随分前のアルバイトで、府中刑務所から出所してきたばかりのジイサンが相棒になったことがある。
「どのくらい入っていたんですか」
「6年だね。行儀よくしていたから、刑期がだいぶ短くなった」
「なんで入っていたんですか」
「裏切り者の腕を斬り落としたり、まぁ、いろいろあったんだよ」
うらぎりもの?
聞けば、元ヤクザさんだった。
あぁ、それで暑い日も長袖なわけね。
まだ背中に、ホリモノがあったのか。
それにしてもすごいね、裏切り者への制裁が。
北野武は「ヤクザにも守らなければいけない道理があるんだよ」といったが、そういうこと? なのだろう。
「刑務所のなかって、どんなですか」
「開き直れば、楽しいよ」
「楽しいんですか?」
「そりゃ外に比べれば不便も多いけど。女抱けねぇし」
いちどだけ、仕事中にこのひとと揉めたことがあって。
自分に非はないはずだからと、一歩も引かなかった。
そうしたらつかみ合いになり、腹に一発パンチを喰らう。
・・・・・。
動けなかった。
さすが、喧嘩慣れしているプロである。
自分も若かったのだろう、よくまぁムショ上がりの元ヤクザさんと喧嘩出来たよなぁ!!
旧友のAは、ある罪で黒羽刑務所(栃木)に服役した。
聞くと、独房には「あの」田代まさしと、スーパーフリー事件の主犯が居たそうだ。
後者は少し説明が必要か、十数年前に起こった、早稲田大学サークルによる複数のレイプ事件のことね。
この黒羽刑務所こそ、自分にとっての「生まれて初めての刑務所面会」の舞台である。
Aによると、黒羽は初犯のものを多く収容する刑務所なんだそうだ。
一時期は、「あの」押尾学も入っていたとか?
それにしても遠い。
最寄り駅はJR那須塩原・・・って、もう旅行しに来た気分だよ!!
そこから随分と歩くので、タクシーを使う。
「黒羽刑務所まで」と伝えるのも、なんだかちょっと緊張したものである。
ただ運ちゃんは慣れたもので、「身内のかたですか、それとも友達が入っているの?」と話しかけてくれた。
「友達です」
「あぁ、そう。やっぱり、イヤなものでしょう、病院の面会とはちがうんだから」
「ですねぇ」
「あの、面会とかに詳しいんですか?」
「それほどでも・・・だと思うけど」
「誰も来てくれないから寂しい、あと出来ることなら差し入れにエロ本を持ってきてくれと頼まれたんですけど」
「うんうん」
「エロ本って、大丈夫なんですか」
「大丈夫だよ、たぶん看守も期待しているんじゃない?」
「(笑う)へぇ、そういうものなんですか」
この、エロ本の差し入れが可という情報は、堀江貴文が連載で明かすまでは「あまり」知られていなかったこと。
だから自分は大丈夫かなぁと思いながらも、リュックいっぱいにエロ本を詰め込んできたのである。
「え、そのなか、エロ本だらけ?」
「えぇそうです」
「・・・う~ん、それはどうかな。3冊まで! とか注意を受けるかもね」
そうなのか。
まるで、遠足のおやつは500円まで! みたいな感じだな~。
で、到着。
物々しい雰囲気を想像していたが、そんなこともない。
オウム以後とはいえ9.11が発生する前の出来事、、、というのもあって、それほど厳重な警備体制とも思えなかった。
面会そのものの絵は、映画やテレビドラマと同じだった。
囚人と一般人はガラス越しに会話をし、このふたりを少し離れた距離から係員が監視していると。
彼の第一声は、「エロ本、持ってきた?」だった。
・・・・・。
来てくれてありがとう! ではないんか!?
我ながら、素敵な友人を持ったものである。
自分は苦笑して「おぉ、リュックいっぱいにね」。
「―でもさっき、多くても5冊までだねって係のひとにいわれたよ」
「充分! それだけあれば充分だよ。ありがとう!!」
やっと、ありがとうのことばが聞けた。
「どう? なかの暮らしは?」
「思ったほど、つらくない」
「(苦笑)罪を償うためには、それなりにつらくないとダメなんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけど」
「出てくるの、待っているから」
「ありがとう。親も、そうはいってくれなかった。初めていわれたから・・・泣きそうだよ」
そうそう、こういう会話を期待? していたんだよ。
「まっき~も、モノカキ続けるんだったら、いちどは入るべきだよ」
・・・・・。
そうかもしれないが、差し入れのエロ本を期待しなければならない時点で、自分には耐えられそうもない。
おわり。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『それから』
「どのくらい入っていたんですか」
「6年だね。行儀よくしていたから、刑期がだいぶ短くなった」
「なんで入っていたんですか」
「裏切り者の腕を斬り落としたり、まぁ、いろいろあったんだよ」
うらぎりもの?
聞けば、元ヤクザさんだった。
あぁ、それで暑い日も長袖なわけね。
まだ背中に、ホリモノがあったのか。
それにしてもすごいね、裏切り者への制裁が。
北野武は「ヤクザにも守らなければいけない道理があるんだよ」といったが、そういうこと? なのだろう。
「刑務所のなかって、どんなですか」
「開き直れば、楽しいよ」
「楽しいんですか?」
「そりゃ外に比べれば不便も多いけど。女抱けねぇし」
いちどだけ、仕事中にこのひとと揉めたことがあって。
自分に非はないはずだからと、一歩も引かなかった。
そうしたらつかみ合いになり、腹に一発パンチを喰らう。
・・・・・。
動けなかった。
さすが、喧嘩慣れしているプロである。
自分も若かったのだろう、よくまぁムショ上がりの元ヤクザさんと喧嘩出来たよなぁ!!
旧友のAは、ある罪で黒羽刑務所(栃木)に服役した。
聞くと、独房には「あの」田代まさしと、スーパーフリー事件の主犯が居たそうだ。
後者は少し説明が必要か、十数年前に起こった、早稲田大学サークルによる複数のレイプ事件のことね。
この黒羽刑務所こそ、自分にとっての「生まれて初めての刑務所面会」の舞台である。
Aによると、黒羽は初犯のものを多く収容する刑務所なんだそうだ。
一時期は、「あの」押尾学も入っていたとか?
それにしても遠い。
最寄り駅はJR那須塩原・・・って、もう旅行しに来た気分だよ!!
そこから随分と歩くので、タクシーを使う。
「黒羽刑務所まで」と伝えるのも、なんだかちょっと緊張したものである。
ただ運ちゃんは慣れたもので、「身内のかたですか、それとも友達が入っているの?」と話しかけてくれた。
「友達です」
「あぁ、そう。やっぱり、イヤなものでしょう、病院の面会とはちがうんだから」
「ですねぇ」
「あの、面会とかに詳しいんですか?」
「それほどでも・・・だと思うけど」
「誰も来てくれないから寂しい、あと出来ることなら差し入れにエロ本を持ってきてくれと頼まれたんですけど」
「うんうん」
「エロ本って、大丈夫なんですか」
「大丈夫だよ、たぶん看守も期待しているんじゃない?」
「(笑う)へぇ、そういうものなんですか」
この、エロ本の差し入れが可という情報は、堀江貴文が連載で明かすまでは「あまり」知られていなかったこと。
だから自分は大丈夫かなぁと思いながらも、リュックいっぱいにエロ本を詰め込んできたのである。
「え、そのなか、エロ本だらけ?」
「えぇそうです」
「・・・う~ん、それはどうかな。3冊まで! とか注意を受けるかもね」
そうなのか。
まるで、遠足のおやつは500円まで! みたいな感じだな~。
で、到着。
物々しい雰囲気を想像していたが、そんなこともない。
オウム以後とはいえ9.11が発生する前の出来事、、、というのもあって、それほど厳重な警備体制とも思えなかった。
面会そのものの絵は、映画やテレビドラマと同じだった。
囚人と一般人はガラス越しに会話をし、このふたりを少し離れた距離から係員が監視していると。
彼の第一声は、「エロ本、持ってきた?」だった。
・・・・・。
来てくれてありがとう! ではないんか!?
我ながら、素敵な友人を持ったものである。
自分は苦笑して「おぉ、リュックいっぱいにね」。
「―でもさっき、多くても5冊までだねって係のひとにいわれたよ」
「充分! それだけあれば充分だよ。ありがとう!!」
やっと、ありがとうのことばが聞けた。
「どう? なかの暮らしは?」
「思ったほど、つらくない」
「(苦笑)罪を償うためには、それなりにつらくないとダメなんじゃない?」
「まぁ、そうなんだけど」
「出てくるの、待っているから」
「ありがとう。親も、そうはいってくれなかった。初めていわれたから・・・泣きそうだよ」
そうそう、こういう会話を期待? していたんだよ。
「まっき~も、モノカキ続けるんだったら、いちどは入るべきだよ」
・・・・・。
そうかもしれないが、差し入れのエロ本を期待しなければならない時点で、自分には耐えられそうもない。
おわり。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
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明日のコラムは・・・
『それから』