とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

今日は「北壁の日」

2009-07-19 08:39:53 | 山登り
今日は「北壁の日」である。1967年7月19日、東京女子医大山岳部の今井通子さんと若山美子さんが、マッターホルンの北壁からの登頂に成功したことに由来する。女性だけのパーティーでの北壁登攀は世界初だった。

この話は、新田次郎「銀嶺の人」に詳しく載っている。

なぜ人は山に登るかという問題についての答えにしたいということで、新田次郎が三つの長編小説を執筆している。「孤高の人」「栄光の岸壁」「銀嶺の人」の3作である。最近、新田次郎を読み始めて「孤高の人」に続いて「銀嶺の人」をやっと読破した。

「銀嶺の人」に登場する二人の女性登山家は、今井通子さんと若山美子さんという実在の人物をモデルにしている。二人は世界を代表する女性クライマーとしても有名な人だ。特に今井さんはマッターホルン、アイガー、グランドジョラスといったヨーロッパ三大北壁を登攀した最初の女性である。若山さんは、今井さんと共に女性だけでは初めてマッターホルン北壁を登攀したが、新婚旅行をかねたヨーロッパアルプス遠征中に遭難死されたそうである。

小説の中では、主人公の駒井淑子(としこ)は欧州三大北壁を初めて制覇した女性登山家である今井通子氏がモデルである。そして、活発で気丈な淑子に対比して、物静かだが秘めた闘志の塊のような若林美佐子がもう一人の主人公であり、実在の若山美子氏(故人)という鎌倉彫り彫刻が本職の女性がモデルとなっている。

今井さんは、現在でも登山家だけでなく医師としても活躍し、ラジオの人生相談のパーソナリティとしてもよく知られている。新田次郎は、あくまでも実在の女性はモデルであって小説の人物そのものではないと断っているが、駒井淑子は今井通子氏そのもののようなイメージで本を読み終えた。

そして、もう一人の若山美子氏がモデルの若林美佐子は、新婚旅行中に夫婦共々遭難死してしまう。この小説では優しくて寡黙で実行力があり責任感も強い、また、山で雲の形を見て新しい鎌倉彫りの文様を考案するなど創造性豊かなキャラクターが魅力的だ。人生に対してのひたむきさや、内に秘めたる情熱が小説からしっかりと伝わってきた。しかし、山はこんな女性にも容赦ない。幸せな新婚旅行が悲劇に繋がってしまい読後は大きく心を打たれた。

山登りは好きだが、有名な登山家の話などあまり興味を持って聞いたことがなかったのでこの二人の女性登山家の話が実在の人物がモデルと知って感心した。クライミングといえば男だけの世界のイメージがある中で、仕事もしっかりこなし、一流の山を登りつめたこの二人の女性が日本人であったということは嬉しい限りだ。小説は、山岳小説というジャンルにとどまらず、二人の女性の心理描写など上品に書かれており読み応えがあった。『山では男も女もなくただ登山者である』という考え方は、同感である。