SF小説：「ナクバの東」（６１）

(英語版)

(アラビア語版)

Part II：「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」

 

６１. エスニック・クレンザー(民族浄化剤)（４）

 

将軍の耳にドクター・ジルゴの口を借りた悪魔の声が聞こえて来た。

＜パレスチナ人だけがこのウィルスに感染する。感染したパレスチナの若い女は卵子が無くなるかごくわずかしか残らない。数世代の長い時間がかかるが、パレスチナ人は着実に滅亡への道を歩み始める。しかもこれはすでに生まれた人間を殺すことにはならないから殺人でもなければホロコーストでもない。＞

 

彼はウィルスの人体実験にゴーサインを出した。彼は軍医総監に電話し、実験を軍の管轄下で極秘に行うこと、実行部隊の軍医たちには真実を知らせないことを念押しした。

 

人体実験には大都市のベッドタウンN市が選ばれた。そこにはパレスチナ人とアシュケナジムを含むユダヤ人の老若男女が混住しており、被験者の人数、構成などが理想的だったからである。すぐ近くに陸軍病院があったことも選ばれた理由の一つであった。

被験者には来るべきインフルエンザのシーズンに備えた新型ワクチンの予防接種だと知らされた。そして接種後多少発熱するものの数日で収まるが、もし高熱が出るようであればすぐに軍病院に連絡するよう指示があった。

 

接種はごくスムーズに実施された。ユダヤ人たちは軍が関与していることに安心し、パレスチナ人たちは軍に盾突けばどうなるかこれまで何度も思い知らされているので従順に従った。

 

接種して数日後、発熱が収まらないと病院に駆けつける者が少なからずいた。そのほとんどはパレスチナ人で、しかも閉経前の成人女性或いは女の子であった。ユダヤ人の場合は、何割かの女性が相談に訪れたが、大半の女性とほとんどの男性は発熱症状が無かった。

 

その結果を聞いたジルゴは予想通りであったとほくそ笑んだ。最後に残されたのは女児を含む閉経前の女性の生殖検査だけであった。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで：http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

石油と中東のニュース(12月18日)

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート：https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・トルコ、欧州最大の天然ガス地下貯蔵設備完工。露大統領のトルコハブ説に弾み。

(中東関連ニュース)

・ネタニヤフ次期首相：パレスチナに自治認めるが主権は与えない。

・米で第2回アフリカサミット。49カ国の首脳が出席。

・イラン、政府抗議活動のアカデミー賞映画出演の有名女優を逮捕。

・イランとサウジが12/20日にヨルダンで2国会談か：レバノン紙報道。

・イランと北朝鮮、学術交流強化を協議。

・IMF、エジプトに30億ドルの借款。民間借り入れ140億ドルの呼び水に。

・パレスチナはワールドカップ最大の勝者。各国チーム、サポーターが支援表明。

・エジプト航空、ロシアからの観光客向けカイロ-モスクワ便を週14往復に増便。

 

今週の各社プレスリリースから(12/11-12/17)

12/12 JX石油開発

マレーシア・ペトロナスチャリガリとの覚書の締結について

https://www.nex.jx-group.co.jp/newsrelease/upload_files/carigaliJP_20221212.pdf

 

12/13  Shell

Shell to sell non-operated interests in Malaysia’s Baram Delta

https://www.shell.com/media/news-and-media-releases/2022/shell-to-sell-non-operated-interests-in-malaysia-baram-delta.html

 

12/14 ExxonMobil

ExxonMobil starts operations at large-scale advanced recycling facility

https://corporate.exxonmobil.com/news/newsroom/news-releases/2022/1214_exxonmobil-starts-operations-at-large-scale-advanced-recycling-facility

 

12/15 Aramco/TotalEnergies

Aramco and TotalEnergies to build a giant petrochemical complex in Saudi Arabia

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/aramco-and-totalenergies-build-giant-petrochemical-complex-saudi-arabia

 

12/15 chevron

chevron invests in carbon capture and removal technology company, svante

https://www.chevron.com/newsroom/2022/q4/chevron-invests-in-carbon-capture-and-removal-technology-company-svante

石油と中東のニュース(12月16日)

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート：https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・IEA、石油需要予測を上方修正。2023年は170万B/D増の1億160万B/D。

・ロシア大統領：欧州向けガス価格はトルコに設置されるガスハブで決定。

・ハンガリー、カタールとLNG輸入商談開始。ロシア依存脱却へ。

(中東関連ニュース)

・エジプト、米国務長官、国防長官との会談で地域リーダーのお墨付き獲得。

・国連女性の地位委員会からイランを除名。

・レバノンで国連治安部隊のアイルランド兵、ヒズボラとの戦闘で死亡。

・GCC各国中央銀行、米連銀に追随して金利0.5%アップ。

・トルコで無人戦闘機｢赤いリンゴ｣初飛行。

・サウジアラムコ、仏TotalEnergiesとジュベールで110億ドルの石化合弁事業。

・イラン：テヘラン大学と日本大使館が社会経済開発計画支援のMoU締結。

SF小説：「ナクバの東」（６０）

(英語版)

(アラビア語版)

Part II：「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」

 

６０. エスニック・クレンザー(民族浄化剤)（３）

 

『シャイ・ロック』は『ドクター・ジルゴ』の言葉を眉根一つ動かさずに受け流して尋ね返した。

 

「米国留学の成果は出たかね？」

会話の主導権は最初から世知に長けた将軍のものであった。

 

「はい、今日はその件で閣下のお力を借りたくお伺いした次第です。」

将軍の鷹のような目に射抜かれ、ジルゴは直立不動の姿勢で答えた。

 

それからしばらくの間、将軍は若い医師の話を黙って、しかし注意深く聞いていた。医師の話は先客の軍医総監から聞いた内容を裏付けるものであった。将軍はジルゴに会うことを決めると直ちに軍医総監と連絡を取り、ジルゴが発見したと噂されている新型ウィルスについて話を聞いていた。そして今、将軍はジルゴの新発見が本物であると確信した。そして彼の発見したウィルスにユダヤ人の将来を賭けてみようと思ったのである。

ユダヤ人こそ選ばれた民であると固く信じている将軍は、約束されたカナンの地で独立したイスラエルがその後数度にわたるアラブ人との戦争にも圧勝し、米国の後ろ盾を受けて世界がその存在を認めるようになったことに満足していた。そして周囲のアラブ諸国に軍事的或いは経済的には絶対負けることは無いと確信していた。

しかしそのイスラエル国内においてユダヤ人とパレスチナ人の人口比率が年々変化しつつあることに彼は懸念を抱いていた。パレスチナ人女性の妊娠率がユダヤ人のそれを上回っているのである。さらに厳密に言えば、同じユダヤ人家族でも血統の違いによって人口の増加率が変わる。即ちソ連崩壊時にロシアから移住した家族に対して退役将軍のようなアシュケナジムの家族は子供の数が少ない。将軍がユダヤ人の純粋な血統と信じるアシュケナジムの比率は下がる一方であり、将来アシュケナジムがパレスチナ人や非アシュケナジムのユダヤ人の中に埋没してしまうおそれがある。それが将軍の心配事であった。

 

物理的にパレスチナ人を排除することは、かつてナチスが自分たちユダヤ人を地上から抹殺しようとしたホロコーストの再現である。かと言ってアシュケナジムだけを対象に子孫を増やす政策を実施する訳にもいかない。今や社会支配層として豊かな生活を満喫しているアシュケナジムの若い女性たちはいずれの近代国家でもそうであるように多くの子供を欲しがらない。将軍はアシュケナジムの将来に焦燥感を抱いている。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで：http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

石油と中東のニュース(12月14日)

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート：https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・米加パイプライン事故と中国コロナ対策緩和で油価上昇。Brent $79.02, WTI $74.31。

・OPEC需要増加見通し：今年255万B/D、来年225万B/D。

・イラン、経済制裁下でも1-7月の石油収入340億ドル：米IEAレポート。

(中東関連ニュース)

・岸田首相、クウェイト皇太子と電話会談。エネルギー安定供給に謝意。

・トルコ大統領：シリア/イラクのクルド勢力の地上掃討作戦開始時期は未定。

石油と中東のニュース(12月12日)

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート：https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・サウジ石油相：EUのロシア原油価格上限制の効果は今のところ不明。

(中東関連ニュース)

(習近平主席サウジ訪問関連)

・習主席、3日間のサウジ訪問終え帰国へ。

・アラブ-中国サミット開催。エジプト大統領他出席、関係強化を確認。

・イラン、3島領有権問題で中国のGCC傾斜に強い不満表明。

 

・トルコ大統領、露大統領にシリア北部クルド人の掃討方針を伝える。

・イラン：政府非難したハメネイ最高指導者の姪、3年の懲役刑に。

・イラン：反政府抗議活動で通貨の対ドルレート最低水準に。

・シリア通貨の対ドルレート、最安値を更新。2011年の47ポンドが6,000に。

・UAE月面探査機、日本の着陸船に乗ってスペースXロケットで打ち上げ。

・エジプトの観光産業回復。2021年の旅行客8百万人、収入90億ドル。

SF小説：「ナクバの東」（５９）

(英語版)

(アラビア語版)

Part II：「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)」

 

５９. エスニック・クレンザー(民族浄化剤)（２）

 

『ドクター・ジルゴ』の想定では、新発見のウィルスはパレスチナ人にもアシュケナジなどのユダヤ民族にも感染し発熱するが、熱は数日で収まり後遺症は残らないはずであった。また致死率はほぼゼロであり危険性は高くないと予測できた。しかし感染後に診断すれば、パレスチナ人女性だけには致命的な影響力が残るはずであった。それは彼女たちの生殖能力が著しく減退するというものである。

 

『ドクター・ジルゴ』は自分の仮説を証明するために人体実験を行う必要があった。ただし政府機関が彼の要求をまともに取り扱うはずがない。それを突破するためには、イスラエル政府のトップに影響力がある有力者の後押しが不可欠である。もしその有力者がアシュケナジの血統の正統性を信じ、一方でパレスチナ人の増加を懸念している人物であれば、きっと話に乗ってくれるであろうと彼は考えた。

 

彼は旧知の『シャイ・ロック』にあたってみようと考えた。『シャイ・ロック』はかつての片思いのシャロームの父親であり、二人の仲を裂くために彼を米国に遠ざけた男である。しかしそれは彼にとって遠い昔の話である。むしろ米国で先端医学を学んだことで、ロシア系ユダヤ人の彼は帰国後に政府機関の要職を手にしたのであった。彼は栄誉名声のためであれば利用できるものは何でも利用する男であった。彼は『シャイ・ロック』に面会を求めた。

 

『ドクター・ジルゴ』はアナットに案内されて『シャイ・ロック』の執務室に入っていった。

 

｢閣下、再びお目にかかれて光栄です。お元気なご様子何よりです。｣

 

彼は「再び」と言う言葉を強調して、シャイ・ロックの注意を引こうとした。

 

数年前次女ゴルダとの結婚を願い出た時以来、二度目の出会いであった。父親は娘との結婚に猛反対し、別れる条件として米国留学をちらつかせた。ジルゴはその話に飛びついたのである。

そもそもロシアの貧しい農家出身の自分とエリートのアシュケナジ出身のシャロームとでは身分の差が大きく、結婚が難しいことは解っていた。だからこそ将軍の娘との結婚と米国留学を天秤にかけ、実利を取ったのである。ジルゴはどこまでも勘定高い男であった。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで：http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

石油と中東のニュース(12月10日)

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート：https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・仏TotalEnergies、ロシアガス企業Novatekとの関係断つ。損失37億ドル計上。

(中東関連ニュース)

＊(習近平国家主席、サウジ訪問関連記事)

・習主席来訪に最大級のもてなし。米大統領来訪時と様変わり。

・習主席、対サ・GCC・アラブ主要国との3つの会議で内政不干渉、領土の一体性、エネルギー協力を確約。

・サウジと中国、華為含む35件、総額300億ドルのMoU締結。

・イラン、デモ逮捕者に初の死刑執行。

・米バスケットボール選手と露武器商人の犯罪人引渡にUAE/サウジが仲介。

・エジプト政府、財政破綻説を否定。

 

 

今週の各社プレスリリースから(12/4-12/10)

12/4 OPEC

34th OPEC and non-OPEC Ministerial Meeting

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/7060.htm

 

12/5 石油連盟

石油連盟会長コメント　 第34回OPECおよび非OPEC閣僚会合の終了にあたって

http://www.paj.gr.jp/news/515

 

12/6 JOGMEC/INPEX

豪州LNG事業におけるCO2排出低減のためのCCS事業に向けた共同研究の開始について

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00071.html

 

12/7 chevron

chevron announces 2023 capital expenditure budgets

https://www.chevron.com/newsroom/2022/q4/chevron-announces-2023-capital-expenditure-budgets

 

12/8 JOGMEC

オーストラリア連邦西オーストラリア州政府と石油・天然ガス、水素・アンモニア、CCS／CCUSに関する協力覚書を締結

https://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_00072.html

 

12/8 コスモ石油他

岩谷産業/宇部マテリアルズ/ＫＨネオケム/コスモ石油/ＪＦＥスチール/ＪＮＣ/デンカ/丸善石油化学/ＵＢＥエラストマー/横河電機千葉県市原市五井地区、千葉市蘇我地区におけるカーボンニュートラルなコンビナートの実現に向けた共同検討の覚書を締結

https://coc.cosmo-oil.co.jp/press/p_221208/index.html

 

12/8 ExxonMobil

ExxonMobil announces corporate plan – Company expects to double earnings and cash flow potential by 2027, increases investments in lower-emissions efforts

https://corporate.exxonmobil.com/news/newsroom/news-releases/2022/1208_exxonmobil-announces-corporate-plan-to-double-earnings-and-cashflow-potential-by-2027

 

12/8 bp

bp to explore potential for green hydrogen production in Egypt

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-to-explore-potential-for-green-hydrogen-production-in-egypt.html

 

12/9 bp

bp’s position in Russia

https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bps-position-in-russia.html

 

12/9 TotalEnergies

Russia: TotalEnergies decides to withdraw its directors from Novatek and will no longer equity account for its stake in Novatek and record a 3.7 b$ impairment in Q4

https://totalenergies.com/media/news/press-releases/russia-totalenergies-decides-withdraw-its-directors-novatek-and-will-no

 

12/9 Aramco

Aramco and Shandong Energy collaborate on downstream projects in China

https://www.aramco.com/en/news-media/news/2022/aramco-and-shandong-energy-collaborate-on-downstream-projects-in-china