GOT7小説 [REWIND] 第21話

2020年07月31日 | GOT7小説




グランドハイアットソウルの最上階にある一番高級な部屋。
軽い気持ちで宿泊するような部屋ではないことはベンベンもわかっている。
彼が自分の為に、どれぐらい金銭的に尽くす気なのか、試す気持ちでさっきから無茶な願望を口にし続けている。

「このホテルで一番高いシャンパンが飲みたい。」
「この窓の向こうに花火が上がったら嬉しいな。」
「セスナに乗って夜景見たいんだけど。」

一面のガラスに額を付けるように外の景色を覗き込みながらベンベンが口にする。

「おお、おい、シャンパンはいいけど、あとの2つは今すぐには無理だろ。」

焦ったように言いながらジャクソンは少し疲れたように椅子に腰掛けた。
正直昨夜からほとんど休みなく働いている。拠点は香港だが、世界各国と取引をしている企業であり、代表理事という役職は普通の社員とは当たり前に業務内容が違う。

しばらくしてドアがノックされ、ワゴンに乗せられた軽食と高級シャンパンが運ばれて来た。従業員がシャンパンをグラスに注いで静かに出て行った。

「ねえ、何に乾杯する?」
「・・・とりあえず、お前とこうやって話す機会に恵まれたことだね。」

ジャクソンはそう言ってグラスを持ち上げた。
明らかに疲れている表情をしているジャクソンを見て、ベンベンは唇を軽く噛みしめた。
グラスの合わさった音は鋭く部屋に響き渡る。シャンパンを一口飲んだジャクソンは、目を丸くした。

「・・・美味いけどキツイな。空きっ腹には危険過ぎる。」
「機内食食べなかった?」
「爆睡してた。」
「・・・疲れてるんなら別に今夜じゃなくても良かったんだよ?無理しないで欲しいよ。」
「いや・・・。今日逃したらもう、お前に逢えないんじゃないか・・・とか色々考えた。」
「ごめんね・・・急に。」

珍しくしおらしい様子のベンベンを見て、ジャクソンはふと笑顔を見せた。自分のことを心配してくれたことも嬉しかったし、これ以上心配も掛けたくないと感じたからだ。

「いやあ・・・単純に、嬉しかったよ。だから飛んで来た、本当はね。」
「僕、あれからずっと考えてたんだよ。ジャクソンさんはどうして僕を選ぶのか、ってね。だって最初・・・元々はマークさん狙ってたじゃない?それを酔わせて僕が美味しく頂いちゃったわけだけど・・・その・・・俗に言う・・・セフレ?・・・そういうのじゃなくて、何で僕を香港まで連れて帰って一緒に暮らしたいだなんて言うのかな、って。」
「確かに・・・確かに最初は酔った挙句の事故みたいな感じで始まったけどさ。一緒に飯食ったり酒飲んだり、まあベッドで過ごしたり・・・そういう時間が俺にとって普通に楽しくて幸せで、香港人でも韓国人でもないお前が、不思議な存在でこう・・・妖精みたいに思えて来ちゃったんだよ。」
「こんな汚れた妖精いないでしょ。」
「お前の男遍歴のことはよく知らないが、少しも汚れてないと俺は思ってる。異国で一生懸命生きてる等身大のお前しか知らない。」

グラスを手にしたまま、ジャクソンは真剣な眼差しをベンベンに向ける。
いつもオーバーアクションで人一倍声が大きく賑やかな男だったが、黙っている姿は文句のつけようのない美形だ。
改めてベンベンは実感する。
僕にはもったいない・・・

「花火を打ち上げてくれとかプライベートジェット買えとか息するように言う男だよ?」
「わざとだろ?俺に愛想尽かされようとしてるんだろ。俺は馬鹿じゃない、それぐらいわかる。」
「優雅な暮らしには憧れてる・・・。今も。でもそれは・・・自分で努力して、自分の稼いだお金で体験するべきなんじゃないか、って最近思い始めたんだよ。」
「俺はお前がそういう人間だ、って最初から思ってた。だからタイからわざわざ韓国までやって来て美容師の勉強してるんだろう?お前の根っこにあるのはそういうしっかりした考え方だと思う。だから俺はお前といると楽しかった。俺も異国で仕事するために、努力は惜しんでないからだ。」

知り合ってから今までに感じたことの無い、ピリピリとした空気感。
ベンベンはジャクソンの言葉の1つ1つが嬉しかったが、どうしても香港で暮らそうと決心することが出来なかった。
離れてしまうにはあまりにも思い出が多過ぎる場所だ。

「クンピム。お前が俺の事どう思ってるか・・・聞かせてくれ。」
「僕には・・・もったいない人だと思う・・・・。」
「好きか、そうじゃないか、どっちなんだ。」
「好きだよ。大好きだよ。楽しいしカッコいいし飽きることの無い魅力的な人だもん。」
「それでも・・・香港には来れないか・・・?」
「・・・・ごめんなさい。」

ベンベンは堪えきれなくなり、大粒の涙を零した。ジャクソンは立ち上がって両腕を広げた。

「泣くな。おいで。」

ベンベンは素直にその腕の中に飛び込んだ。頭を撫でられて、優しく包まれる。

「あの石の指輪は・・・俺が有効活用することにするよ。」
「・・・うん・・・。」
「何となく査定に出してみたら、500万ドルだとさ。」
「・・・ふうん・・・・ええええええっ!?」

思わずベンベンの涙も引っ込んでジャクソンから飛びのいた。

「臨時収入、ってことで俺は江南の一等地にちょっとした物件を買おうと思う。下の階はお前が将来店持つ時のために、最上階は俺の別宅。クンピムが住む家だな。」
「・・・ちょ、何・・・。」
「お前を香港に連れてくのは諦めた。不本意ながら遠距離恋愛決定だ。」
「でも・・・でも・・・。」
「お前の口から好きだって言葉が聞けなかったら全て終わりにしようと思ってた。でも、俺のこと好きなんだろ?大好きだって言ったよな?」
「・・・何か・・・無性に悔しいんだけど・・・。」
「この短い時間でお前の俺に対する想いが聞けた。過労死寸前でも来た甲斐があったよ。」
「ほ・・・本気なの?」
「仕方ないよ、お前が頑固だから。こっちに好きな男がいて離れたくないって言うんなら話は別だが、俺が好きだって言うんならこうするしかないじゃないか。俺だってお前を手放したくないんだし。」
「遠距離恋愛とかしたことないんだけど・・・。」
「あ、俺も。」
「大丈夫・・・なのかなあ・・・。」
「余った金でお前の貞操帯買うよ。」
「嫌だ!絶対断る!」

ベンベンは泣き笑いの顔でジャクソンの胸にもう一度飛び込んだ。ふと顔を上げてジャクソンを見つめる。

「あ、ジャクソンさんのための別宅はいいとしても、僕の為にそのお金使わないで。僕は自分の店も家も、自分で手に入れたいの。」
「ああ、はいはい、わかりましたよ。貞操帯だけ買うよ。」
「いらないって!」

叫びかけたベンベンの唇はキスで塞がれた。騒がしかった部屋が急に静まり返る。ベンベンが着ていたシャツは、あっという間に脱がされ床に放られた。

「話するだけだ、って言ったじゃんかあ・・・。」

甘い声と視線でベンベンが彼を見つめる。

「おお、そうだった、俺としたことが。たまに理性が猿以下になってしまうんだ。病気かな。」

ジャクソンは真顔でそう言ってベンベンのシャツを拾い上げた。着せようとするジャクソンの手を振り払ってベンベンはジャクソンの身体をベッドに押し倒した。

「ホント意地悪だよね。絶対、絶対朝まで寝かしてやんない!」

あまりの勢いに呆然としているジャクソンの上に、ベンベンは嬉々として覆いかぶさった。
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平和市場の一角にあるヨンジェの祖父が経営していた古本屋の前に、1台のトラックが停まった。
シャッターが上がったままの古い店内では、既に作業員達が数人、本を乱暴に箱に放り込んでいる。趣のあった薄暗く古い店内は、少しでもその均衡が崩れると乱雑に姿を変えて行く。埃の舞う店内で、作業員達は黙々と動いていた。
そこに息を切らしてジェボムが駆け込んで来て、作業員達が一斉に彼を見る。

「ちょっと・・・ちょっと待ってくれませんかっ。」
『アンタ誰。』
「ここの亡くなった店主の知り合いです。ここの本は俺が買い取りたいんです、ちょっと待ってもらえませんか。」
『ダメだよ、その話買い手の財団からも聞いてて今日まで工事を延期にしてたんだ。期限は過ぎたよ、諦めな。』
「お願いします、必ず買い取りますからっ。」

ジェボムは作業員の中でも一番年上の責任者らしき男に懇願するように縋った。
男は鬱陶しそうにジェボムを払うと、本の入った段ボールを持ち上げた。

『どけよ、作業の邪魔だ。』
「もうちょっと待ってください、お願いします。」
『うるせえなあ。』

作業員の男は段ボールごとジェボムに投げつけた。ジェボムは、本の下敷きになるような形で床に尻もちをつき、棚の角で肩を強打した。
痛みに顔を歪めながらもジェボムは床にひれ伏すようにして、懇願した。

「あと1日だけお願いします!」
『1日で何がどう変わるんだ。無駄だろう。』
「明日のこの時間までに俺が買い取れなければ、諦めますから・・・。」
『・・・ったく面倒くさいヤツだなあ。おい、先に足場組むぞ、店ん中は後回しだ。』

作業員達は、座り込んでいるジェボムを避けるようにして、外に出て行った。


夕方になり、作業員達は今日の作業を終えて帰って行った。
床にばらまかれた本達を、丁寧に箱に詰め込んでいたジェボムも、肩の痛みに耐えきれず蹲る。薄いブルーのシャツには血が滲んでいた。
明日までに何が出来るんだ、俺なんかが・・・
棚に凭れるようにして座り込み、項垂れる。悔しくて涙が止まらなかった。プライドをかなぐり捨ててでもこの本を守ろうとするのは、店主に対する恩返し以外の何物でもない。自分の癒しでもあったこの貴重な本の数々を、どうにかして傍に置いて故人を偲びたかったのだ。
突然ジェボムの携帯電話が鳴って、ジェボムは涙を拭って電話に出た。

「・・・もしもし・・・。」
『Hey,ジェボム。どこにいるんだ?18時からお前にアポ取ってただろ。』

電話の相手はワン・パシフィックのワン・ガイ代表理事だ。
新しいソフトの開発の件で、今日の18時に会う約束をしていたのを失念していた。

「ああ・・・・・悪い・・・・。」
『どうした?具合でも悪いのか?』
「平和市場にいるんだ今・・・。」
『平和市場・・・?OK,ならそこに行くよ。話はどこでだって出来る。』
「ああ・・・。ごめん・・・。」

電話を切ってジェボムは天井を仰いでいた。
このタイミングで彼と会うことになっていたのは、運命なのか・・・?ズキズキと痛む肩を押さえながら、ジェボムはただ目を閉じていた。

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「ジェボム?Are you OK?おい、しっかりしろ。」

頬を軽く叩かれ、ジェボムは我に返ったように目を開けた。心配そうにのぞき込んでいるジャクソンの顔があった。

「ああ・・・ジャクソン・・・。」
「怪我してるのか?血が出てるぞ。」
「肩をちょっと・・・。」
「何があった?何なんだ、ここ。本屋か?」
「店主が亡くなって・・・売りに出されたんだ。」
「お前と何の関係がある?」
「本が好きで・・・俺はここの店主だった爺さんと仲良くしてた。俺を本当の孫みたいに可愛がってくれたんだ・・・。」
「それとお前の怪我とどういう関係があるんだよ。」
「土地と建物は跡地に病院を建てる財団が買い取ったんだけど・・・この本をどうしても俺は手放したくなくて・・・。価値のわからない奴らに渡ったらゴミのように捨てられてしまう。現に・・・・今日作業員が来て、このザマだよ・・・。」

雑然とした店内を見回してジェボムが言う。ジャクソンは、足元に積んである古い本を数冊パラパラと捲った。

「随分古い本だな・・・。」
「今じゃなかなか手に入らない貴重な本もあるんだ。爺さんが手を尽くして集めた大事な本達なんだ。」
「何冊あるのか知らないが・・・総額でいくらぐらいになるんだ?」
「ざっと見積もって3億ウォン行くか行かないかだろう、って。」
「・・・・手放したくなきゃ、買い取るしかないんだろ。」
「ああ。でも、いくら搔き集めてもとてもじゃないけど・・・。」
「期限はいつだよ。」
「・・・・明日まで待ってもらった。」
「What?」

煤けた店内にジャクソンの訛声が響いた。

「明日?明日になったらどうなる?」
「本は運び出されて、ここは解体・・・・。」
「お、おおおOK、とりあえずその財団とやらに俺が本を買い取る話をつける。この本は、トランクルームにぶち込む手配をする。お前はとにかく病院へ行くんだ。まだ血が出てるじゃないか。」
「いいのか・・・?お前が今言った話、実現するのか・・・?」
「何とかするから。顔色悪いぞ?」
「・・・・ありがとう・・・・助かった・・・・。」

ジェボムはそのまま崩れるように意識を失った。慌ててジャクソンが抱き起す。ジェボムの青白い顔は汗でびっしょりと濡れていて、身体が異様に熱くなっていた。

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ジェボムが次に目を覚ましたのは、病室だった。ジャクソンが病院まで運びこんで、怪我の処置をされ、そのまま入院させられていたのだ。ぼんやりと目を開けると、ジニョンが心配そうにこっちを見ていた。

「ジニョン・・・。」
「ジェボムさん。気が付きました?」
「・・・病院か。」
「怪我の出血が酷かったのと、睡眠不足と風邪。・・・心配させないでくださいよ。」
「ジャクソンは・・・。」
「用があるから、って。また様子見に戻って来るって言ってたよ。あの人がワン・パシフィックの代表理事なんだね。思ってたよりずっと若くて、気さくな人だった。」
「ああ・・・彼には頭が上がらない・・・。」
「俺見て怪訝な顔してたけど、ジェボムさんと俺が同じ指輪してるの・・・気付いたのか、Wow,congratulation・・・って言って笑ってたんだ・・・何なの?」

ジニョンの言葉にジェボムは思わずふふっと笑った。

昼過ぎに仕事に戻ったジニョンと入れ替わるようにジャクソンが病室に入って来た。
点滴を受けていたジェボムは縋るような目で彼を見る。

「何とか本は死守した。お前の職場の近くにあるトランクルームを借りてそこに入れてあるから。」
「ありがとう、本当に・・・恩に着るよ。お前が望むことなら何でもしたい気分だ。」
「ほう?」
「夜の相手以外ならな。」
「ぶはははっ、お前はタイプじゃない。・・・・Oh,それより。ジニョンとお前はそういう仲か?そうなんだろ?」
「・・・指輪見て何か言ったんだろ、ジニョンが怪訝な顔してたよ。」
「見せびらかしてるから仕方ないだろ。はは~んお前はああいうのがタイプなんだな。」

ジャクソンの言葉にジェボムは少し照れくさそうにはにかんで俯いた。

「ところで、昨日話す機会を逃したソフト開発の話だけどな・・・。」
「ああ、そうだったな・・・仕事の話が出来なくて悪かったよ。」
「現行のソフトの評判がすこぶる良くて、親父がお前を気に入ってる。ソウルにソフト開発の会社を興そうかって意気込んでんだけど、お前を引き抜けないか、って。」
「え?」
「お前が小さなソフト会社を立ち上げるんだ。最初は雇われ社長だけどね。報酬は今の倍は出すよ、どう?お前がいる会社には断れない程度の金を出すつもりだけど?」
「・・・・急にそんな話・・・。」
「考えといてくれ。ああ、給料はしばらく無いかな、古本買い取りに使ったの、お前の給料で立て替えてる感じだから。」
「もう断る余地ないじゃないかよ。」

呆れたようにジェボムが言う。急に動き出した自分の周りの環境に、まるで夢の中にいるかのように思えた。
1人で満足気に納得したように微笑んでいるジャクソンの横顔を見ながら、ジェボムもどこかホッとしたように笑みを浮かべていた。

つづく

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GOT7小説 [REWIND] 第20話

2020年07月29日 | GOT7小説

連日の残業で疲労困憊のジェボムは、幾つかのシステムのトラブルを回避し、やっと自宅に戻ろうとオフィスのロビーを抜けた。
少し蒸し暑い空気が漂っていて、雑音に一気に包まれたせいで眩暈すら覚える。
と同時に、柱の影から出て来た男の顔を見て、ジェボムは倒れそうになるぐらい疲労感を増した。

「何だよ、何だよ、お前が言いたいことは大体わかる。マークさんと俺は偶然バーで会っただけだし、店に髪を切りに行ったのもあの人に会うためじゃない。頼むからつまらない痴話喧嘩に俺を巻き込まないでくれ。疲れてて最高に気が立ってる。」

一気に捲し立ててジェボムは男の傍を素通りしようとした。
立っていたのはユギョムだった。ジェボムが社内から出て来るのをじっと待っていたようだ。

「待って下さい、ジェボムさん。」
「誤解だって言ってんだ。俺は彼と友達にもなりたくない、マジで。」
「何の話か僕には・・・。」

ユギョムが戸惑ったようにジェボムを見た。大柄な彼をジェボムもキョトンとした顔で見上げた。

「・・・マークさんがうちに泊まってた話じゃなくて・・・?」
「あ、ああ、それなら前にマークさんから聞きましたけど僕は別に。」
「ああ、そう。悪い・・・てっきり文句言いに来たのかと。」

そう言ってジェボムは頭を掻きながらゆっくりと歩き始めた。少し遅れてユギョムも続いた。

「ヨンジェ先輩のことなんです。」
「・・・ヨンジェ?ああ、どうした?最近連絡取ってないんだ。」
「ジェボムさんもですか・・・。」
「・・・何かあったのか?」

ジェボムは立ち止まってユギョムと向かい合う。

「大学にもここ最近来てなくて。電話にも出ないし・・・サッカーの試合もずっと姿見てないし。僕たちの周り誰も・・・。ジェボムさんだったら何か知ってるか、と。」
「爺さんが亡くなってから落ち込んでたけど・・・落ち着いたって話をしながら飯食ったのが3カ月・・・いや、もっと前か・・・?」
「何かあったのか僕も少し心配で・・・。」
「・・・OK,俺が連絡取って会ってみる。教えてくれてありがとな。」

ジェボムがそう言いながらまた歩き出した。ユギョムはまだ何か言いたそうにその後ろを少し離れて歩いた。

「髪・・・短くしたんですね。」
「マークさんの店の、ベンベンって美容師にこれ見よがしに切られたんだ。マークさんからジニョンを奪ったって俺を目の敵にしてるみたいだ。」
「結構憧れてたみたいですよ、ジニョンさんとマークさんのカップル。」
「・・・ベンベン知ってるのか?」
「僕以前に美容学校に通ってたことあって。その時の同級生です。今でも親友ですよ。」

ユギョムの言葉にジェボムは何とも言えない苦い顔をして首を振った。
どこで誰が繋がっているかわからない、自分の周りの世界は思った以上に狭いんだ、と実感する。

「すごく似合ってますよ、ヘアスタイル。」
「・・・ああ、どうも・・・。」

少し照れくさそうにジェボムは呟いて、信号待ちをする。傍に並んでユギョムが立ち止まった。

「・・・ユギョム・・・だったよな、名前。」
「ああ、ええ、そうです。」
「正直・・・お前には感謝してる、って言うか・・・。」
「何でですか?」
「俺の中の・・・マークさんに対する罪悪感を・・・和らげてくれる存在だから・・・かな。」
「僕は元々マークさん好きだったから。一目惚れなんです。だから・・・あなたとジニョンさんとマークさんの三角関係のこう・・・云わば・・・棚から・・・何でしたっけ?」
「ぼた餅。」
「そう、それですっ!」

急に無邪気になったユギョムを見て、ジェボムは思わず笑った。大らかで包容力のありそうな男だなと感じる。
信号がやっと青に変わった。スクランブル交差点を、一斉に人が歩きだした。

「じゃあ、俺はここで。ヨンジェのことは心配するな。連絡させるよ。それから、マークさんに伝えてくれ、友達になる気はない、ってね。」
「何でですかあ、マークさんはきっとあなたのこと大好きですよ?純粋で素直だ、って言ってました。」
「はあ?」
「それじゃ、おやすみなさあい。」

ユギョムは深々と頭を下げて、大通りを走って渡って行った。
純粋で素直・・・俺が?
ジェボムは自虐的に笑いながら夜の街を歩いた。

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翌日、休日ということもあり久しぶりにジェボムは昼過ぎまでベッドを抜け出せなかった。昨夜寝る前に、ヨンジェに宛てていたメッセージに返信があるか確認をするため、ジェボムは唸りながら身体を起こした。

『元気か?久しぶりに会おう。』
『何とか生きてます。誰かに会う気分でも無いんだけど…。』

友人達との連絡は断っているのに、自分からのメッセージには返信がある、ジェボムはそこにヨンジェの胸の内を手に取るように感じる。

俺に救いを求めてる。

ジェボムは、携帯電話をベッドに放り投げ、シャワールームへと向かった。

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清渓川沿いの公園にジェボムはヨンジェを呼び出した。
顔色は青白く、少し痩せたようにも見えるヨンジェが現れた時には、ジェボムは言いようのない罪悪感を抱いた。

「ヨンジェ・・・大丈夫か?」
「何・・・ですか?」
「あまり元気だとは言えないようだけどさ・・・。ああ、ユギョムが心配して俺の所に。お前と連絡取れないし、大学にも来てないって。」
「家族のことで色々あって・・・。大学どころじゃなくって。」
「どうしたんだ。」

ジェボムにそう問われて、眩しい太陽の下ヨンジェは無理に微笑んだ。

「親が離婚するんです。」
「・・・・え?」
「父さんに愛人の存在が・・・。」
「マジか・・・。」
「しかも子供まで・・・。仕事で海外にいることが多かったんですけど・・・別に家族を作ってた、ってことが今回お祖父ちゃんが亡くなった遺産の相続の件で発覚して。僕まで巻き込まれて泥沼です・・・ハハハ・・・。」
「大変だったな・・・。何で早く俺に言わないんだ。」
「・・・ジェボムさんに話して・・・何か解決します・・・?」

ヨンジェの言葉は最もだった。ヨンジェのために、自分は何もしてやることは出来ない。傍にいてやることすら、最近は仕事が忙しいのと優先順位がジニョンが一番になった生活のせいで難しい。
自分のいいように解釈し、ヨンジェはもう大丈夫だろうと思い込んでいた。

「・・・確かに・・・。俺はお前に何もしてやれないよ・・・。」
「皮肉で言ったんじゃないです・・・。ごめんなさい。」
「お前が1人で苦しんでたなんて思いもしなかった・・・。」
「莫大な慰謝料を払うために、父さんはあの本屋の土地を売りに・・・。」
「えっ・・・。」
「近いうちにあの平和市場の一帯に大きな病院が出来るみたいです。どこかの財団が関与するみたいですけど・・・。それで本屋も丸ごと処分出来る、って父さんが。」
「処分、って・・・。爺さんが大事に集めたあの本たちは・・・?」
「価値のわからない人たちに渡ったら・・・ゴミも同然でしょう。僕には何も言う権利無いし、正直・・・お金になって母さんが慰謝料として受け取るならそれでいいんじゃないか、って。」
「あの本・・・どれぐらいの価値があるか、調べたことは?」
「無いと思います・・・。」
「建物や土地は仕方ないにしても・・・本は・・・。俺が価値を調べる業者を手配するから、引き渡すのはもう少し待ってくれないか。」
「・・・僕に言われても・・・。」
「親父さんに伝えてくれ。爺さんの大事な想いが詰まってるんだ。血を受け継いだ家族なら、時間を引き延ばす権利があるだろ?」

ジェボムの目は真剣だった。ヨンジェは不意に悲しくなる。

そうだ、お祖父ちゃんはこの人に全てを託したいって夢を描いてたはずだ。
本当の孫である僕が全く本に興味を示さないのを嘆いていたから、ジェボムさんがお祖父ちゃんの空しい心を埋めてくれる人だった。

様々なことが頭を巡り、ヨンジェは思わず涙ぐむ。ジェボムの腕に抱き寄せられ、まるで子供にするかのように頭をごしごしと撫でられた。
寝耳に水の両親の離婚で疲れ果てていた心が、不思議なほど修復されていく。
愛、ってのはこういうことなんだ、とヨンジェはふと感じた。

「カナダの大学に行くんです、僕。」

突然ヨンジェがそう口にして、ジェボムはヨンジェを抱き締めたまま固まった。

「・・・何?」
「母さんと一緒にカナダで暮らそう、って。逆に父さんは拠点をソウルに移すとかで、愛人家族連れて帰国予定だとか・・・。何かもうぐちゃぐちゃでしょ?母さんの気持ちが僕にはよくわかって・・・。それならソウルにいたくない、って。」
「突然過ぎて何て言っていいか・・・。」
「誰にも言わずに行こうかなと思ってました。」
「寂しいことするな。ユギョムに連絡してやれ。本屋の事・・・ちゃんと俺も考えるから。」
「・・・会ってちゃんと話します。」
「よし・・・。とりあえず、お前は腹いっぱい飯食え。行こう。」
「えっ?」

ジェボムにぐいっと腕を引っ張られ、ヨンジェは立ち上がる。少しだけ気持ちが晴れた気がした。見慣れていた清渓川の風景が少し違って見える。ジェボムの温かさを感じれば感じる程、彼と離れなければいけない事実だけが辛く圧し掛かった。

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ジェボムと一緒に暮らす選択をしなかった自分を褒めてやりたい気持ちで当初はいたジニョンだが、こうもゆっくり逢えない現実を突きつけられると後悔に襲われる。
わかりきっていたことだが、仕事に打ち込み過ぎると連絡すらままならなくなるジェボムが恨めしくなってくる。
ジニョンは、そんな時左手の薬指に嵌めたリングを眺めて、気持ちを落ち着かせる。
結局昔と同じような葛藤の中過ごしているのが、可笑しくもある。

やっとのことでジェボムを会社の近くのカフェに呼び出すことに成功したジニョンは、濃い目の珈琲を飲みながら窓の外を眺める。
夕暮れの街が寂しげに浮かんでいた。
息を切らして店に現れたジェボムは、入り口でアイスアメリカーノを注文し、ジニョンの待つ席にやって来た。

「悪いな・・・こんなバタバタしてて。」

前に逢った時に珍しく短めに切った髪が新鮮で、ジニョンが大げさに褒めると耳まで赤くして恥ずかしがったジェボムも、幾分いつもの雰囲気に戻っている気がした。
そんなことで時間の流れを感じるしかない。

「忙しいの、わかるよ。」
「お前に逢いに行きたいし、何なら泊りたいし、色々・・・・だけど、マジでごめん。」
「別にそれ責めに呼び出したわけじゃないから。」
「ああ、まあ・・・そうかもしれないけど、悪いと思ってさ。」

ジェボムは急に気が抜けたように背中を丸めてテーブルに肘をついた。左手の薬指にリングが光っているのを見て、ジニョンは改めてくすぐったさを感じる。

「何だよ。」
「指輪・・・いつも着けてるんだね、と思って。」
「抜けないんだよ、太って。」
「え?」
「冗談。」

目を細めて笑うジェボムを見て、ジニョンも微笑んだ。そして鞄の中から、通帳と印鑑を取り出し、ジェボムの前に差し出した。
ジェボムはきょとんとした顔でジニョンを見る。

「何・・・?」
「これ、使って。足しになればと思って。」
「何の足しだよ。」
「こないだ・・・・うちに来た時、電話で話してたの聞こえました・・・。3億ウォンがどうとか・・・。何があったのか知らないけど、あなたが今お金を必要としてるのは何となく・・・。」
「そのことなら自分で解決するからさ・・・。」

ジェボムは通帳の中身も見ずに、ジニョンに突き返した。

「少しだけど、あなたの力になりたい。俺の気持ちなんです。」
「わかるよ。泣きたいほど嬉しい・・・正直。でも、これは俺の問題で、俺がどうにかしなきゃいけないんだ。ああ、誤解しないで欲しいのは、トラブルに巻き込まれてるわけじゃない。俺が借金したとか株で大損してるとか、そういう話ではないんだ。」
「でもあの時のジェボムさんの口調は本当に切羽詰まってた。内容まではわからなくても、それぐらいは俺にもわかります。」
「お前に相談しなかったのは・・・。」
「わかりますよ、俺に相談するようなタイプの人じゃないことも、俺がこうやって通帳を差し出しても受け取るような人じゃない、ってことも。」
「ジニョン、この問題は、お前に対する愛情とは別で・・・。」
「わかってます。責めてるんじゃない、そんなことしたらまた以前の俺達のままでしょう?俺達はもう、昔の2人じゃないでしょう?」
「どうすりゃいいんだよ・・・。お前まで巻き込むつもりは・・・。」
「指輪を貰った時・・・俺の人生はあなたの物だって感じました。もちろんジェボムさんの人生も俺の物です。」

ジニョンの口調は静かだが力強かった。その空気にジェボムは圧倒され飲み込まれる。
お互い頑固者だとわかりきっていた。今のジニョンは更に、一歩も引かない覚悟が見える。

「・・・・・わかった・・・。ありがとう、ジニョン。この金は受け取らせてもらう。ちゃんと返すよ、必ず。」

昔の過ちを繰り返さないと誓ったジェボムの想いが、ジニョンには今手に取るようにわかる。抱き締めたい衝動を、微笑むことで何とかやり過ごした。

「今度いつうちに来るんですか・・・?」
「近いうちに・・・。今すぐにでもお前を抱きたいんだけど。」
「家には帰ってるんですか?まさか会社に寝泊り?」
「最近は帰ってる。」
「じゃ、俺がジェボムさんちに行きます。そうすればいいんだ、何でそうしなかったんだろう?逢いたい時に、逢いに行っても今のジェボムさんなら受け止めてくれますよね?それともやっぱり、1人の時間が必要?」
「昔の俺じゃないだろ?もう。」
「決まり。」

心の底から嬉しそうにジニョンが笑顔を見せた。

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香港からソウルへの最終便で到着したジャクソンは、その足でホテルグランドハイアットソウルに向かった。
不意にベンベンから連絡が来たせいで、舞い上がってしまっている。とりあえずロビーで、と伝えて飛行機に飛び乗ったが、先のことは何も考えていない。
企業経営に関して、年齢の割には先見の明があると自負しているし、世間の評価もその傾向だったが、ことベンベンのこととなると本当に暴走機関車のようになってしまう自分が恨めしい。
惚れた弱みなのだろうか、とジャクソンは価値の無くなったも同然だった碧い石のついた指輪をポケットから出して眺めた。

煌びやかなホテルのロビーに到着すると、奥のソファで時間を持て余したベンベンがぼんやりと爪を弄っている。
華奢なその姿が愛おしくて、ジャクソンは表情が崩れそうになるのを必死で抑え、深刻な面持ちで歩み寄った。

「クンピム。」
「・・・待ちくたびれたよ・・・。」
「Sorry,香港からの最終便に何とか乗れた。」
「プライベートジェット買えば?」
「・・・・お、おお、必要とあらば・・・。」
「最上階の綺麗な部屋に行きたいな。」
「お、OK、そうしよう。」

ジャクソンはいそいそとカウンターに向かった。鍵を受け取ったジャクソンに、ベンベンが視線を合わせないで言う。

「部屋に行ったから、って何もしないからね・・・。今夜はちゃんと話したいんだ、僕たちのこと。」
「俺もそうしたいって思ってた。あのまま無かったことにするのは、納得行かなかったから。」
「ジャクソンさんの望む答えじゃなくても・・・黙って受け入れてよね。」
「俺を納得させるような言葉が聞けるならね。」

いつになく真剣な表情のジャクソンがいる。2人きりのエレベーターの中に、緊張感が漂っている。出会った頃のような、これから始まる濃密で甘い時間への期待感に近い緊張感が恋しい。今あるのは純粋な緊張感のみだ。

いったいクンピムは何を伝える為に俺に会いたいと電話して来たのか・・・

ジャクソンは、息苦しさをごまかすために、深呼吸して無理に微笑んでいた。

つづく


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シリアスドラマの醍醐味とは。

2020年07月26日 | 雑記

基本ここは小説のみのUPにしようと思ってました。
結構頑張って出来るだけ貫いて来ましたが…




どうでもいいことも書きたいよね




ってことで、たまに吐き出します。
しょーもない妄想を。

127の活動が落ち着くと同時に(?)Kポ熱も落ち着き、またまた私は韓ドラ&海外ドラマの世界へ。

先日までハンソッキュさんの出てた『ウォッチャー』を見て本当にドが付くシリアス加減で猟奇的でもあり(犯人が親指切り落として行くようなね)なかなかな内容だったのですが。
最後もまだまだ続きそうな終わり方だったし…

そんなドが付くシリアスな韓ドラ見ながらも色々な楽しみを見出せるわけで。

メイキング動画をYouTubeで見漁りました。
ドラマ本編でも私の腐レーダーがバンバン作動したのですが、メイキングでは妄想が現実に。笑←やめなさい

見出し画像なんか最高のシーンですが、真剣な取っ組み合いのシーン撮りながらカットかかると途端にイチャイチャしちゃうソガンジュン君とハンソッキュさん。

歳の差29歳…
親子でんがな。

きっと息子のように可愛いんだと思うんです。
ハンソッキュさんから見たソガンジュン君は。
先輩として若手俳優に愛を注ぐ、はもちろんですが、何かこう…

ハンソッキュさんのスキンシップ加減が好き。←病





まあこれもシリアスなシーンの撮影風景ですが。
子をあやすようにトントンしてるのが可愛い

可愛いもんな。
ソガンジュン。←それな


Kポ妄想小説の中で歳の差つってもせいぜい一回りが限度。
どうにかこの『ウォッチャー』視聴で培った妄想力をどこかでいつか発揮したいと考える夏の日です。


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VIXX連載小説 [Someday] 第34話

2020年07月25日 | VIXX小説

職場から歩いて5分程の場所にある考試院にジェファンは2週間前から暮らしている。
新しく物件を探す気にもなれなかったし、職場に近くて経済的だというのがその理由だ。
ウォンシクの元に帰るつもりも到底無かったし、連絡を取る気にもならなかった。
もう全て過去のことだと忘れて、今の自分の精一杯の生活だけをして行こうと心に決めていた。
発作的な感情に駆られ、テグンと深い関係を持ってしまったこともまるで夢だったかのように、現実に追われている今思い出すことが無かった。
残業を終えて小学校を出ると、帰り道にあるコンビニで夕飯とビールや焼酎を買って帰路につく。アルコールが無いと眠れない気がするのだ。

考試院の入り口をくぐろうとしたジェファンの腕を、不意に誰かが掴んだ。
びっくりしてジェファンはそれを振り払った。ウォンシクが憮然とした表情で、立っていた。

「ウォンシク・・・。」
「何やってんだよ、こんなとこで。」
「・・・ここが俺の住まいだ。」
「ふざけんなよ。急に出て行ったまま連絡も無視して・・・どういうつもりなんだ?」
「こういうつもりだよ。」
「ちゃんと話し合おうよ、兄さん。お互いの気持ちちゃんと・・・。」
「いいよ。あがれよ。」

ジェファンがそう言ってウォンシクの方を見ないまま歩き出した。古い建物の階段を上り、一番奥の部屋のドアをジェファンは開けた。
ウォンシクも受験勉強中に考試院の世話になったことはある。この狭い空間が、妙に落ち着いて心地良いことも理解出来た。
それでも立派な教師になったジェファンが、ひっそりと逃げるようにこの場所に滞在しているのは、耐えがたい。

「適当に座って。」
「ああ。」
「本当に話するだけだから。簡潔にね。」
「元はと言えば俺が悪いのはわかってるよ。2人で旅行に行ったのにホンビンに振り回されて結局1泊も出来なかったし・・・。家に戻ってから兄さんの事・・・。」
「ちゃんと話し合おうと俺はお前のマンションに戻った。雨の夜・・・。そしたらマンションの前でお前とホンビンが濡れながら抱き合ってた。」
「えっ・・・。」
「その後お前達がどうしたかなんて、もう関係無いんだ。俺の気持ちはそこで終わったから。」
「ジェファン兄さん、誤解だよ。」
「誤解なんてしてない。お前があの瞬間、ホンビンを放っておけなくて抱き締めた、それが現実で事実だろ?」
「だからって、俺は別にホンビンを・・・。」
「今思えばスッキリしたよ、あれで。いつもモヤモヤしてた俺の気持ちを、ばっさりと断ち切ってくれた、って思ってる。」
「そんなつもりじゃ・・・。」

小さなテーブルの上に、ジェファンが買って来た缶ビールを置いた。
ウォンシクの前にも差し出したが、彼はそれに目もくれなかった。

「吹っ切れた俺はその後何したと思う?」
「・・・何だよ。」
「テグンさんに抱かれたんだ。抱いてくれ、って頼んだ。」
「嘘だろ・・・。」
「俺、お前が思ってるほど誠実な男じゃないんだ。清らかでもないよ、もちろん。別に誰でも良かったんだと思う、死にそうになるぐらい乱れさせてくれたらね。」
「やめろよっ!」

ウォンシクが声を荒げた。
ジェファンはふと笑って、視線を外した。一口缶ビールを飲んで、冷めた目でウォンシクを見つめる。

「お前が持ってる俺のイメージのために生きるなんてもうごめんだ。努力したところで、俺が幸せになれるとは限らないんだしな。」
「何で・・・。兄さん、何でそんな風に言うんだよ。本当はそんなこと思ってないよな?」
「好きに幻想を抱いてりゃいいよ。俺は1人で生きていくから。」
「あの時、俺を選んだからバスに乗らなかったんじゃないのかよ。」
「そんな選択をした俺を、後悔させたのは自分だろ?お前のその優しさは、酷く俺を傷つけたんだ。今見てわかるだろ、俺があの雨の夜・・・どれだけ苦しんだか。」
「傷つけたかったわけじゃない。ただ・・・・純粋にジェファン兄さんを愛してるから・・・。」
「帰れ。今の俺には何も響かない。傷が化膿しまくってるからね。」
「わかった・・・。時間が経てば・・・もっとちゃんと話せるよな・・・?」

ウォンシクの力ない問い掛けに、ジェファンは答えなかった。
白くて細長い指で、缶ビールの凹みに触れている。何か言葉を探していたが、結局ウォンシクは黙って玄関を出て行った。
少しずつ遠くなる靴音を聴きながら、ジェファンはゆっくりと俯いた。

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少し遅めの夕飯をテグンはキッチンで作っている。
久しぶりに店に出てダンサーとして舞台に立ったハギョンは、帰って来て黙々とストレッチをしていた。

「・・・どうだった・・・。店の方は。」
「楽しかったよ。あの独特の雰囲気、やっぱいいよね。」

ハギョンのそんな声を聴いて、テグンはふと微笑んで振り返った。出来上がったチゲをテーブルの上に置く。
あれから2人の間に特に変わった様子は無かった。ハギョンに首を絞められ気を失う寸前まで行ったものの、その後は不気味なぐらい、ハギョンはテグンの浮気について追究しなかった。

「飯出来た。」
「ああ、うん。食べよう。」

2人はいつものように向かい合って座る。箸とお椀を持つハギョンの美しい所作も変わらない日常だ。テグンの視線に気づいたハギョンは、ゆっくりと首を傾げた。

「何・・・?今日もチャ・ハギョンは綺麗だな、って?」
「・・・ああ、そんな感じかな・・・。前から思ってたけど、お前・・・座ってる姿勢も立ってる姿勢も美しいな。」
「そりゃどうも。前から思ってたんだったらその時言って。」
「そうするよ、これからは。」

飲み物を取るために、ハギョンが席を立った。そのタイミングで、テグンはあのことを切り出した。

「こないだのことだけどさ。」
「ああ、何?」
「俺の想像より遥かにお前怒らないんだけど・・・何なんだ?」
「え、首絞めて殺そうとしたけど?足りなかった?」
「いや、あれで終わりか・・・?今までのお前の感じだと、3日間ぐらい寝ずに尋問して来そうな勢いだったけど。」
「尋問されたいの?ジェファンとやってどうだった?どこでしたの?まさかあのベッド?満足した?」

畳みかけるようなハギョンの勢いに、テグンは苦笑いしながらもどこか安心する。

「答えた方がいいかな。」
「ベッド使ったかだけ教えて。」
「この部屋には入れてない。」
「あ、もうひとつ。」
「何だよ。」
「その後連絡取ってるの?」
「取ってないよ。向こうからも連絡は無い。」
「だろうね。後腐れなく、お前の言った通り、性欲の処理だった、でOK?」
「そういうことだ。」

テグンがそう言うと、ハギョンはコップの中の水を一気に飲んだ。改めて、何もかも水に流した気分になる。ショックが無かったなどということはあり得ない。
テグンが自分以外の誰かを抱いたという事実を、受け入れたいわけではない。
ただテグンが隠そうとしなかったことだけが、ハギョンに許しという選択肢を与えたのだ。嘘をつかれるのが一番嫌だった。それをテグンはしなかった。
お互いがお互いを一番必要とし、認め合っているからこそ、今の関係があるのだ。

「テグンって俺のことホント好きだよね。」
「ああ、まあね。」
「どんなとこが一番好きなの?」
「ああ・・・えっと・・・。」

定番の質問で、今まで何十回何百回と答えた記憶があるが、今この瞬間、もっとぴったりな答えがあるんじゃないかと考えてしまう。
その時、ピンポン・・・と玄関のチャイムが鳴った。
テグンがドアを開けると、ウォンシクが胸ぐらを掴んで来て、玄関内の壁に思いきり押し付けられた。

「アンタ何てことしてくれたんだよ。」

酒に酔ったウォンシクは、テグンを睨み付けてそう凄んだ。胸ぐらを掴んだ手を外そうとテグンが手を掛けたと同時に、ハギョンの手がすっと伸びて来てウォンシクの手を掴んで捻りあげた。

「ああっ!いててててっ、痛い痛い!」

逆側の壁に顔を押し付けられるような姿勢になり、ウォンシクは思わず声を上げた。

「わかった、わかったから、離せ、って馬鹿力だなアンタっ。」
「俺のテグンに乱暴なことするからだよ、バカ。」

仁王立ちになっているハギョンを恨めしそうにウォンシクは見ている。そしてすぐにテグンを指さして言った。

「いいのか?ここで暴露しても。アンタがこの人のこと裏切ってることをさ。表出た方がいいんじゃないのか?」

だがすぐに、ハギョンがその指さしたウォンシクの手を払いのけて言う。

「ここで話しなよ。あれでしょ?俺のテグンがジェファンと寝た話だよね?」
「・・・知ってたのかよ?」
「まあ、事実としてね。詳しい内容は聞いてないよ?あ、今聞く?行為の内容とか。」
「アンタな。」
「ジェファンは何だって?まさかテグンの身体が忘れられないって?」
「ふざけんなよ。」
「ふざけてないよ、俺は本気。1回は許すけど次があったら普通に潰すからって言っといて。」
「ジェファン兄さんはそんな人じゃない。」
「アンタ、イ・ジェファンの何知ってんだ?」

ハギョンに凄まれウォンシクは絶句する。もういったいこの家に何をしに来たのかさえわからなくなっていた。思い描いていた光景とは遥かに懸け離れた現状に、身を投げ出す形になっているウォンシクを、テグンが助けるように口を開いた。

「ハギョン。俺とウォンシクだけで話をして来てもいいか?」
「いいよ。殴られるなら1発だけね。」

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人気の無い公園で、2人は少し離れた場所に立っていた。
どこからか微かに虫の声がする。その軽やかな声が、さっきまでの険悪な雰囲気を嫌でも和らげる。

「殴りたければ殴れよ・・・。」

テグンがそう声を掛けたが、ウォンシクは黙ってブランコに腰掛けた。さっきのハギョンの視線に完全に怯え切っているようだ。
それに、テグンを責めて何の解決になるのか、今となってはわからないことだらけだ。

「ジェファンはどうしてる・・・。」
「1人で生きていく、って。」
「アイツを責めないでやってくれよ。」
「何だよ、ハギョンさんもアンタも、兄さんをえらく庇うけど。そりゃ悪いのは俺ですよ、わかってますよ。」
「あんなふうにしなきゃいけなかったジェファンの気持ち、わかってるんだろ・・・?」
「言っとくけど別に俺はホンビンと浮気したわけじゃ・・・。」
「わかってるよ。」
「俺はただ・・・ジェファン兄さんを好きなだけだ、それだけなのに。何で上手くいかないんだよ、俺達いつも・・・。」

ウォンシクは苦しそうに呟いて、ブランコをゆっくりと揺らした。錆びついた鎖の音が夜の公園に響き始める。

「どんなふうに抱いたんですか・・・。ジェファン兄さんとどんな風に・・・。」
「そんなこと聞いてどうする・・・。そういう趣味か?」
「あの人が苦しんだように、俺ももっともっと苦しまなきゃいけないんですよね・・・。そうでしょう?そうしなきゃ俺はジェファン兄さんにもう一度向き合う資格もらえないんですよね?」

ウォンシクの言葉に、テグンは悲しく微笑んだ。
ゆっくりとブランコの近くまで歩み寄ったテグンは、ウォンシクの肩にポンと手を置いた。どう答えていいかわからなくて、ウォンシクは俯いてしまう。

「お前たちには時間が必要だと思うんだ・・・。普通の人間よりもっともっと時間を掛けて、確かめていく必要があるんだと思う・・・。ジェファンがあんな風に自分を捨てたんだから・・・お前は苦しくても待ってやって欲しい。」
「待ちますよ・・・。俺、あの人以外考えられないんです。」

ウォンシクはそう言ってブランコから降りた。まだゆっくりと1人で揺れているブランコの影が地面を掠める。

「・・・飯食ってくか?うちで。」
「え・・・?いや、遠慮しときます・・・。あの人マジで怖いんで。」
「ハギョンか。」
「上品で華奢なのかなと思ってたら、バキバキに男出して来るし。」
「男だからな。」
「よく殺されませんでしたね・・・他の男と寝たのに。」
「首絞められて死にかけたよ、あと5秒あのままだったら俺は今ここにいない。」
「・・・いくら好きだからってあんまりじゃ・・・。」
「アイツにだったら殺されてもいいんだよ。俺はそう思ってる。」

テグンは冗談めいてそう言う。そして軽く手を上げて公園を立ち去った。本当にあまりにも想像と違う決着のつき方だ。
殴り合いも辞さないつもりでこのアパートに来たのに。
少しひんやりとした夜風を感じながら、ウォンシクは1人公園を出て大通りに向かう。
ふとジェファンはどうしてるだろうかと気にかかる。
携帯電話をポケットから取り出したが、すぐにしまい込んだ。時間が必要だ、テグンの言葉が過る。
自分よりも遥かに彼がジェファンの気持ちを理解しているような気がして、少し胸が痛んだ。

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テグンの長い腕の中で、ハギョンは微睡んでいる。
今夜はいつもより激しかったな、などとニヤニヤしているハギョンに気付いてテグンが頭を起こす。

「どうした・・・。」
「さっきのことで、また俺に惚れ直したんだなあと思って。」
「否定出来ないな。」
「テグン・・・俺達って一緒にいるべきだと思う?」

突然のハギョンの問い掛けに、テグンはガバっと身体を起こした。勢い余ってハギョンがベッドから落ちそうになる。

「何だよ急に。」
「もし遠く離れたら・・・壊れちゃうのかな、ってね。」
「遠回しなこと言わずに、はっきり言ってくれよ。」
「・・・俺ね、NYで勉強したいんだ。ダンスのこと、演出の事、色々・・・。今回NYに行ったのも、旅行が目的じゃなくて、そういうの考えて下見って言うか・・・。」
「・・・薄々勘付いてたよ・・・スーツケースの中身見た時にさ。土産物の中に紛れてダンスシューズとか演劇のパンフレットとか、学校の案内書とか・・・出て来たからさ。」
「相談するの遅くなったけど・・・ごめん・・・。」
「お前が店で踊るのが・・・最初は本当に嫌だったよな俺。でも・・・何度もステージで踊る姿見るうちに、俺が一番のファンになってた。踊ってる時のお前が一番輝いてる、って思うよ。」
「じゃあ・・・理解してくれるよね?本場で勉強したい、って気持ち。」
「そりゃね・・・。でも待て、お前・・・さっき何てった?」
「え?何て言ったっけ。」
「一緒にいるべきか?って。遠く離れたらどうとか・・・。お前、1人でNY行くつもりかよ・・・。」
「だってテグン仕事・・・。」
「舞台演出の仕事だってNYが本場だ。何で俺だけ置いてかれるんだ。」
「えっ・・・一緒に来てくれるの?」
「何で俺が行かないって選択すると思ったんだ?逆に聞かせろ。」
「わかんない、自分でも。」
「お前1人で生活したかったのか?NY行ったらモテたんだろ、向こうで何してた?」
「うわっ、テグンが妬いてる!確かに俺モテるんだよね、あっちで。」
「絶対1人で行かせないからな。どこに行くにも俺が監視する。」

テグンは身を捩って笑っているハギョンの身体を、しっかりとベッドに組み敷いた。2度目の行為を期待する視線をハギョンが投げて来る。衝動に駆られるようにキスをして、ハギョンは長い脚をテグンの腰に絡ませた。

                              つづく

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何を見せられとるんだ我々は。

2020年07月05日 | 雑記

少し遅ればせながら。
基本ジャニに塩対応のテイルさんが珍しくデレてる光景が公式からUPされまして。
何かこの一枚であらゆる妄想が出来る自分の脳みそを愛おしいとさえ思う今日この頃。

これ、この状態になる前の様子は動画に無かったのですが、どうだったのかと。
いつものようにテイル兄大好きジャニが

『兄さん兄さん、おいで。ココ座ってココ。いいから、ほら。』

で無理矢理なのか、それともフラフラ〜っと歩いて来たテイルさんが

『よいしょ。』

と、何も考えずにただ普通の日常のように座ったのか。
後者なら嬉しすぎて禿げ散らかすなあと。
カメラの無い日常でジャニイルの距離感が如何程なのかは妄想するしかないのですが、とにかくこの画像(動画)を見た時、瞬間に

『良かったね、ジャニや。』

と思った私。
エグい程の一方通行の想いかと普段憂いておりましたが、案外2人の距離感はこんな感じなのかしらと幸せな気分になりました。←単純

これね、動画見てもらったらわかるんだけど、テイルさん足でちゃんとハンモック揺らしてるんだよ。
可愛いねェ〜




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