ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

V-Low マルチメディア放送 i-dio と Amanek

2016年03月07日 | ITS
アナログTVの空地利用によるマルチメディア放送といえば、最近事業継続を断念したNOTTVが頭に浮かぶが、そうしたタイミングで新放送事業が発表された。その名もi-dio。思わずヨーイディオ!と叫びたくなったが、中身を見るとNOTTVとは随分違うようだ。
ここではその中でITSがらみの車向け放送であるAmanekチャンネルについて書く。

Amanekチャンネルはホンダでインターナビを手掛けた我が国のテレマティクスの第一人者である今井氏が立ち上げた新事業。V-Low帯域を使ったドライバー向けの放送であり、現時点では対応する車載端末はないが、ナビなどへのチューナー搭載を将来的には当然想定されているとおもう。
車+通信を推進してきた今井氏がなぜここで放送事業なのかという疑問に対しては、プレスリリースやRESPONSEなどでその理由が語られている。
もうすぐ5年になる東日本大震災。その時、津波の情報や渋滞の情報がうまく伝わらず不幸にもかなりの方が車ごと流されてしまった。災害時に通信はパンクしてしまう。確実に多くの人に正確な情報を届ける機能は放送が勝る。サービス名の「あまねく」もそれに由来しているのだろう。

残りの人生をそこにかけるというその志には感銘を受けるし、公共利益を優先するというのはHONDAのDNAなのかもしれない。(これは全く違う分野で私自身が経験している)

しかし、前途は多難だ。おそらく今井氏も十分承知しているとおもう。

V-Lowマルチメディア放送は全国をいくつかのブロックに分けて運営される。
それにより、その場所に即した情報をタイムリーに該当するリスナーに提供することができるので、災害通報等に強みをもつ。
しかしこの事業の黒字化が相当難しということは、FM東京系のi-dio事業主体会社が認めている。電波使用料の値下げがないと事業は黒字化せず、また大都市圏以外では黒字化は難しいとしている。電波使用料のラジオ並みへの値下げがあり、それにプラスして大都市圏の黒字で地方局の事業を補うことでやっと成立するとしている。
さらに、実際に有効な災害通報を行うためにはさらに細分化した地域別放送が必要となる。これについてはその事業者は収益モデルを期待できないことから、自治体のほか、設備投資面でデジタル化に対応できない地方局の参加、高速道路会社やカーメーカーの参画を呼び掛けているようだ。

カーメーカーの参画という意味では、今井氏との関係からすでにホンダは各放送会社に出資している。しかしその他のカーメーカーに拡大するのは容易ではないだろう。
また高速道路会社もSA・PAの情報や落下物情報などを適時に提供するという需要があるが、それはITSスポットと競合する。高速道路会社としては二重投資に思えるだろう。

さらに、こうした出資者が集まったとしても肝心の消費者需要という面も簡単ではない。放送されるコンテンツの大部分はドライブ向け音楽になるようだが、それがいかに高音質であろうとも好きなジャンルはみな違うし、AMラジオ局リスナーに対しては音楽だけを流すラジオは受けないだろう。
また、災害時の緊急放送が入るというメリットだけで、Amanekチャンネルを常時聴取する人がどれだけ出てくるだろうか。
災害時の緊急放送は既存のラジオでも提供されている。(でもラジオを聞かない人も多い)
現行ラジオに対する優位性はマルチメディアである=車載器に画像情報が提供されるということなのだが、ユーザーはそれに対価を払うのだろうか?もちろん放送だから無料だが、チューナー(レシーバー)は必要だ。カーメーカーやナビメーカーがコストアップしてでもつけようと思うほどの需要が発生するかがポイントとなる。

かなり難しい事業となるだろう。