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(アラビア語版)
2023年1月
Part III キメラ(Chimera)
63.隕石に乗って地球にやってきたウィルス(1)
そのウィルスが初めて地球にたどり着いたのは数千万年前のことであった。ウィルスは広大な宇宙の創造主が創造した原始生命体である。創造主は唯一の存在である。創造主とは何者か?それは誰にも答えられない。それが果たして形として存在するものかどうかもわからない。形のない法則あるいは秩序というものかもしれない。それは到底人間の理解が及ぶものではないことは確かであった。
しかし人間は自らを納得させるため、太古の昔から形あるものを求め、そこに秩序と言語を当てはめてきた。従ってここでは「創造主」という曖昧模糊とした言葉で話を進めていくことにする。
創造主はウィルスをギャラクシーと名付け、DNAの一部に行き先を書き加えて宇宙に解き放った。ギャラクシーは無重力かつ絶対零度の宇宙空間で自分の名前も行き先も知らないまま安住の地を求めて広大な宇宙を漂流するのであった。
冬眠状態のウィルス自身は己の行き先を知る由もなく、ただ創造主にその身をゆだねた。否「ゆだねた」という自発的意思表現は正しくない。創造主はギャラクシーの行き先はおろか、目的地への到達手段、目的地に着いて冬眠から目覚めた後の行動などすべての情報をDNAに書き残したのである。創造主が指定したギャラクシーの行き先、それは生命体のある天体であり地球はその一つであった。
そして数億年前のはるか昔、ウィルスは宇宙を疾駆する隕石の一つに付着した。その隕石は6千万年前、地球に衝突した。衝撃で地球の気候は一変し、それまで繁栄していた恐竜など大型生物は滅び、地球は氷河時代に突入した。ウィルスは冬眠状態を続けたまま、新たに生まれてくる生命体に寄生する日を待ち続けた。
ウィルスは地球上の生命体に侵入したとき、初めて覚醒し増殖することができる。しかし侵入した生命体にすでに先住者がいた場合、ウィルスを排除しようとする。そこには熾烈な生存競争が待っている。戦いに敗れ寄生する生命体の体外に排出されたとき、待っているのはウィルスの死である。一端冬眠から覚醒したウィルスは宿主に寄生する以外生きのびる術はないのである。宿主はウィルスにとって必須の生命保持装置である。
(続)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html