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好きな映画監督、トニー・ガトリフ

2006年04月29日 | 映画
       

私には「和の人」、「アジア好き」というイメージがあるそうですが、実はかなりヨーロッパかぶれです(笑)映画もフランス系が好きで「本を読むように映画が観たい」という信条があって、パッと気の晴れる映画よりずっと心に抱えていたいような作品と出会いたいと思っています。

現存の映画監督で一番好きなのはトニーガトリフ。1990年制作の『ガスパール 君と過ごした季節』以来、観続けてきた監督です。ロマと呼ばれるフランスのジプシーの血をひく監督ならではでロマ文化の反映されているのが特徴です。そして、ガトリフ作品の素晴らしさはその音楽性。特にガトリフ作品の集大成と呼ばれるロマ三部作は、物語に登場する人々が奏で唄う声に音楽に身体が揺れ、自然に足でリズムを刻みたくなるような興奮を覚えます。この人たちの血には音楽が流れている……。そう感じずにはいられない時を経た躍動がスクリーンから伝わってきます。

日本で公開されているガトリフ作品は、『ガスパール 君と過ごした季節』(ビデオ発売時に『海辺のレストラン』にタイトル変更)、『モンド 海をみたことがなかった少年』、ロマ三部作と総称される『ガッジョ・ディーロ』、『ベンゴ』、『僕のスウィング』。そして、最新作の『愛より強い旅』。他にも本当にホントのロードムービー『ラッチョ・ドローム』、『イ・ムヴリーニ:テラ』があります(全部DVDで持っているんだなぁ、これが)。

日本で最初に公開になった『海辺のレストラン ガスパール&ロバンソン』はその後のガトリフ作品を見ていると「えっ?」ってくらい普通かも(笑)。妻に捨てられたガスパール。母に捨てられたロバンソン。そして、息子夫婦に捨てられたおばあちゃん。世の中から、捨て去られた人たちがどう生きて行くかをガトリフは見せたかったんじゃないかなと思わずにはいられません。ガトリフは作品で流浪の人々が背負った差別や貧しさ、希望を描いていますが、初期のこの作品の主人公、中年男ふたりのかもし出す哀愁、境遇などから現在の片鱗は見えます。最後のシーンがとくにいい! ガトリフの作品を10年以上見ていますが、あの時、この映画を観なかったら、ガトリフを知らず、ラストシーンに心があったかくならなかったら今とは少し感性が違う生き方をしていたのではないかとまで思います。

心に染みると言ったら、『モンド 海をみたことがなかった少年』。哲学的な要素を持ち合わせ、ラストシーンを迎えた後も、いつまでもじんわりと心に残る作品です。そして、自分が現実を生きていること。子ども時代の純粋さを年を積み重なる度に失っていくことに哀しくなる作品でもあります。これ、小さいお子さんを持つお母さんに、ぜひ一緒に観て欲しい映画です。ただファンタジックなだけではないんですから。

モンド ~海をみたことがなかった少年~

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原作はフランスの文学者ル・クレジオの『海を見たことがなかった少年~モンドほかの子どもたちの物語』。ニースの街にある日突然、住み着いてしまった少年・モンド。気に入った大人を見つけると「ボクを養子にしてくれる?」と語りかけます。モンドが誰なのかどこから来たのか、モンド自身も知らないのでしょう。そんなモンドを可愛がる浮浪者“ダディ”やモンドに文字を教える船を持たない水夫。モンドが店先に現れると必ずパンをくれるおばさん。モンドを実の子のように愛しむ金色の光のあふれた屋敷に住むティ・シン。街の心優しき人々の心の中にモンドは溶け込んでいくのです。そして……。

『モンド』は小説という言葉で綴られた作品を見事に映画化しています。子どもの頃、葉の一枚一枚、陽の光の瞬きなどの自然、世界はこんな風に美しく見えていたのではないか?と思わずにはいられない映像美。モンドに吹く風や街に漂う空気、匂いが感じられるようです。そして、『モンド』からほとんどが素人という大胆なキャスティングが形成されているのですが、「自分を演じるのに演技指導はいらない」というガトリフの信念通り、プロも舌を巻く演技に圧倒されます。

モンドを演じた少年、オヴィデュー・バランはパリの地下鉄構内でガトリフにスカウトされたルーマニア系のジプシー。パリ郊外のジプシー地区に住んでいた彼は当時、家族と共に追放されそうになっていたとか。大道芸人でモンドにマジックや綱渡りを見せるフィリップ・プティは世界を旅するパフォーマーとして有名。モンドが“ダディ”と呼ぶ老人役のジュリー・スミスは正真正銘のホームレスのおじいちゃん。船を持たない水夫のジョルダンは、趣味で釣をしている庭師で、50年代に死刑になったジャック・ペッシュの未亡人がティ・シンに扮しています。

ガトリフ作品はどれも味わいがあって一番が選べないのですが、それでも一作品を選ぶならば『ガッジョ・ディーロ』をあげておきます。最近もまた観たのですが、やっぱりいい。私は好き。『ガッジョ・ディーロ』とはロマの言葉でよそ者という意味。ガッジョと呼ばれる主演のロマン・デュリスはフランス版ブラピって感じかな(笑)。でも、ブラピよりいい!(私、ブラピはちっともいいと思わないんだけど)。

ガッジョ・ディーロ

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死んだ父の残したカセットテープの歌姫、ノラ・ルカを探してロマの村を訪ねた主人公ステファン。ロマとの生活、彼らの現実、自身の恋を通してステファンが成長していく話なんですが、「成長」なんて言葉で片付けてはいけないような気がします。私たちのようにモノを作っていて、なにかにこだわっている人間には彼のようには気がつけず捨てられず、このまま一生を終わるんじゃないかと思ってしまうほど。また、相手役のローナ・ハートがいい! 声もいいけど、ガトリフ作品で一番美しいんです!『僕のスウィング』のスウィングが大人になるとこんな感じでしょうか。ひねくれていて、でも、肝が据わっていて魅力的。愛すべきヒロインです。野生味のあるエロスがイズミのオッサン心をくすぐります(爆)

ロマの音楽で身体が震えるという経験をした最初の作品でもあります。「洗礼」とでもいいましょうか。以来、私は「前世のどれかはロマだった!」とホラを吹くほど傾倒しまし^_^; もし、おうちでガトリフ作品を観る時はいい音響設備で観てください!(笑)どんなに熱く語っても語りきれないトニー・ガトリフ作品。私の熱弁でちょっと興味を持たれた方はぜひご覧になって感想を聞かせてください。

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真葛@泉美咲月


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ガトリフ!! (djkei)
2006-04-29 23:45:00
やるなガトリフ!

わかってますね!



ちなみに僕の血にもロマの血が混ざっています。

前世占いの人に中世のヨーロッパで名を馳せた人物だとの評価をいただいたくらいです…笑



では今からガトリフ3部作を観ます!



間に合うのか!?おれ!



あ!「僕のスウィング」は観ましたよ!

自分のDVDレビューのブログにも載せました!



一言で言うと「黒い瞳のナタリースウィングにあなたも淡い恋に落ちる」です。
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一緒にガトりましょ (maczu@泉美咲月)
2006-05-09 14:09:06
keiさん

レビュー読ませていただきました♪

残りも早く観てね~。
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初めまして。 (真紅)
2008-01-08 10:29:20
こんにちは。『モンド』の検索でやって参りました。
トニー・ガトリフは『トランシルヴァニア』で知ったのですが、素晴らしい映像作家ですね。
『愛より強い旅』も早くDVDにして欲しいです・・。
『モンド』の感想をTBさせていただきました。
忘れ難い印象を残す映画でした。
今後もソフトを探してガトリフ作品を観ていきたいと思います。
ではでは、失礼します。
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真紅さん (泉美咲月)
2008-01-25 12:51:11
はじめまして。
コメント&TBありがとうございます。

ガトリフ、いいですよね~。
『ガスパール/君と過ごした季節』がDVDで復刻したのに
『愛より強い旅』だけがDVD化されません(涙)。
残念です。


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再びお邪魔します (真紅)
2008-03-12 10:39:06
泉美咲月さま、こんにちは。
『ガスパール』観ました。『モンド』と似ていてちょっと驚きでした。
ロバンソンが、モンドの成長した姿のように感じたのです。
ガトリフの「はみ出しモノ」へのやさしいまなざしを感じます。
これも素晴らしい作品ですね。
TBさせていただきました!ではでは。。
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真紅さん (泉美咲月)
2008-03-16 23:50:16
こんにちは。
ガスパール、ご覧になったんですね。
ステキなレビュー拝読しました、

ガトリフの作品は一貫して視点が変わらないところが
彼のもの作りの芯の強さだと思います。

ガスパールのラストシーンは本当に大好きで
何度見てもそこで泣いてします。
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