ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括【③コンテンツ】

2009年06月27日 | コンテンツビジネス
「魅力的なコンテンツがあれば成功するはずだ」。これはこうした映像配信をやっていれば必ずいわれる言葉だ。もちろんこのビジネスの成否を握るのが「コンテンツ」であることには間違いがない。ただしここでは中身の話ではなく、その課題について整理をしておこう。

図 コンテンツ配信における課題ブロック



映像配信ビジネスの「コスト構造」は大雑把に言えば、

「コンテンツ調達コスト(利用料)」+「配信コスト」+「固定費(人件費など)」

となる。配信コストの問題と同じように大きな要素であることに間違いはない。

例えば何故、インターネットでハリウッド映画が配信されていないか。もちろん配信されていないわけではない。「シネマ・コンプレックス」や「LISMO Video」「iTS」「amazon.com」など取り組みを行っている事業者は存在する。しかしそれが多くないのはまさにコンテンツ調達コストの問題といってもいい。

コンテンツ調達コストとは、いってみれば「仕入れ」に関わるコストのことだ。

一般にコンテンツ調達コストには2つの考え方がある。「MG(ミニマムギャランティ)」と「RS(レベニューシェア)」だ。

リアルな世界では、商品を仕入れたとき、(商品が売れる売れないに関わらず)その時点で費用は発生する。これに対してネットの世界、特にこの映像配信の世界では「在庫」という概念がないこともあって、販売が成立した時点(売上がたった時点)で、コンテンツホルダーと売上の一定率または一定額をシェアするというモデルが普及している。これはまだ市場が成熟していない映像配信の分野に関して、配信事業者側に過度な負担を強いらないための知恵ともいえる。

ただし「ハリウッド映画」やメジャーなアーティストの「ライブ映像」など集客力の高いコンテンツの場合、最低限の売上を保証することを求められる場合がある。これが所謂「MG」といわれるものだ。

例えば300円の売値の商品があったとして、コンテンツホルダーの取り分を70%だとする。
完全RSの契約だとすると100個しか売れなければコンテンツホルダーの取り分は

300円×100個×70%=30,000円×70%=21,000円

となる。

しかしコンテンツホルダーと300円×10,000個=300万円のMGを設定していたとすると、配信事業者側はその販売数に関わらず事前に300万円のRS分(210万円)をCPに支払うことになる。その代わり10,000個までは追加の支払いは不要となり、10,001個目からの売上について、初めてRSが発生することになる。

MG:売上300万円(10,000個)
《CPへの支払額》
事前:210万円
販売数~10,000個:0円
販売数10,001~:210円/個

つまりMGとは、コンテンツホルダーにとっては収入を最低限保証するものであり、配信事業者の販売力があれば問題ないが、販売力がない事業者にとっては、売上よりも費用(MG)が大きくなり、事業リスクとなる。

ではそもそもRSとはどれくらいのものなのか。

これはもちろんコンテンツによって千差万別だ。ただ一般的な話をするならば、音楽業界であればコンテンツホルダーの取り分は70%前後、その他のコンテンツでも60%~70%、よほど強力なタイトルの場合、80%といったところだろうか。

つまり売上の半分以上はRSとしてコンテンツホルダーへの支払いとなり、その残った中から、配信コストや固定費を賄うことになる。映像配信とは利益率の低い商売にならざろうえない。

これはGyaOのような無料配信の場合も同じだ。

コンテンツホルダーにとっては広告収入のRSではいつ収益があがるかわからない。となると事前にコンテンツの配信権を販売事業者に販売することになる。特にコンテンツホルダーにとっては、無料配信によって既存の収入モデルにマイナスの影響がでかねない(ex.DVDパッケージ販売数の低下)と判断されれば、その補填的な意味も含めて、高額な価格になりかねない。無料配信においてもコンテンツ調達コストは大きなコストとなるのだ。

しかしこれらはいずれにしろコンテンツホルダーが制作したものを二次利用するという前提だ。自らがコンテンツに投資し製作するのだとすると、リクープライン、リクーププランも全く別な形になる。

オリジナルのコンテンツを制作するというのは、そうはいっても簡単なものではない。それ相応のノウハウも必要だし、回収できるかどうかも保証されていない。ましてPCなりモバイルなり最適化された映像というのはTVや映画ともまた違う。avexが仕掛けたBeeTVが通常のテレビよりも尺が短いのはこのことを端的に表しているだろう。デバイスが違えば視聴者の「感覚」や利用の仕方も異なってくるのだ。

まして最近ではユーザーの関心や興味が「分散化」しており、また予定調和的な世界観への「飽き」や「反動」も見られる。みんなが楽しめるコンテンツというものが作りにくくなっている。その結果、ひろゆきの言葉を借りるならば、

「これまでのテレビは,100万人が集まるコンテンツを一つ作っていた。それに対し,今のネットでは1000人が集まるものを1000個作るようなアプローチ。」

というような状況となっている。

こうした背景をあって、ネットではYouTubeやニコ動に見られるようなUGC型のコンテンツへの関心が高くなっている。UGC型のコンテンツの場合、(違法性の有無の問題はあるとしても)ユーザー自身が関心のあることをもとにコンテンツを制作するため、多様なコンテンツが生み出されることになり、結果、多様な興味・関心に対応することになる。またユーザー自身の制作欲が原点となっているため、コンテンツ製作コストや調達コストをユーザー自身が負担し、配信事業者側の負担が不要となる。配信事業者は「仕組み」側、つまり配信プラットフォームや盛り上がるための仕組み・仕掛けといったものの整備に集中することになる。

しかしこうしたUGC・CGM型のコンテンツは新たなる課題が発生する。

③-1 収益の確保
③-2 監視体制の確保
③-3 法的リスクの上昇
③-4 盛り上がるための仕組み

「収益の確保」とは言葉のとおり。こうしたCGM型のメディアの場合、投稿者/視聴者の規模によってメディア価値が決まるため、無料モデルが中心となる。しかしどのようなコンテンツが掲載されるかが見えない以上、ブランドイメージを大切にするナショナル・クライアントなどは広告出稿しにくいし、また掲載の仕方も難しい。ビジネスモデルが構築しにくいのだ。

上記にも影響を与えるのが、「監視体制の確保」と「法的リスクの上昇」という問題だ。YouTubeなど見ればわかるようにCGMの場合、著作権を侵害したコンテンツがアップされる可能性は高い。またユーザーが勝手に上げられるということで、公序良俗に反するもの、人権侵害・プライバシー侵害のあたるコンテンツがアップされる可能性もある。こうしたものに対応するための「監視体制」を大なり小なり設置する必要があり、またそれが上手く機能しない場合、配信事業者側が訴えられる可能性も高くなる。

またYouTubeの登場以降、CGM系の投稿動画サイト、動画共有サイトが続々と立ち上がったが、結局、YouTubeとニコ動に収斂された感がある。これは「盛り上がるための仕組み」が用意できなかったことが大きい要因だろう。配信事業者側ではコンテンツによる差別化が事実上不可能であり、となると、ユーザーが投稿しやすい仕組み、投稿し続けたくなる仕組み、視聴者がまた見たくなる仕組み、そういった「盛り上がるための仕組み」が必要になるのだ。

そういった意味でYouTube以降で成功したのは、ニコ動くらいしかないのではないか。しかしそのニコ動も収益的にはまだまだの状態なのだ。

UGC・CGM型の動画配信サイトもまた成功モデルを模索中といえるだろう。


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■動画コンテンツ配信・映像ダウンロードの課題総括■
【①動作環境・ネットワーク環境】
【②配信コスト】
【③コンテンツ】
【④集客・顧客とのリレーションシップ】
【⑤課金手段】
【⑥サイト】
【⑦最後に-何故、われわれは成功していないのか-】



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