってたの。電車でちょっと行かなきゃなとこだけど」
「そうなの」
「亜美ちゃんがおごってくれるなら、明日、いっしょに行ってあげてもいいけど」
「じゃあ、お財布は覚悟しておくわ」

 彼女は、ついてきてくれた。冬の空気が、火照った体に心地よくて私は笑った。


 






                     **************************


 亜美ちゃんがセーラーVを好きだったらなという妄想と、SSにVちゃんを出したくてごりごりやってみました。

 原作初期の「Vちゃん」呼びがすんごい好きです。
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