2015年1月、法的根拠に基づく難病対策がようやく開始される。法制化後に医療費助成の対象となる患者は、指定難病約150万人、小児慢性特定疾患約14万8000人。地域の医師における適切な拾い上げが求められる。


 

 日本における難病対策は、従来、1972年に策定された難病対策要綱に基づいて行われており、何の法的根拠も存在しなかった。そのような中、今年5月、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」が成立した(図1)。来年1月に施行され、我が国の難病対策が法に基づく形でようやく実施されることになる。

図1 難病対策に関する最近の動き(厚労省の資料を基に編集部で作成)

 厚生労働省健康局疾病対策課課長補佐の前田彰久氏は、「以前からいわれていた国の難病対策における問題点が解消されるだろう」と語る。

法制化で2つの不公平解消へ
 現行の難病対策の問題点は、主に2つある。

 1つは、患者側から指摘されていた、医療費助成の対象となる疾患の不公平だ。今までは難病対策要綱に沿う形で、難病患者の医療費自己負担を軽減することを目的に、特定疾患治療研究事業が行われていた。同事業では医療費助成の対象として、56疾患が特定疾患に指定されていた。しかし、これら56疾患と同様な重篤度でかつ難治であっても、助成の対象とならない疾患が多く存在し、問題視されていた。

 もう1つは、事業費の負担における不公平だ。日本の難病対策は予算事業として行われ、費用は国と都道府県が半々で負担することとなっていた。しかし、事業費の総額が右肩上がりで増加する中、国の予算はそれほど増えず、この10年、都道府県の超過負担が続いていた。例えば2013年度は、事業費1342億円のうち国庫補助は440億円のみで、残りは全て都道府県が負担していた。

 法制化により、国は事業費の半額を負担することが義務化される。また、消費税が財源となることも決まっている。都道府県側の超過負担という不公平も解消されることになる。

5要件を満たせば「指定難病」
 現在、難病法に基づき、医療費助成の対象となる疾患の見直しが進められている。難病法は、(1)発病の機構が明らかでない、(2)治療方法が確立していない、(3)長期の療養を必要とする、(4)患者数が人口の0.1%程度に達しない(当面は0.15%未満を目安)、(5)客観的な診断基準などが確立している─という5つの要件を満たす疾患を「指定難病」と定義し、医療費助成の対象とする。厚労省は、医療費助成の対象となる指定難病として、来年夏までに約300疾患を選定する計画だ。

 これに先立ち、今年8月、既に特定疾患治療研究事業により医療費助成を受けている特定疾患と、新規疾患の一部の検討が先行して行われ、110疾患が指定難病として了承された。9月末までパブリックコメントを受け付けた上で、10月中に正式に指定される。これらの疾患は、2015年1月1日の難病法施行とともに医療費助成の対象となる。

 医療費助成の対象に新たに加わったのは、シェーグレン症候群、IgA腎症、多発性嚢胞腎、原発性抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性肝炎などの計46疾患(表1)。

表1 新たに指定難病に決まった46疾患(出典:厚生科学審議会疾病対策部会指定難病検討委員会、図2とも)
(*クリックすると拡大表示します)

 一方、特定疾患のうち、既に原因が明らかになっているスモンは、新規患者が生じる可能性がないことから、既存の患者への助成を継続した上で指定難病から外された。また、劇症肝炎、重症急性膵炎は、急性疾患であり慢性化しないことから指定難病には加えないこととなった。

治療中は軽症でも助成対象
 厚労省は指定難病とする各疾患において、診断基準と重症度分類を今後、明示する計画だ。「医学的な診断基準と指定難病の診断基準が若干異なる場合がある」と前田氏は注意を喚起する。医療費助成のための診断書の作成は、都道府県に登録された「指定医」(3ページ目に掲載)が行う。

 また、指定難病に罹患していても、重症度分類で軽症と判断された場合は、医療費助成の対象外としている。例えば、シェーグレン症候群では、図2のような重症度分類が示されており、これで軽症と判断された場合は、原則、助成対象外となる予定だ。

図2 シェーグレン症候群の重症度分類

 ただし、「治療により症状が抑えられている患者は、本来軽症とはいえない。一定の医療費負担が継続している場合は、重症度分類で軽症と判断されても医療費助成の対象とする」と前田氏。具体的には、1カ月の総医療費が3万3330円を超える月が3カ月以上の場合は、助成対象とする。

 医療費助成の対象となった場合、自己負担割合は2割となり、さらに世帯別の収入により自己負担額に上限が設けられる。厚労省疾病対策課の試算では、新制度導入により、1カ月当たりの医療費の平均自己負担額は、既認定者で約1300円から約2900円に増加するものの、新規認定者では約1万1900円から約3800円に減少するという。

小児慢性特定疾患も見直し
 難病法の成立とほぼ同時に児童福祉法の一部も改正され、小児慢性特定疾患治療研究事業における医療費助成制度も見直された。今年9月、新たに107疾患を医療費助成の対象疾患に加えることが認められ、対象疾患は705疾患となった。

 小児慢性特定疾患制度は、児童の健全な育成を目的とするもので、医療費助成は20歳未満の患者を対象とする。難病法とは目的が異なることから、指定難病の定義を満たさない癌や心疾患なども助成対象としている。そのため、現行制度のままでは、小児慢性特定疾患として医療費助成を受けていた患者の中に、20歳になった段階で助成を受けられなくなるケースが存在する。

 前田氏は、「小児慢性特定疾患制度との整合性を極力示せるよう、来夏までに指定難病の選定を行う予定」と話す。成人に達した後も継続的な治療を必要とする小児癌サバイバーや先天性心疾患などの患者がいる。そのような患者への支援が今後広がるか、来夏までの議論に注目が集まりそうだ。

 難病法は、患者への医療費助成だけでなく、効果的な治療方法の開発や医療の質向上、均てん化も求めている。今後、難病対策の拠点として都道府県ごとに「新・難病医療拠点病院」も整備される予定だ。ようやく登場した法律の下、難病に関する研究が進展し、新規治療法の開発が促進されることも期待される。

難病対策は患者の拾い上げから始まる
指定医の要件も明らかに

 指定難病、小児慢性特定疾患とも、診断書の作成は「指定医」が行うこととされている。「診断書を書く可能性がある医師は、ぜひ事前に指定医として登録してほしい」と厚労省の担当官は呼び掛ける。

 医療費助成は、申請日に遡って助成が開始される。そのため、指定難病疑いの患者には極力早く診断をつけ、医療費助成につなげることが求められる。

 指定医の要件は、指定難病、小児慢性特定疾患とも、臨床医として5年以上働いた経験があり、何らかの専門医資格を有すること、もしくは都道府県の実施する研修を受けることだ(表A)。「研修の内容は、制度の話や手続き方法の解説となる予定」(厚労省健康局疾病対策課)。

表A 指定難病、小児慢性特定疾患における指定医の要件

 指定難病、小児慢性特定疾患とも患者数はそれほど多くはないが、患者は全国に散らばっている。また、各難病の専門家も限られている。日々の診療の中で難病患者を診察する可能性のある地域の医師が、1人でも多く指定医となり、難病医療を支えることが求められている。