NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#104 ローウェル・フルスン「HUNG DOWN HEAD」(MCA/Chess CHD-9325)

2022-02-26 05:29:00 | Weblog

2002年5月19日(日)



ローウェル・フルスン「HUNG DOWN HEAD」(MCA/Chess CHD-9325)

1.THAT'S ALL RIGHT

2.I STILL LOVE YOU, BABY

3.RECONSIDER BABY

4.I WANT TO KNOW

5.LOW SOCIETY

6.CHECK YOURSELF

7.IT'A ALL YOUR FAULT BABY

8.DO ME RIGHT

9.TROUBLE, TROUBLE

10.HUNG DOWN HEAD

11.TOLLIN' BELLS

ローウェル・フルスン、チェス・レーベルでのアルバム。70年、「チェス・ヴィンテージ・シリーズ」のうちの一枚としてリリース。

ローウェル・フルスンといえばなんといっても大ヒット「トランプ」、ということで、彼のベストはケント在籍時代だという評価が定着しているが、それに先立つチェス時代にも、なかなかの名演を残している。

(1)はおなじみ、チェスの名セッション・ギタリストでもある、ジミー・ロジャーズのカバー。

ロジャーズ自身は50年にシングルでリリースしているが(アルバムでは70年リリースの「シカゴ・バウンド」に収録)、フルスンは57年にLAで録音。

その歌詞はといえば、自分への愛の冷めてしまった恋人への思いを切々と歌ったもの。

「もうオレを愛していないんだろう、でもそれでいいのさ」といいながらも、どこかまだ未練の残る微妙な男ごころを歌った佳曲だ。

これをフルスンは、やや繊細なロジャーズ版とはひと味違った、線の太い「おとなの」みれん節に仕上げている。

フルスンの魅力といえば、やはりそのヴォーカル。かのB・B・キングさえ一目置いていたという、説得力あふれる骨太、ときには「武骨」とさえも評されるその歌声、節回しは、ワンアンドオンリーな世界を持っている。

(2)以降でも、その「フルスン節」はいかんなく発揮される。

(2)はフルスン自身のオリジナル。55年の録音。

バックにはジャズィな演奏にも長けたエディ・チャンブリー(テナー・サックス、ダイナ・ワシントンの夫でもあった)らを従えた、威勢のいいナンバー。

こちらの曲も基本的には、「未練」な男の歌なのだが、あまりに歌が豪快なので、暗さがみじんも感じられない。

そのへんが、フルスンのフルスンたるゆえんか。

途中に聴かれる、彼のギター・ソロもなかなか味わい深い。

彼のギターはいわゆるテクニカルなプレイではないのだが、そのムダのない音選び、シンプルながらも有効打を常に出し続けるフレージングには、結構ファンが多いようだ。

(3)はエルヴィス・プレスリー、ボビー・ブランド、アイク&ティナ、リトル・ミルトンら多くのカバー・ヴァージョンを生んだ、不朽の名曲。もちろんフルスンのオリジナル。54年、ダラスにての録音。

「考え直しておくれ、ベイビー」と、つれない恋人に哀願する内容の歌だが、泣いてすがるようなミジメったらしい雰囲気はなく、どこか雄々しい風格さえある。それはもちろん、フルスンの歌いぶりによるものだ。

間奏における彼のギターと、ポール・ドレイクのピアノのインタープレイがなんともカッコいい。

いわゆるシカゴ・スタイルとはひと味違った、ジャズっぽく洗練されたサウンドがグー。

さて、(4)は60年LAにて録音されたオリジナル。LAやダラスといった、シカゴ以外での活動も多く、バックのメンバーも流動的なのが、彼が他のチェス・アーティストとは大きく異なる特徴だといえよう。

荒々しいシャウトから始まるこの曲は、武骨男フルスンの面目躍如とでもいうべきスロー・ブルース。

粘り強く、激しく叫ぶ彼のヴォーカルにノックアウトされること間違いなし。

(5)は自作のインスト・ナンバー。(4)同様、60年LAにての録音。

ミディアム・テンポのシャッフル。彼のソリッドでクールなギター・プレイが楽しめる。ホーン・セクションの分厚いサウンドもナイス。

(6)もオリジナル。55年LAにての録音とクレジットされているが、SKUNK Cさんによればシカゴ録音とのこと。

ジャズ風味のホーンをバックに、小粋にスウィングするヴォーカルを聴かせてくれるフルスン。

ギターやハープのサウンドがあくまでも基調のシカゴ・ブルースとはかなり異質の、ジャズィなブルース。

まあ、ブルースとジャズはもともと同じ根を持つ音楽なわけだから、そーいうカテゴライズ自体、あまり意味をなさないことなのだが。

歌詞は例によって「痴話喧嘩」というお決まりのパターンなのだが、これまでの曲がやや「懇願型」のそれであったのに対し、どちらかといえば相手にも反省をうながしているあたり、男っぽいといえなくもない。

続く(7)も、「こうなったのもおまえが悪い」と言い放ってしまうパターンの歌。56年シカゴにて録音のオリジナル。

自分の落ち度を自ら責めるブルースは「NOBODY'S FAULT BUT MINE」、「IT'S MY OWN FAULT, DARLIN」など、わりと定型としてあるが、これは異色の逆パターン。

さすが、オトコっぽさで売るブルースマン、フルスンですな。

サウンドはやはり、ジャズィなホーン・アレンジが特徴的。やや高音で勝負のシャープなヴォーカルが素晴らしい。

(8)はチェスの顔役、ウィリー・ディクスンの作品。ミディアム・ファストの軽快なナンバー。

ここでのギター・ソロも、典型的なフルスン・スタイル。ペナペナ気味のソリッドな音で、ほとんどチョーキングを使わずに、シンプルなフレーズを紡ぎ出している。

一聴するに格別「スゴい」と思わせるテクニックではないが、何度も聴き込んでいるうちに、その独特の枯れた味わいにハマる、そういうギター・プレイなのである。

(9)は55年シカゴでの録音のオリジナル。唸り、吼えるような彼のヴォーカル・スタイルが炸裂するナンバー。

腹の底からしぼり出すような歌声は、ほんと、圧巻です。そして、その硬質なギター・プレイもGOOD。

(10)は、時代は一番下って61年、シカゴでの録音。これまたホーン中心のバンドをバックに、J・ウィルスンとB・ロジャーズのコンビの作品を歌う。

ミディアム・スローのブルース。絶妙な抑揚、節回しのヴォーカルに、思わず「うまい!」と唸らされる。

そして、落ち着いたトーンのギター・ソロもまたシブい。

ラストは、本アルバム最大の聴きもの、なんと9分45秒におよぶ(11)である。

これもウィリー・ディクスンの作品。56年シカゴ録音。

50年代は、現在のように録音技術が発達していなかったから、当然レコードはすべて「一発録り」。

歌もバンド演奏も、すべて「いっせーの、せー」で同時に録音するしかなかった。

だから、満足のいく演奏を録音するためには、何度もテイクを重ねないといけない。

そういう、何度となく録音をやり直す風景を、そのまま収録していったのがこのトラックということである。

いろいろなミスや不本意な出来のテイクがあり、執拗に録音を重ねるさまには、鬼気迫るものがある。

暗く陰鬱な曲調もまた、それに一層拍車をかけている。

それぞれのテイクの歌いぶりの微妙な変化も、聴きどころ。今どきの「つぎはぎだらけレコーディング」には絶対ない、生なましい音の魅力を、堪能できる一曲だ。

以上、チェス・ブルースの「本流」とはちょっと違ったところにいるフルスンの、濃厚な世界がつまった一枚。

「トランプ」のリズミックでファンキーな世界とはまた違った魅力を、発見できるに違いない。

モノクロで大写しになったフルスンのジャケット写真からして、シブカッコいい一枚。

ぜひ、荒くれ男フルスンの、ストレートな歌声にハマって欲しい。

<独断評価>★★★★★



最新の画像もっと見る