ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

KDDIからiPhone5発売へ。携帯キャリアに押し寄せる競争軸の変化

2011年09月22日 | モバイル
ついにKDDIがiPhoneを発売するという。日本ではソフトバンクが独占的に販売してきたものの、既に海外では1国1キャリア制は崩れており、日本でもソフトバンク以外のキャリアが発売する可能性はあった。しかし現実には、iPad争奪戦でDoCoMoが名乗りを上げたにも関わらず、やはりソフトバンクが選ばれた。それがApple社からの条件の厳しさなのか、スティーブ・ジョブズと孫正義の仲だからなのかは分からないが。

 KDDI、「iPhone5」参入の衝撃:日経ビジネス
 iPhone販売でKDDIとソフトバンクの株価明暗 - CNET Japan

正直言うとDoCoMoではなくKDDIというのは意外でもある。しかし現実にKDDIの置かれている状況を考えれば「背に腹は代えられぬ」といったところだろうか。

もともとKDDIの小野寺会長はiPhoneに否定的だった(これは僕もそう)。当時のケータイは「ガラパゴス」であったよりもまさに「フューチャーフォン」。様々な機能やコンテンツが提供されており、しかもケータイ文化の担い手たちは、片手打ち・両手打ちでデコメいっぱいメールを打ちまくる。「キータッチ」の感触のないiPhoneはPC中心の一部世代だけだろう――。そんな思いがあったのだろう。

しかし現実にはiPhoneをはじめスマートフォンが大躍進することになる。

その様はケータイの契約件数にも現われている。大雑把にいうとソフトバンクがケータイ事業に参画した当時、DoCoMoが契約件数の1/2(5000万~6000万)を握り、残り1/2のうち、KDDI:ソフトバンク=2:1といった感じ。しかしここからソフトバンクが猛追をし、今ではKDDI 3300万件に対しソフトバンク 3000万件と1割程度の差に。当然、ソフトバンクの躍進を担っているのはiPhoneだ。

ただKDDIとしてはiPhoneやスマートフォンというのは本来受け入れにくいモデルだ。

DoCoMoのiモードが切り開いた「垂直統合モデル」。それまでの通信キャリアが「音声」「パケット通信」といったあくまで「通信インフラ」を提供する企業であったが、その後、メールやインターネット接続を提供し、特に「着うた」「着うたフル」に代表されるような「コンテンツ」まで提供するようになった(正確にいえば課金代行)。

これによりそれまでの通信キャリアの競争があくまでも「契約者数」の獲得・シェアを巡る「レッド・オーシャン」での競争であったものが、ケータイをどう利用してもらうか、他社とのシェアを巡る競争というよりもユーザーに対してどのようなサービスを開発するか、という「ブルーオーシャン」の創出を巡る競争になった。

特にauは「音楽携帯」を自認し音楽業界やラジオ業界と協力しながら「着うた・うたフル」市場を引っ張ってきた。それは音楽配信市場でiTunes Storeが勝てなかったことにも表れている。彼らは「垂直統合モデル」の勝者として発展を目指したのだ。

そうした「垂直統合モデル」への憧憬が「iPhone」や「スマートフォン」への対応を遅らせたことは想像できる。

Apple社が目指していたものは「iモード」の垂直モデルそのものだ。彼らは自らデバイスを作り、専用の販売サイトを作り、課金可能やDRMを用意し、商流の全てを支配化に入れようとした。iモードが「勝手サイト」への扉を開く前は、トラヒックの多くが専用のポータルiメニューに集中し、そこでキャリア独自のDRMや課金PFを利用し商圏が作られた。また広告配信PFを用意し何千万という利用者に対し、独占的に広告を配信することを可能にした。それら「公式メニュー」は全て、DoCoMoのコントロール下にあったのだ。

当然、Appleが目指す「垂直」モデルとDoCoMoやauが築き上げた「垂直」モデルとは競合する。

またGoogleが作り上げようとするAndroid系スマートフォンについても、日本の通信キャリアにとっては参画しにくいモデルだ。Googleは自分たちの役割をPFの維持とし、デバイスやアプリケーションについては自らが独占的に手がけようとはしない。

ただしAndroid OSはGoogleのサービスとの連携を前提に作られている。ユーザーのアカウントも、プロファイルもメールも位置情報も、ユーザーとの接点となるあらゆる情報が通信キャリアからGoogleに移る可能性がある。Appleのように明らかに「競合」となるわけではないが、いつ「競合」になっても、否、いつ自分たちのポジションが乗っ取られてもおかしくないのだ。

しかし「ガラケー」から「スマートフォン」への流れは変わらない。ただでさえ飽和した市場だ。このまま手をこまねいていてはiPhone/ソフトバンク陣営に攻められっぱなしとなる。いち早くDoCoMoはAndroid系スマートフォンへの舵を切った。矢継ぎ早に新機種を投入し、ガラケーで提供してきた「公式コンテンツ」をスマートフォンでも提供できるようにした。iモードメールアカウントもスマートフォンでそのまま使えるようにもした。

そしてソフトバンクの足音が聞こえてきたauも禁断のiPhoneに手を出すことに…

このことは何を意味しているのだろう。

通信キャリアにとっては、せっかく作り上げた「垂直統合モデル」から通信インフラを巡る競争に戻ることを意味している。iPhoneやAndroidを担ぐ以上、通信キャリアが上位レイヤーまでを独占的に提供することは不可能だ。国内の伸びしろも限られている。しかもトラヒックは尋常でない伸びをするだろう。定額制サービスで収入が頭打ちである以上、この通信インフラへの設備投資は決して軽いものではない。

そうなるといかに契約者を増やすか、シェアを取るか、「面」を押さえるかが勝負のポイントとなる。再び「レッドオーシャン」が繰り広げられるのだ。

今回のKDDIのiPhone販売は、既に通信キャリアが、その独占的な地位を利用して、安定的なビジネスを行えた時代が終わったことを告げているのだろう。

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