Opera! Opera! Opera!

音楽知識ゼロ、しかし、メトロポリタン・オペラを心から愛する人間の、
独断と偏見によるNYオペラ感想日記。

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ELEKTRA - NY PHILHARMONIC (Sat, Dec 6, 2008)

2008-12-06 | 演奏会・リサイタル
あれは8年前。
ザルツブルク・イースター・フェスティヴァルの日本公演で、
アバド率いるベルリン・フィルが演奏した『トリスタンとイゾルデ』は
今まで観た公演の中でも最も記憶に残っている公演の一つですが、
その公演でイゾルデを歌ったデボラ・ポラスキ。



なぜだか最近メトでは役がかぶり気味のデボラ・ヴォイトが頻繁に登場するために、
全くポラスキの歌を聴けなくなりつつあるので、演奏会形式とはいえ、
NYフィルとの共演で『エレクトラ』を歌う!!と聞けば、
これは、どんなに私が『トスカ』でこきおろしまくったのと同じマゼール&NYフィルコンビでも観に行かねばならない!
(NYフィル以外でも、マゼールについては、ここ約一年だけで、他にも『椿姫』やら『ワルキューレ』やら、
二度と聴きたくない公演のオンパレードでした。)

今日のNYは今にも雪が降り出しそうな寒さ。こんな日はキャブの取り合いです。
エイヴリー・フィッシャー・ホールに向かうべく、道端で手を挙げて待つこと数分。
空車サインを掲げたキャブが見えたと思ったら、あと数メートルで私のいる場所、というところで、
いきなり道沿いのバーから飛び出してきた若者グループにかっさらわれました、、。
これ、滅茶苦茶頭に来るんですよね。
しかし、すぐ後ろにもう一台空車キャブが来たので余裕です。
運転手もその様子を見ていたようで、こっちにおいで!と目配せ。
寿司詰めになっていた男女とりまぜた若人たちが代金を支払って出てくる間、
私は歩道に近い側の扉(ご存知の通り、NYのキャブの扉は左右両方に開きます。)で待機。
全員退出し終わって、私が片足を入れた途端、なんと道幅の広い通りだから
車がばんばん走っているはずの向こう側から20代前半と思しき若い女が走って現れ、
逆側の扉を開いて同じキャブに乗り込もうとしているではありませんか!
そもそも私はこの車どころか本当はその前の車を待っていたのだし、
”坊さんが屁をこいた”と同じく、先に座席に尻をつけた方が勝ちじゃ!と、
急いで乗り込むと、丁度扉を開いたその女性が私が先に乗り込んだのを発見し、
”ちょっと!私が先につかまえたのよ!このクソ女(bitc○)!”と
エレクトラもびっくりのすごい形相で絶叫罵倒し、無理矢理乗り込んでこようとするのです。
”ふざけんじゃないわよ!あんたがいた角度から見えなかっただけでしょーが!
私が先よ。どっちがクソ女よ!
ね?あなた、私が待ってたの見たでしょ?”
と運転手に聞くと、うんうん、と首を縦にふるので、
その女は観念して下車し、罵りの言葉を吐きながら、思いっきりドアを叩き閉めたのであります。
、、、。なんだってこんな小娘にこんな扱いを受けなきゃならんのだ、、?
気が付けば、まだ路上で罵り叫んでいる彼女の顔に向けて、バックウィンドー越しに中指を立てた私です。
NYに来て、初めて人に向かって中指を立てた、心がすさんだ今日という日に、
『エレクトラ』を鑑賞するとはなんという偶然か。

さて、メトの公演では、実際の開演が、HDの上映やラジオの放送との兼ね合い、
もしくはセットやキャストのトラブルなどで多少遅れることがあっても、
オケのメンバーは絶対に元々予定されている開演時間までにピットに入って開演を待ちます。
それに比べると、NYフィルはちーたらちーたら、開演時間5分をすぎても、
座布団を回したりしていて、嫌になって来ました。
これで下手な演奏だったら、もう今日は般若になります。

しかし、最初の5秒でその般若な気分はすっ飛びました。
全奏部分の轟音で、エイヴリー・フィッシャー・ホールに爆弾が落ちたと思うような振動を感じ、
度肝を抜かれました。
しかも、このテンションが最後まで続くのです。
実際、こんな大きな音で頭から最後までこの作品を演奏し続けるオケは
NYフィルくらいなもんじゃないでしょうか?
あの『トスカ』の時の”これでいいのかな、、?”というような迷いは影形もなく、
”細かいことは知らねえ。だけど、暴れさせていただく。”という、吹っ切れた感さえ漂ってます。
メト・オケには、どんな作品を演奏してもどこか上品というか、のんびりした感じがあるのに対し、
このようにべらんめえ調の会話にしたくなるほど、NYフィルの音は暴れ者の音です。
”おらおらおらー、そこどきやがれ!!!”
心なしか、オケのメンバーもなんだか演奏するのが楽しそう、、。
いや、心なし、ではなく、全然『トスカ』の時より、生き生きと演奏してます。

こんな彼らの前にあっては、細かい不満、たとえば、金管の頭が揃っていない、とか、
小さいミスがそこここにありましたね?という指摘も、
”なんだと、おらあー?文句でもあんのかあ?”と顎をしゃくってこちらに詰め寄られそうで
とても何も言えません。
ましてや、このオケの、オペラ作品を演奏するにおいて一番のネックとなっていると私が感じている
”弦セクションにオペラを演奏するに必要な歌心がない”という欠点を口にしようものなら、
その場で射殺されるでしょう。
実際、この作品の中で、弦セクションには非常に甘美な旋律が与えられている個所があるのですが、
怖いくらい、弦が歌ってないのです。
これは実に不思議です。というのも、ソロの部分になると、
コンマス(ヴァイオリン)にしろ、チェロの第一奏者にしろ、ものすごく歌心のある演奏をしているのに、
なぜだか、セクション全体になると、突然、ものすごく無表情な演奏になるのです。

この記事は、翌日曜日のスカラ座のHDを観た後に書いているのですが、
弦セクションの歌心というものを、それこそ、スカラ座の演奏なんかから盗んでほしい。
これが欠けている状態では、『トスカ』のような作品でいい演奏が出来ないのは当然です。

しかし、この『エレクトラ』はNYフィルにはラッキーなことに、
そんな彼らの長所と短所を実に上手く補完しあう作品であるように思います。
つまり、パワーのごり押しでも、”こういうアプローチもありだ。”と思わせる水準に達しているうえ、
そのごり押し度が他に例を見ないほど強烈で、一つの個性になっているので、聴きごたえがあるのです。

正直、パトリック・サマーズの指揮で聴かされた最近のメトのふぬけたシュトラウスの
演奏(『サロメ』やオープニング・ナイト・ガラの『カプリッチョ』)と比べたら、
私は断然、こちらの『エレクトラ』の方が面白い。

メト・オケには面白いシュトラウスの演奏ができない、というのは早計で、
それはそれは昔の話になりますが、ビング・ガラでベーム指揮のもと、
ニルソンと共演した『サロメ』の最終場面の演奏は、
今日のこのある種、マッチョな(一部の人はこれをアメリカっぽい、とか無粋、と感じるのかもしれませんが)
アプローチに、さらに若干のしなやかさが加わった感じで、決して悪くなく、
今のメト・オケでも、いい指揮者が正しく導いてくれたなら、実現可能、かつ、
彼らの個性にもあったアプローチなのではないか、と思うのですが、
サマーズなんかが来てシュトラウスものを振っているうちは、とてもじゃないですが、この蟻地獄から抜け出ることはできないでしょう。
NYフィルの『エレクトラ』の方が、オペラ・オケであるメト・オケの演奏よりも
面白いなんて、こんな悲しいことはないではないですか。

マゼールは、今まで聴いた他の演奏よりも良かったと思いますが、
彼の今日の演奏に関しては、実際の指揮が云々ということ自体よりもむしろ、
それ以上に評価されるべきは、歌手の選択です。
NYフィルはメトと違いますから、この手の演奏会で、
作品の主役級の役すべてにスター歌手を持ってくることは出来ません。
そこでおのずとハンデがあるわけで、今日の公演で、誰でもが知っている有名歌手といえば、
ポラスキくらいなものだったわけですが、私は彼女以外の歌手の意外な健闘を讃えたい。

特に女性二人。
一人はクリソテミス役を歌ったアン・シュヴェインウィルムス。
この役はエレクトラほどではないとはいえ、かなり声楽的に大変な役ですし、
歌の方はドラマティックでありながら、エレクトラと対照的な、
ぽよよん、とした普通の女の子っぽい雰囲気が求められる、という大変さがあります。
私は実は、ポラスキが歌うということでエレクトラ役はほとんど心配していなかったのですが、
むしろ、このエレクトラの妹、クリソテミス役の出来が公演の印象を変えるだろうということで、
どんな人が歌うんだろう、、、ドラマティックな歌と、かわいらしい雰囲気が共存する人なんているのかしら?
と思っていたのですが、彼女はこの両方をクリアしていたと思います。
声については少し無理に押している部分があり、これはホールのせいなのか、
彼女が歌うと空気がびりびりびり、という若干耳障りな音を立てるのが聴こえるときがあったのですが、
全体としては、十分なドラマティックさを保ちつつ、見た目もかなり美人ですし、
役の雰囲気を上手く体現していたと思います。
一つ不満を言うなら、演技を控えて欲しい。
彼女は顔の表情を作るのは上手いので、下手な身振り手振りはない方がいいと思います。
エレクトラの剣幕に、クリソテミスが両手を上げ、
その姿を見たエレクトラが、”父もそうやって手をあげた”という場面は、
エレクトラの言葉が、斧で惨殺される父アガメムノンが身を守ろうと頭を庇う姿を指しているわけですから、
クリソテミスの身振りもそれを連想させるものでないといけないと思うのですが、
シュヴェインウィルムスの身振りは、そうではなく、
それ以外のいくつかの個所でも、歌われている言葉にそぐっていない身振りがありました。

もう一人はエレクトラの母、クリテムネストラ役を歌ったジェーン・ヘンシェル。
おどろおどろしい雰囲気のこの役に、小柄で恰幅のある彼女の姿かたちは、
気のいい肝っ玉母さん、という感じで、舞台に出てきた最初は違和感があるのですが、
表現力は確かですし、どの音域でも声のカラーに統一性があって、地味ですが上手いです。



エレクトラに段々と追いつめられていく様の表現と、
オレステが死んだという、意図的な誤報に狂喜する場面
(ここは笑い声でも”歌”を感じさせなければならず、難しい個所。)、
いずれも良かったです。

ポラスキについて言及する前に男性陣。
ジュリアン・トーヴェイのオレストは、見た目の雰囲気はこの役に悪くないのですが
(でもこれは大変重要。エレクトラと生き別れで、しかも一瞬は死んだとすら思われた弟だと
最後に正体が割れるミステリアスな男性が、あまりにも不細工では困ります。)
まだ少し声が練れていないのか、バリトンとしてはやや線が細いし、
高音域と低音域で声のカラーが若干違う、という欠点もありますが、
役としての努めは果たしていたと思います。

エギスト役は、久しぶりに姿を見たリチャード・マージソン。
彼は、一時期、結構頻繁にメトの舞台に立っていたテノールなのですが、
最近すっかり姿を見なくなったので、名前を聞いたときになんだか懐かしい感じがしたほどです。
登場場面(といってももともとわずかですが)の最初の方では、声の衰えをあまり感じさせないですし、
丁寧に歌っているのですが、
残念なのは、オレストに殺される途中、”人殺し!”などと叫びながら、助けを求めるシーン。
オケがものすごい轟音で演奏するもので、マージソンの声は全く、本当に”全く”聴こえませんでした。
ただ、こんなオケを突き抜けて聴かせられる人がいるのかも疑問ですが。
それまでのせっかくの頑張りが、オケの恐怖の消しゴム効果によって、帳消しになってしまったようで実に気の毒。

久しぶりに聴いたポラスキは、さすがに、高音で年齢を感じさせます。
独特のスモーキーな響きを持つ中音域はまだまだ聴かせるので、
そのギャップが余計に高音がきつい感じを際立たせてしまっていますが、
それを補って余りある存在感はさすが。
彼女が舞台に出てきただけでまわりに厳しい空気が漂ってくるようでした。
演奏会形式なので、オーバーな芝居もないし、最後のダンスのシーンでも、
当然のことながら、踊る振りをするスペースすらなく、
また最後に死んでしまうことを表現するところも、どうするのだろう?と思っていたらば、
手を前に差し出してパタッと倒すだけ。もちろん立ったまま。
でも、それだけで、エレクトラの死が十分に伝わってきます。
オレストが生きているばかりか今や彼女が目指したエギストとクリテムネストラの殺害を、
彼が成し遂げようとしていると知った後、エギストをオレストが隠れている部屋に
おびき寄せる個所の表現の上手さなど、声のパワーが衰えたとはいえ、
まだまだ聴くべきクオリティはあります。

この作品は重唱部分が極めて少なく、例えば、普通なら、エレクトラがオレストと再会する場面など、
感動的な重唱を置くこともできたであろうに、シュトラウスはそうしません。
唯一、エギスト&クリテムネストラの殺害について歌う短い部分が重唱になっているのみ。
このことからも、エレクトラが見ている方向は、妹や弟とは全く違っており、
殺害計画という機会において、その方向が交わるに過ぎません。
エレクトラは最初から最後まで、孤独であり、
殺害成功後、クリソテミスがオレストなどと喜びを分かち合うのに比べ、
一人、踊りの中、死んでいくわけですが、その彼女の孤独、孤高の表現に関しては、
ポラスキが素晴らしいものを見せてくれたと思います。
その前では、彼女の声の衰えというのは、私にとっては小さな問題にしか過ぎません。

クリテムネストラが殺害される時の叫び声を、ヘンシェルがホール(多分2階だと思います)
の後方客席から出したのは大変効果的。
予期せずいきなり後ろから”ぎゃーっ!!!”という叫び声が聴こえるのはかなり怖いです。
多くの観客の方が後ろを向いて、どこどこ?と彼女の姿を探していましたが、
ここはじっと前を向いたままの方が怖さが持続します。
続けて入る合唱も客席後方に設置されていて、同じく好ましい効果を挙げていました。

”もう、これでシュトラウスも駄目なら、この人のオペラには聴くものなし!”と、
私が勝手に崖っぷちに立たせたマゼールですが、鍛冶場の馬鹿力とはこのこと。
この公演、私はとても楽しめました。


Deborah Polaski (Elektra)
Anne Schwanewilms (Chrysothemis)
Jane Henschel (Clytemnestra)
Julian Tovey (Orestes)
Richard Margison (Aegisthus)
Jessica Klein (Clytemnestra's Confidante)
Renee Tatum (Clytemnestra's Trainbearer)
Ryan MacPherson (Young Servant)
Frank Barr (Old Servant)
Matt Boehler (Orestes' Tutor)
Helen Huse Ralston (Overseer)
Janice Meyerson, Stephanie Chigas, Linda Pavelka, Priti Gandhi, Julianne Borg (Maid 1-5)
Conductor: Lorin Maazel
Chorus: New York Choral Artists

Avery Fisher Hall
ORCH Row R Even

*** R.シュトラウス エレクトラ R. Strauss Elektra ***
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2 コメント

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じゃじゃ馬・当たりでした。 (ゆみゆみ)
2009-06-19 13:43:00
もっと早くコメントを拝見すればよかったです。遠慮がちに書いたのですが・・・。
今回ムーティで聞いたとき、「まぁなんて上品な音・同じオケ?」とおもいました。
内田さんも、以前の様に“不気味”でなく、本当に音楽に浸ることができました。
あのオケが日本に来る。「行くでしょう」アランとの共演なら、又面白い音が聞けるかも。値段を見て驚きました。S席は33000円です。ツィンマーマンで聞きたいんですが、もう最低の¥9000は無いでしょう。随分出遅れていますから。それにしても、私は、NYでリハーサル見学は1500円位で、当日だって、5000円くらいで聞いたと思います。飛行機・ホテル代で、こんなになっちゃうのでしょうか?
やはり私が出かけて行った方が、安いのでしょうか又行く口実を考えている私です
NYフィル、訪日! (Madokakip)
2009-06-21 11:43:53
 ゆみゆみさん、

S席、33000円!!
しかし、今泉澄さんの情報に寄れば、
シカゴ響はS席40,000円だったそうです。
この7,000円の差に、
微妙なものを感じてつい笑ってしまいます。

http://blog.goo.ne.jp/madokakip/e/18952c3a169deb6c5b6a84ec1a0771b0

私は一般的に言ってマゼールの指揮が大っ嫌いなので、
(この『エレクトラ』の時の指揮は、彼のいい方の端だと思います。)
アラン・ギルバートへの交代は大歓迎です。
彼は今年メトで『ドクター・アトミック』を指揮しましたが、
マゼールより、他の作品ではどういう音作りをするのだろう?と興味を持たされます。
一度、もうちょっとスタンダードなオペラの演目で聴いてみたいです。

>又行く口実を考えている私です

ははは。ゆみゆみさんは私なんかより全然精力的ですよ!!
仕事先で休暇をとるのも大変でいらっしゃるでしょう?
私はその部分がない分、楽ちんです。
お待ちしてますよー。ぜひいらっしゃってください!

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