ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

レスラーとダイバー :ミッキーロークとロバート・デ・ニーロが演じた男たちの挽歌

2010年10月23日 | 映画♪
似て非なる2つの映画。 1つはミッキーロークが主演した第65回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作品の「レスラー」で、もう1つはロバート・デ・ニーロが主演をした作品の「ザ・ダイバー」。これら2つの映画は根底に流れるテーマは同一でありながら、メッセージもその結末も対照的だ。

【「レスラー」予告編】

『レスラー』予告編 The Wrestler Movie Trailer


【「レスラー」あらすじ】

“ザ・ラム”のニックネームで知られ、かつては人気を極めたものの今では落ち目でドサ廻りの興業に出場しているレスラー、ランディは、ある日、ステロイドの副作用のために心臓発作を起こし、医者から引退を勧告されてしまう。馴染みのストリッパー・キャシディに打ち明けると、家族に連絡するように勧められる。長らく会ってない娘・ステファニーに会いにいくが、案の定、冷たくあしらわれてしまって…。(「goo?映画」より)

【レビュー】

男とは「夢」に生きるものだ、などと言えば格好がいいが、周囲の人間からすればそれは単なる身勝手な話と言えなくもない。しかもその「夢」のまま生き続けられるわけでもない。もし自らの「夢」を実現し、レスラーとしての輝ける時を手に入れたとしても、人は歳をとるし、怪我や疲労が積み重なれば肉体はいうことをきかなくなる。「引退」の時は訪れる。

それでも生きていかねばならない残酷さ。

この映画の中で、ミッキーローク演じる「ラム」は、そうした現実に直面する。かっては正義派レスラーとして人気を博したラムだったが、今ではスーパーでのバイトで生活の糧を稼ぎながら、細々と終末の試合に参加するといった状況だ。

それでもラムは観客や若手のレスラーからは讃えられ、それが励みでもあった。しかし長年のストロイドの使用もあって心臓発作を起こす。引退、そして新しい人生…彼はレスラーとしての活躍の代償として疎遠になっていた愛娘・ステファニーとの関係を修復しようとする。しかしこれまでラムに裏切られてきたステファニーは傷つくことを怖れ信じようとしない。ラムの努力。しかしいったんはうまくいきそうに見えた2人の関係も、結局は過去の身勝手な生活が染み付いてしまっているラムは再び過ちを犯してしまう。

またラムは馴染のストリッパー・キャシディと新しい人生を過ごしたいと考える。2人の相性は決して悪くはない。しかしキャシディには既に息子がおり、お客と店員としての関係を越えることには消極的だ。ビールを飲み、80年代のハードロックを聴いて盛り上がる2人。それ以上を望んだラムと拒んだキャシディ。

その時、ラムは何を感じたのか。結局、自分にはリングしかない。皆の喝采を受け、自分が自分らしく輝ける時間はそこにしかない。

結局、ラムはもう一度リングに戻ろうとする。命の保障が無くとも、結局はそれしかないのだ。

しかし女たちは違う。ステファニーが求めていたものは、ヒーローとしてのラムではなく、ただ自分のことを愛してくれる父親であり、キャシディが求めたのは最愛の息子たちにとってよき父親となってくれる存在であり、慎ましやかな「暮らし」ことが大切なのだ。

ラムが自分のためにもう一度リングに立った時、キャシディはその姿を見守ることなく去っていく…。

夢のために生きたラムは間違っていたのだろうか。全てを失い、過去の夢、過去の栄光にしがみつきながら生きていかなければならない男。それは悲哀以外の何物でもない。

しかし同じように夢に生きたとしても全く違う結末とメッセージを提示する作品もある。それが「ザ・ダイバー」だ。

こちらはアメリカ海軍史上初めてアフリカ系黒人として「マスターダイバー」の資格をえた潜水士・カール・ブラシアの半生を描いた作品。

「ザ・ダイバー」予告編 Men of Honor Trailer


まだまだ人種差別が残っていた海軍では、黒人が潜水士になることは叶わなかった。ニュージャージーの養成所にやってきた黒人青年・ブラシアを待っていたのは、ロバート・デ・ニーロ扮する教官ビリー・サンデーらの差別といじめであった。

しかしダイバーになるという夢のためにブラシアは努力し、闘い、見事にその夢を実現する。1966年、海に墜落した米軍の核弾頭搭載機を回収作業中、ブラシアは脚に大怪我を負ってしまう。切断、そして義足での生活。十分に海軍での活躍と栄誉を手に入れたブラシアだが、周囲の引退の声に反して、義足でのダイバーの復帰を希望する。

しかしそんな様に妻・ジョーは反対する。それはそうだ。ただでさえ危険がつきまとう「ダイバー」という職種に加え、「義足」というハンディが加わる。家族とともに安心して暮らして欲しい、そう願うのは当然だろう。

しかしブラシアは、自身の夢のために、家族と離れ復帰に向けた訓練を続ける。そしてそのブラシアに協力をするのは、かって養成所でブラシアと対立したビリーだ。ビリーもまた、マスターダイバーでありながら救出作業中に肺をわずらい潜水士としてのキャリアを絶たれた過去があったのだ。

夢のために生きる男たち。

そしてブラシアの潜水士への復帰を審査する審査会の席上には、子供たちを連れたジョーの姿があった…

この両方の作品ともに家族や全てを犠牲にしても「夢に生きる男」を描いている。しかしそれを見守る女たちの姿も、男たちの結末も全く対照的だ。「ザ・ダイバー」はよくある「感動の実話」の類だ。そしてそれこそが多くの人の望んでいる姿でもあるのだろう。しかし男が夢に生きるということはそんなに奇麗事だけでもないのだろう。「レスラー」で描かれた「悲哀」もまた現実なのだ。

この作品をかっての「セックス・シンボル」であったミッキー・ロークが演じたこともまた、何とも言えぬ味わいを加えたのだろう。

【「レスラー」評価】
総合:★★★★☆
ミッキー・ロークGJ!:★★★★☆
ブルース・スプリングスティーンの曲も最高!:★★★★★

【「ザ・ダイバー」評価】
総合:★★★☆☆
デ・ニーロの存在感は…:★★★★☆
実話を「元にした」作品といのうはどうも…:★★☆☆☆



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Bruce Springsteen - The Wrestler (Official video w/ movie scenes) 2009 HQ




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