Cape Fear、in JAPAN

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『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

愚か、を前提に。~2023映画回顧(1)~

2023-12-02 00:10:00 | コラム
2023年回顧特集、最後は「当然」映画です。

本日より3日間は、2023新作映画のベスト15を展開。
最終日にあたる4日目を総評とする―長めの文章になるので、さっそくいきましょう^^


第15位 エヴリシング・エヴリウェア・オール・アット・ワンス



破産寸前のコインランドリーを経営する疲れた主婦、エヴリンが体験するマルチバース(並行宇宙)での大活躍を描いたSFカンフーアクション。

怒涛の展開をみせる後半は、それでも「映画を観慣れている受け手」がついていける「ぎりぎり」に留められていて、その塩梅が素晴らしいし、マルチバースを描きつつ日常の尊さに着地したところが評価された点だろう。

(しつこいが)ウィル・スミスの一件以来、オスカーそのものに興味を抱くことが出来なくなったものの、キー・ホイ・クァンとジャイミー・リー・カーティスが報われたことはうれしい。
なにより本人があれほど歓喜しているのだから、白けた反応を見せるのは無粋だし愛がないもの。

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第14位 AIR/エア

ナイキをスポーツブランドの筆頭に引き上げたバスケットシューズ、「エア・ジョーダン」誕生秘話を描くベン・アフレック監督作。

スニーカーに興味を抱いたころには「すでにナイキの天下」だった世代なので、トップ戦線に君臨していなかったころのこの企業を覗く感覚はいかにも映画的で面白い。

ときどき社訓が入る構成やジョーダン本人は背後だけしか映さない演出、丁々発止の電話のやりとり(性病!笑)などなど映画術に感心しきり!!
はっきりいってアフレックには俳優としてよりも映画監督として「超」期待している。



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第13位 正欲



ふつうって、なにかね―?

家庭不和のつづく検事・啓喜、代わり映えのしない日常に鬱々とした感情を抱く夏月、準ミスターに選出される大学生・大也。
彼ら彼女らが「ある事件」をきっかけに交差する―朝井リョウの傑作小説を映画化、俳優陣はみな好演だがとくに「笑わない」新垣結衣、そして東野絢香の演技が出色。

原作は発表直後に触れ、おそらく映画化されるだろうけれどこれは難しいのではないか…と思っていたら翌年には「きっちりとした映画」になっていたことに驚いている。

性的指向に踏み込むこの作品は、『桐島、部活やめるってよ』ほどの評価や人気を得ることはないだろう。
しかし志の高さでは双璧、この野心こそ映画の未来につながっていくものだと思う。

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第12位 怪物

怪物、だーれだ…。

とある郊外の町、小学校で「よくある喧嘩」が発生。だが当事者たちの証言は悉く食い違い、やがて大騒動へと発展していく―『藪の中』のような構成で描かれるミステリー。

子どものリアルを引き出すことに定評のある是枝裕和の最新作だが、この映画にかぎっては脚本を担当した「坂元裕二のもの」になっているような気がする。
よってカンヌの脚本賞は納得、「他者をどう捉えるか」「他者からどう見えているのか」を主題としているところは次点にした『正欲』ともリンクするところがあり、これはニュートレンドのようでいて、じつは表現がずっと追究してきたものでもある。

ただひとつ、難点をいえばノイズが過ぎるのかもしれない。
坂本龍一の、映画音楽としての遺作が雄弁に物語っているのだから、このノイズは少し邪魔のような気がした。



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第11位 TAR/ター

女性として初の首席指揮者に任命されたリディア・ターに起こる奇奇怪怪を描く、才人トッド・フィールド16年ぶりの長編映画。

賞を取りまくった、ケイト・ブランシェットの憑依演技は文句なし!

説明が足りず、観客は置いてけぼり…という評を目にしたが、まぁ分かるところはあるものの、はっきりいって映画は映画監督は、このくらい投げてよいと思っている。
投げやり。という意味ではなく、ある程度の解釈は観客に委ねていいのではないか、、、ということ。

説明過多のサービス過剰映画が増えた―これが映画の長尺化の一因だと思っているのだが、逆にいえばこれは、受け手をバカにしているってことでしょ。
(スコセッシは別だよ!笑)

つまり筆者は、観客を信用しているトッド・フィールドの熱き思いをたしかに受け取った、、、ということです。

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明日のコラムは・・・

『愚か、を前提に。~2023映画回顧(2)~』
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