とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

「告白」原作読んで映画も見た

2011-06-21 23:53:28 | 映画


湊かなえの『告白』という本が、2009年に本屋大賞を受賞し、2010年6月には監督中島哲也、主演松たか子により映画が公開された。翌年2011年2月には第34回日本アカデミー賞を授賞している。テレビCMもガンガン流され気になった映画ではあったが、なかなか見に行く機会がなく1年経っていた。しかし、先日WOWOWで放送されたのでとりあえず予約録画しておいてまず原作を読んでみた。そして、原作を読み終わってから改めて映画のほうも見てみた。

原作は、6章にわたる構成となっている。各章とも、書く登場人物の視点から書かれている。

第一章は「聖職者」。中学の教師森口悠子は、終業式の日に1年B組の生徒たちに間もなく自分が教師を辞めることを告げる。森口は、数カ月前学校のプールで自分の一人娘が死んだのは、自分のクラスの生徒二人に殺されたと衝撃的な発言をする。森口は、犯人がわかっており少年「A」と「B」を告発する。彼らの名前こそ言わないが、話の内容からクラスの誰もが犯人を知ってしまう。森口は警察に言うつもりはないが、彼らには既に恐ろしい復讐を仕掛けたと宣告して去っていく。この第一章が湊かなえのデビュー作だが、まさに衝撃的な出だしである。女性作家でこんな話を良く考えたものだと驚いた。とにかく読み出したら気になって途中で読み終わることができなかった。

第二章は「殉教者」。森口が去ったあと、全員2年に進級する。この章では、クラス委員長の北原美月が森口悠子へ綴った手紙の形で語る。犯人を知った生徒たちは、「少年A」こと渡辺修哉をクラス全員でいじめる。また、「少年B」こと下村直樹は不登校になって一度も学校に姿を見せない。そして、1年B組に何が起きたか一切知らない新任教師の「ウェルテル」こと寺田良輝の愚かな行動が森口に知らされる。

第三章は「慈愛者」。森口の恐ろしい復習によって、下村直樹は精神に異常をきたす。そして、自分の母親まで殺してしまう。この章は、直樹の姉が弟の起こした事件の背景を知るために、母親の日記を読むことで始まる。母親は直樹を溺愛しており、直樹が殺人を犯したことなどまったく信じていない。むしろ森口という教師をまったく信用していなかった。後任の教師寺田が無理やり直樹へ関わってこようとしたことで、精神的に追い詰めらた直樹との間で板ばさみになる。寺田の行動は、森口の計算された言動によって操られていたのである。

第四章は「求道者」。母を刺殺した直樹が、施設の中で幻覚を見る事で始まる。彼が共犯者である渡辺と出会ったこと。森口の娘を殺したこと。そして、母親を殺すまでの様子をフラッシュバックという形で追っていく。直樹は、殺される事はなかったものの結果的には森口によって人格が崩壊させられてしまっていたのだ。これは、殺されるよりも更に恐ろしい復讐であったといってもいい。

第五章は「信奉者」。主犯である渡辺修哉が自分のHPに「母親への遺書」として自分の生い立ち、愛美を殺すに至った過去の経緯や次の犯行予告などをアップロードする。彼は、両親の離婚で父親と生活していたが、優秀な物理学者である母親に対して自分の優秀さを認めてもらいたかったのだ。母親に知ってもらいたい一心で不気味な発明品をいくつも作り殺人の道具にもしてしまっていたのだ。中学生とは思えない知識で中学校を恐怖の現場に陥れようとする。だが、突然彼の携帯電話が鳴り響く。

第六章は「伝道者」。第五章から続くのだが、森口悠子から渡辺修哉の携帯電話に最後の宣告が行われる。「これが本当の復讐であり、あなたの更生の第一歩だとは思いませんか?」まさしくこれが本当の復讐だったのだ。森口は、修哉の計画を全て察知して完全に先回りしていた。修哉は自らの手で、大事な母親を死に至らしめてしまうのである。最後の第六章は、思いもよらぬ悪魔の復讐劇といってもいいだろう。ここまでやるかというくらいの展開に戦慄した。女性作家のほうが、こんな話を考えることができるのかという驚きも大きかった。

原作本は以上のようなストーリーである。そして映画のほうも、基本的にはほぼ原作どおりに作られていたといってよい。原作を読んでイメージした世界が、映像化されたことで更に印象が強まった気がする。松たか子の森口は、鬼気迫る演技だったといっていい。あの可愛げな声で、たんたんと生徒たちに語りかける様子は心底恐怖を感じる。最後のシーンで声高らかに笑う様子は、背筋が寒くなりそうだった。

その他の登場人物も、原作のイメージを損なうことない演技だったといっていい。直樹の母親役の木村佳乃は、息子を溺愛しながらも最後に息子に殺されてしまうという難しい役を難なくこなしていた。

映像化されたことで、暗い画面や音楽で原作のイメージをより深くとりこんだともいえる。最後まで作品の中に入り込んで見入ってしまった。ただ、見終わってすっきりする映画ではない。深い人間の闇を見てしまい、何ともいえない気分にもなってしまう。でも、これほど過激で人間の怖さを知らしめた映画はかってなかっただろう。そういう意味では、凄い原作であり、映画でもあった。