石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

SF小説:「ナクバの東」(54)

2022-11-24 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

54. 悪魔の発明(2)

 

 『ドクター・ジルゴ』が医学の道を選んだのはキブツでの単調な農作業が厭だったからだ。彼は富と名声を求めて医師を目指した。そして大学に入学すると臨床医ではなく研究者としての道を選んだ。それは適性を自己診断したと言うより、この世界で名を成したいと言う欲望があったからである。

 

臨床医として患者の治療に取り組み、回復すれば患者から喜ばれる。しかしそれは患者1人からの感謝或いは賞賛に過ぎない。時には患者の家族からも感謝されることもあろう。場合によっては医師としての世評が高まるかもしれない。しかし『ドクター・ジルゴ』はその程度の評価に満足できないのであった。

 

 それに比べ研究者として世界に鳴り響くような発見、そしてそれによって仮にノーベル賞でも受賞できれば-----と言うのが彼が研究者を志した動機であった。そのような世界的発見ができる可能性が極めて低いこと、ノーベル賞など夢のまた夢であることが解らないほど彼も愚かではなかったが、若い彼は名声を獲得する夢に取りつかれていた。医学の道では名声を得れば富は後からついて来る、というのが彼の信念であった。

 

 彼の夢の追求のしかたは極めて現実的である。名声を博するには、現在或いは将来世間が最も注目している分野で業績をあげること。その分野として彼の出した結論は遺伝子ベースの病理学の研究であった。

 

但し研究のための研究といった地味な取り組み方ではイスラエル政府もメディアもなかなか取り上げてくれない。彼が考えたのは遺伝子コードを解明しユダヤ民族が人類の中で最も優秀であることを証明すると言う壮大なアイデアであった。

 

もしそのような遺伝子コードが解明されれば、次には遺伝子操作を行うことで優秀なユダヤ人の繁殖率を高めることも可能である、と彼は考えた。現在イスラエル国内ではアラブ系国民の増加率がユダヤ系のそれを上回っており両者の人口比が将来逆転するのではないかと言われており、ミズラフィムなど純粋のユダヤ人(と自らを信じている人々)は本気で憂慮している。従って生物学的な方法でユダヤ人が増えることは大いに歓迎されるに違いない-------。『ドクター・ジルゴ』はそう考えた。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

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巨額の利益、Exxon197億ドル、アラムコ424億ドル:2022年7-9月期石油企業決算速報 (11)

2022-11-23 | 海外・国内石油企業の業績

III. 過去2年間の四半期業績推移(続き)

(原油価格と見事に連動するExxonMobilの売上高!)

2.売上高の推移

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-61.pdf 参照)

 2020年10-12月期から今期(2022年7-9月期)までの売上高の推移を見ると、アラムコはIOC5社を常に大きくリードしている。同社の2020年10-12月期の売上高は716億ドルであったが、2021年7-9月期には1千億ドルを突破している。その後も原油価格と連動するように毎期売上高は膨れ、前期(2022年4-6月期)は過去8四半期では最も多い1,729億ドルに達している。今期は原油価格の下落(Brent;$114→$106)で売上高は減少に転じたが、それでも2020年10-12月期の2.3倍に増加している。

 

IOC5社の中では2021年10-12月期を除きExxonMobilが常に売上高トップである。同社の売上高は2020年10-12月期の465億ドルから今期は2.4倍の1,121億ドルに増加している。対前期比増加率は27.1%(2021年1-3月期)→14.5%(4-6月期)→8.9%(7-9月期)→15.2%(10-12月期)→6.5%(2022年1-3月期)→27.8%(2022年4-6月期)→▲3.1%(7-9月期)であるが、これはBrent原油の増減率38.4%→12.8%→6.6%→8.5%→28.2%→11.4%→▲4.7%と極めて近似しており、同社はアラムコ及びIOCsの中で最もセンシティビティが高いことがわかる。

 

上記以外の4社の売上高の推移は以下のとおりである。(単位:億ドル)

                   2020            2021年                              2022年   

              10-12   1-3      4-6      7-9      10-12   1-3      4-6      7-9

Shell             440      557      605      600      853      842      1,001    957

TotalEnergies  379      437      470      547      603      686      748      690

Chevron         248      311      361      426      459      523      654      635

Bp                302      365      376      379      522      512      695      578

 

TotalEnergiesとChevronもExxonMobilとほぼ同様の傾向が見られる。一方、Shellとbpは毎期の売り上げ変動幅が大きく、原油価格以外の要素(例えば天然ガスの時価取引、ロシア合弁事業の政治的要因等)に左右されているものと思われる。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                              E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

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石油と中東のニュース(11月22日)

2022-11-22 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

・原油価格2か月来の低値。Brent $86.90, WTI $79.53。中国のロシアからの輸入増加

・サウジ石油相、OPEC+の増産協議報道を否定

・中国Sinopec、カタールと400万トン/年、27年間の長期LNG輸入契約締結

(中東関連ニュース)

・トルコ、シリア領内のクルド地区空爆、31人死亡

・米大統領:サウジ皇太子の首相就任で法的にはカショギ事件訴追免除

・油価高騰でクウェイト経常赤字3年ぶりで縮小

・トルコで初の無人攻撃ジェット機試験飛行

・UAE、サウジのAランク事務所賃貸料上昇。リヤド地区では占拠率98%

(カタール・ワールドカップ関連ニュース)

・FIFAの収入見込み75億ドル。日韓大会の4倍

・FIFA会長、欧米のカタール叩きを偽善と反論

・イランチーム、反体制デモに共鳴、国歌斉唱で沈黙

 

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巨額の利益、Exxon197億ドル、アラムコ424億ドル:2022年7-9月期石油企業決算速報 (10)

2022-11-22 | 海外・国内石油企業の業績

III. 過去2年間の四半期業績推移

 ここでは2020年10-12月期以降2022年7-9月期までの8四半期の業績推移を比較する。

 

(過去8期累積で2,540億ドルの利益を稼ぎ出したアラムコ!)

1.純利益の推移

(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-62.pdf 参照)

  2020年10-12月期はコロナ禍の影響でIOCs5社はExxonMobilが巨額の損失(▲225億ドル)を計上、Shell及びChevronもマイナスであり、bp(+14億ドル)及びTotalEnergies(+9億ドル)の利益水準も低かった。このような中でアラムコは140億ドルの利益を確保している。

 

続く2021年1-3月期はIOCs各社の業績も回復しShellが57億ドルの利益を計上したほか、全社がプラス決算であった。アラムコは安定した業績で利益は前期を大きく上回る217億ドルに達した。

 

直近8四半期の損益状況の推移を見ると、アラムコの利益は高位安定しているのが特徴で、前期(2022年4-6月期)までは毎期大幅増益であった。今期(7-9月期)は若干減益になったものの2021年1-3月期利益の2倍に達している。

 

これに対してIOCs5社のうち毎期安定した利益を計上したのはTotalEnergies1社だけである。ExxonMobil及びchevronも2021年1‐3月期以降は安定しほぼ毎期増益基調である。一方Shellは損益のブレが大きく、bpは8期中3期がマイナスであるなど安定していない。

 

因みにIOCs5社の損益合計額とアラムコ1社の損益を比較すると、8期間の累積損益ではアラムコは2,540億ドルの利益を稼ぎ出したのに対し、IOCs5社の累積利益はその7割弱の1,680億ドルにとどまっている。この間の四半期平均利益額はアラムコの318億ドルに対しIOCs5社は210億ドルである。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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巨額の利益、Exxon197億ドル、アラムコ424億ドル:2022年7-9月期石油企業決算速報 (9)

2022-11-21 | 海外・国内石油企業の業績

II. IOCs五社とアラムコの業績比較(続き)

(アラムコの投資はIOCsの2~3倍!)

5.設備投資[1]

(図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-54.pdf 参照)

 IOCs5社の7-9月期設備投資は、ExxonMobilが57億ドルで最も多く、これに次ぐのがShell(53億ドル)、TotalEnergies (47億ドル)である。bp及びchevronは30億ドル強にとどまっている。前年同期に比べるといずれも増加しており、また前期(4-6月期)比ではExxonMobil及びbpが増加、TotalEnergiesは横ばい、Shell及びchevronは減少している。

 アラムコの今期投資額は90億ドルでありIOCs5社の1.6乃至3倍である。また前年同期比では2割増加しているが、前期比では若干減少している。

 

(原油・天然ガス共にExxonMobilがトップ!)

6.石油及び天然ガス生産量

(図http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-55.pdf 参照)

(注)アラムコの決算資料では原油.天然ガスの個別生産量を明示されておらず、同社Interim Reportで合計生産量が開示されている。

 

(1)原油生産量[2]

 IOCs5社の中で2021年7-9月期の原油生産量が最も多かったのはExxonMobilの2,398千B/Dであり、5社中ただ一社2百万B/Dを超えている。ExxonMobilに次いで生産量が多いのはChevron(1,707千B/D)でExxonMobilの8割である。第3、4位はTotalEnergies(1,494千B/D)、Shell(1,273千B/D)。bpは最も少ない959千B/Dで5社の中で唯一100万B/Dを下回っている。

 

(2)天然ガス生産量[3]

 天然ガスの生産量が最も多いのはExxonMobilとchevronで石油に換算すると共に1,320千B/Dであった。3位以下はTotalEnergies 64億立方フィート(石油換算1,175千B/D )、第4位Shell 30億立方フィート(石油換算516千B/D )であり、最も少ないのはbpの21億立方フィート(石油換算358千B/D )であった。

 

(アラムコ生産量は1,440万B/D、IOCs5社合計1,250万B/Dを凌駕!)

(3)石油・天然ガス合計生産量[4]

 IOCs5社の中で石油と天然ガスの合計生産量が最も多いのはExxonMobilの3,716千B/D(石油換算、以下同じ)である。2位はchevronの3,027千B/D、続いてTotalEnergies(2,669千B/D)及びShell(1,789千B/D)、5社の中で最も少ないbpは1,317千B/Dであった。ExxonMobilの生産量を100とした場合、他の4社はchevron 81、TotalEnergies 72、Shell 48、bpは35である。Shellの生産量はExxonMobilの2分の1、bpは3分の1となる。

 

 これら5社に対しアラムコの生産量は1,440万B/Dであり、IOCs5社の合計生産量(1,252万B/D)を大きく上回っている。この生産量はExxonMobilの4倍、bpの10倍に達している。

 

 IOCs各社の石油と天然ガスの比率を見ると、ExxonMobilは石油65%、天然ガス35%であり、その他の4社はShell(石油71%:天然ガス29%)、bp(石油73%:天然ガス27%)、TotalEnergies(石油56%:天然ガス44%)、chevron(石油56%:天然ガス44%)である。5社いずれも石油の比率が天然ガスを上回っているが、石油の比率が最も高いのはbp(73%)で、逆に最も低いのはTotalEnergies及びchevron(56%)である。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1]  「設備投資」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Capital and Exploration Expenditures

Shell:Capital expenditure, Consolidated Statement of Cash Flow

bp:Capital expenditure

TotalEnergies:12. Net investments

Chevron:Capital & Exploratory Expenditure, Worldwide

SaudiAramco: Capital Expenditure, Financial results,

[2] 「原油生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Net production of crude oil, natural gas liquid, bitumen and tsynthetic oil

Shell:Liquid production available for sale

bp:Production (net of royalties), Liquids

TotalEnergies: 3.3 Production, Liquids

Chevron:Net liquid production

[3] 「天然ガス生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Natural gas production available for sale

Shell:Natural gas production available for sale

bp:Production (net of royalities), Natural gas

TotalEnergies:Hydrocarbon production, Gas

Chevron:Net natural gas production, Worldwide

[4] 「石油・天然ガス合計生産量」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil: Production, Earnings and Volume Summary                  

Shell:Total production in barrels of oil equivalent    

bp:Production (net of royalities), Total hydrocarbons             

TotalEnergies: 3.3 Production

Chevron:Total net oil-eqivalent production 

SaudiAramco: Interim Report, Highlights, Upstream

 

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SF小説:「ナクバの東」(53)

2022-11-21 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化剤)

 

53. 悪魔の発明(1)

 数日後、その男『ドクター・ジルゴ』は『シャイ・ロック』の家に現れた。秘書として彼を応接間に招じ入れたアナットは彼の洗練された着こなしに驚きを隠さなかった。今の彼はエリートそのものにしか見えない。かつてストーカーまがいの行為で妹を追いかけていた『ドクター・ジルゴ』は―その頃はまだドクターではなかったがーヒッピー風の長髪に汚れたT-シャツ、洗いざらしのジーンズを着た青年だった。

 

ロシア系移民ということで肌が白いことだけが取り柄で、もし彼がアラブ系やアフリカ系であったならアナットはその青年に間違いなく罵声を浴びせていたであろう。その時のアナットは彼の肌の色に免じて彼の妹に対する無礼な行為を諄々とさとしただけであった。

 

 という訳で二人は初対面ではなかったのだが、アナットは目線を軽く合わせただけでソファーをすすめた。

 

 「父は先客がありますのでここでしばらくお待ちください」

 

 『ドクター・ジルゴ』もまるで昔のことなど何もなかったかのようにソファーに身を沈めると部屋の中をぐるりと見回し、

 「なかなか良い家具を集められましたね。マントルピースの上のリヤドロ人形がまた趣味の良さを見せています。こんな快適な部屋は滅多にないですよ。」

 アナットは彼の如才なさに鼻白んだが誉められて悪い気はしなかった。

 

 その時書斎の扉が開いて一人の初老の男が出てきた。それはテレビか新聞のどこかで見慣れた顔であったがすぐには思い出せなかった。

 

 「どうも御苦労さまでした。父とのお話合いはいかがでした?」

アナットの問いかけに男は何か答えようとしたが、ソファーに座った若い男が自分に強い視線を浴びせかけていることに気付きすぐに言葉を飲み込んだ。

 

「将軍は相変わらずお元気ですね。それでは今日はこれで。」

 男は当たり障りのない挨拶をするとそそくさと応接間を出ていった。アナットがその後を追った。玄関の車寄せに乗用車が滑り込んで来る音が聞こえる。

 

 「確かあの方は-----------」

初老の男の名前を思い出した『ドクター・ジルゴ』が先客の見送りから戻ってきたアナットに問いかけた。しかし彼女はその質問を制するように彼をソファーから立たせると『シャイ・ロック』の待つ書斎へと案内した。

 

「父は忙しいものですから面会時間は当初のお約束通り20分と言うことでお願いします。」

 今の彼女は何処までも優秀な秘書である。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 

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石油と中東のニュース(11月20日)

2022-11-20 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・エジプトCOP27会議、損失補填基金巡り紛糾、3種の最終文書案提示

・米第五艦隊、ペルシャ湾海域に無人ドローン艦艇100艘配備

・トルコ、北部シリアのクルド人居住地区を空爆

・サウジ皇太子、タイ訪問。エネルギー協力協定締結

・カタールワールドカップ、試合会場でのビール提供を急遽中止

 

 

 

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石油と中東のニュース(11月18日)

2022-11-18 | 今日のニュース

(石油関連ニュース)

原油/天然ガス価格チャート:https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

(中東関連ニュース)

・COP27:会期1日を切り議長国エジプトと国連事務総長が各国に妥結促す

・ウクライナ穀物輸出、4か月延長に合意

・米、中国関連中心にイラン13社を経済制裁対象に追加

・サウジ皇太子訪韓、石油化学、鉄道など総額300億ドルの契約締結

・アブダビADIPEC博覧会閉幕、総額82億ドルの商談成立

 

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巨額の利益、Exxon197億ドル、アラムコ424億ドル:2022年7-9月期石油企業決算速報 (8)

2022-11-18 | 海外・国内石油企業の業績

II. IOCs五社とアラムコの業績比較(続き)

4.キャッシュフロー[1]

(アラムコの営業C/FはExxonMobilの2倍、bpはExxonMobilの3分の1!)

(1)営業キャッシュフロー(以下C/F)[2] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56a.pdf参照)

 IOCs5社の今期営業C/FはExxonMobilが最も多い244億ドルで、これに次ぐのはTotalEnergiesの178億ドル、chevron 153億ドル、Shell 125億ドルであり、bpは最も少ない83億ドルである。これに対してAramcoの営業C/Fは540億ドルである。ExxonMobilを100とした場合、アラムコ221、TotalEnergies 73、chevron 63, Shell 51, bp 34である。

 

(投資に積極的なアラムコ、消極的なIOCs!)

(2)投資C/F[3] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56b.pdf参照)

(注)ExxonMobilは7-9月期の投資C/Fを開示していない。

 投資C/Fによるキャッシュの流出はアラムコが最も多く▲287億ドルである。IOCs4社ではShellが最も多いが(▲50億ドル)、アラムコの5分の1以下にとどまっている。TotalEnergiesは▲41億ドルだが、Chevron及びbpはそれぞれ▲28億ドル、▲26億ドルでありIOCsは投資に消極的である。

 

(豊かなフリーC/Fを誇るExxonMobil!)

(3)フリーC/F[4](図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56c.pdf参照)

(注)bp及びTotalEnergiesは7-9月期のフリーC/Fを開示していない。

 フリーキャッシュフローとは、会社が事業活動で稼いだお金のうち、自由(フリー)に使える現金(キャッシュ)がどれだけあるかを示すものである。

 

 フリーC/Fが最も多いのはアラムコの450億ドルである。ExxonMobilが220億ドルでこれに続いており、ChevronとShellはそれぞれ123億ドル及び75億ドルであった。アラムコのフリーC/FはExxonMobilの2倍、Shellの6倍に達する。

 

(返済が新規借り入れを上回るExxonMobil!)

(4)財務C/F[5] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56d.pdf参照)

財務C/Fの収支はExxonMobillが6社の中で唯一60億ドルのプラス勘定である。これは7-9月中の返済が新規借り入れを上回ったことを示しており、財務状況が改善している。同社を除くIOCs4社はいずれも▲90億ドル台のC/Fである。これに対してアラムコの財務C/Fは▲216億ドルとIOCs各社に比べ際立って高い水準である。

 

(300億ドル前後で肩を並べるIOCs各社、アラムコは700億ドル超!)

(5)C/F期末残高[6] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-56e.pdf参照)

(注)chevronは7-9月期のC/Fアラムコ残高を開示していない。

 9月末キャッシュフロー残高を比較すると、残高が最も多いのはアラムコの733億ドルである。Shell及びTotalEnergiesの残高は360億ドルで並んでおり、ExxonMobilは305億ドル、bpのC/F残高は293億ドルであった。

 

(続く)

 

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                              Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1] キャッシュ・フロー(cash flow、現金流量)とは、現金の流れを意味し、主に、企業活動や財務活動によって実際に得られた収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのことをいう。欧米では古くからキャッシュ・フロー会計にもとづくキャッシュ・フロー計算書(Cash flow statement, C/F)の作成が企業に義務付けられており、日本でも1999年度から上場企業は財務諸表の一つとしてキャッシュ・フロー計算書を作成することが法律上義務付けられている。

 キャッシュ・フローは(1)営業キャッシュ・フロー(日常的な、生産・営業活動によって稼得する現金と、それに要する現金コストの収支)、(2)投資キャッシュ・フロー(工場新設やビル建設・トラック購入などの設備投資・有価証券投資に要する現金支払いと資産売却による収入)及び(3)財務キャッシュ・フロー(財務活動による現金の収支)の3種類があり、これらの総合収支が会計期間内の現金収支であり、期首(前期末)の現金(及び現金相当物)の残高に期間内の収支を加えたものが当期末の現金(及び現金相当物)となる。(Wikipediaより)

[2] 「営業キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Cash Flow form Operating Activities (U.S. GAAP) / Net cash provided by operating activities (U.S. GAAP)

Shell:Cash flow from operating activities

bp:Net cash provided by operating activities, Condensed group cash flow statement

TotalEnergies:Cash flow from operating activities, TotalEnergies financial statements

Chevron:Net cash provided by Operating Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

SaudiAramco: Net cash provided by operating activity, Condensed consolidated statement of cash flow

[3]「投資キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

Shell:Cash flow from investing activities

bp:Net cash used in investing activities

TotalEnergies:Cash flow used in investing activities, TotalEnergie financial statement

Chevron:Net cash Used for Investing Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

SaudiAramco: Net cash (used in) provided by investing activities, condensed consolidated statement of cash

[4] 「フリーキャッシュフロー」はExxonMobil、Shell及びChevron3社は各社資料から抽出、bp及びTotalEnergies2社は営業C/Fと投資C/Fの差額とした。

ExxonMobil:Free cash flow

Shell:Free cash flow

Chevron:Free cash flow, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

SaudiAramco:Free cash flow

[5]「財務キャッシュ・フロー」は各社資料から下記項目を抽出した。

Shell:Cash flow from financing activities

bp:Net cash provided by (used in) financing activities

TotalEnergies:Cash flow from (used in) financing activities, Total financial statement

Chevron:Net cash provided by (Used for) Financing Activities, Summerrized Statement of Cash Flow (Preliminary)

SaudiAramco: Net cash used infinancing activities, condensed consolidated statement of cash flows

[6] 「キャッシュフロー期末残高」は各社資料から下記項目を抽出した。なおChevronは資料に明記されていない。

ExxonMobil:Cash and cash equivalent at end of period

Shell:Cash and cash equivalent at end of period

bp:Cash and cash equivalent at the end of the period

TotalEnergies:Cash and cash equivalent at end of period, TotalEnergies financial statement

SaudiAramco: Cash and cash equivalents at the end of the period, Condensed consolidated statement of cash flows

 

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巨額の利益、Exxon197億ドル、アラムコ424億ドル:2022年7-9月期石油企業決算速報 (7)

2022-11-17 | 今日のニュース
  1. IOCs五社とアラムコの業績比較

ここではIOCs五社とサウジアラムコの当期利益、売上高、売上高利益率、キャッシュ・フロー及び設備投資を比較する。

 

(IOC5社の利益合計を上回るアラムコ1社の利益!)

II. 純利益[1](図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-52.pdf 参照)

IOCs5社の7-9月期は前期(4-6月期)に続き原油が高値に推移した結果、利益はbpを除き高い水準を維持した。IOCs5社の中で利益が最も多かったのはExxonMobilの197億ドルであり、chevronが112億ドルで続いている。Shell及びTotalEnergiesは66~67億ドルで並んでいる。これに対しbpは5社の中で唯一▲22億ドルの損失を計上している。後述するように同社は過去2年の四半期決算でも赤字が度重なっており、収益力で同業他社に大きく見劣りしている。

アラムコの7-9月期損益は424億ドルの大幅な黒字であり、IOCs5社の利益合計額421億ドルを上回る圧倒的な収益力を誇っている。

 

(原油高値推移で売上堅調!)

2.当期売上高[2] (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-51.pdf 参照)

2022年7-9月期の各社売上高は前期に引き続き好調であった。IOC5社の中で最高の売上高を示したのはExxonMobilの1,121億ドルであり、唯一1千億ドルを超えている。ExxonMobilに次いでShellが957億ドルで、TotalEnergies(690億ドル)、chevron(635億ドル)が並んでいる。bpの売上高は578億ドルでExxonMobilの2分の1にとどまっている。

これに対しアラムコの売上高は1,637億ドルであった。IOCs5社の合計売上高は3,982億ドルでアラムコ1社の売上の2.4倍に達する。因みに、ExxonMobilの売上高を100とした場合、Shellは85、TotalEnergies 62、chevron 57, bp 52であり、アラムコの売上高はExxonMobilの1.5倍である。

 

(アラムコの利益率は26%、IOCs5社トップはchevronの17.7%!)

3.当期売上高利益率 (図:http://menadabase.maeda1.jp/2-D-4-53.pdf 参照)

IOCs5社の今期売上高利益率はchevronが17.7%と最も高く、続いてExxonMobil 17.5%で二桁の利益率をあげたのはこの2社だけであり、bpはIOCs5社の中で唯一▲3.7%であった。

 

(続く)

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

                               Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

                               E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

 

 

[1] 「純利益」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Net income attributable to ExxonMobil (U.S. GAAP)

Shell:Incom/loss attributabel to shareholders

bp:Profit (loss) for the period; Attributable to BP shareholders

TotalEnergies:Netincome (TotalEnergies share)

Chevron:Net income

SaudiAramco: Net income by consolidated financial statement (end year) / q1,q2&q3 interim report

[2] 「売上高」は各社資料から下記項目を抽出した。

ExxonMobil:Total revenues and other income

Shell:Revenue

bp:Total revenue and other income

TotalEnergies:Sales

Chevron:Sales and other operating revenues

SaudiAramco: Revenue and other income related to sales,   consolidated financial statement of income, interim

 

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