■平日夕方に若者向け生放送、リスク覚悟の新たな挑戦
『青春高校3年C組』は、毎週月曜~金曜の午後5時30分から生放送されている青春バラエティー番組。秋元康氏とタッグを組み、4月からスタートした。「理想のクラス」を目指して一般から“生徒”を募集し、これまでに集まったのは個性溢れる27名。放送はテレビにとどまらず、動画配信サービスParavi(パラビ)やYoutube、LINE LIVE、ニコニコ生放送などで同時にライブ配信を行っている。
人気芸人×素人×生放送――。
こう聞くと、40代以上の人はかつて一世を風靡した『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)を思い出すのではないだろうか。だが『青春高校3年C組』には、おニャン子のような見るからに“スター候補”の若者はいないし、どちらかといえばちょっと冴えない一般高校生ばかり。生放送というリスクがある上に、平日夕方といえば各局ニュースや情報番組でしのぎを削る時間帯だ。肝心のターゲット層である若者の視聴習慣も薄いこの時間、なぜ同番組がスタートしたのか?
■マーケティング全盛のテレビ界、「普通の判断ならばやらない」
「普通の判断であればやりませんよね」と、プロデューサーの佐久間氏は笑う。「最近のバラエティー番組のほとんどは、ガチガチのマーケティングのもと制作されています。“日本はすごい”といった番組が多いのもそのためで、費用対効果も加味し、スタジオトークショーや時短番組が増えたのも同様。平日夕方という時間帯、常識的なマーケティングだったら絶対にニュースをやるわけですから、そこに若者向けの生放送を持ってくるのは視聴率的にリスクが高い。生放送バラエティーは人的コストでもかかるため、これもリスクです。さらにいえば、今はテレビ自体の体力が落ちているから、普通はスターをゼロから作るということはしない。やはり、リスクが大きいからです。たとえば、YouTuberのHIKAKINさんなど、他分野で人気の人を連れてくるのが本来のセオリー。そこも逆行していますね」。
リスクばかりが多い番組をやる意義とは何か。「常識的なセオリーによる番組の中に、一個ぐらい変わった番組があるのは悪いことじゃないと考えるのです。新たな鉱脈を見つける意義もありますが、セオリーにばかり頼っていては、テレビ全体の未来や多様性が失われてしまわないでしょうか」。
■「失敗に優しい」体質、テレ東の躍進は「身の丈に合っていた」から
佐久間プロデューサーの言うとおり、当初からリスクの高い実験的な同番組。他局とは異なるアプローチが評価されているテレビ東京だからこそ、実現できたのだろうか?
「そうだと思います。うちはネット局も少なく、意思決定も少人数でできる。それに、比較的、失敗に優しい局なんです(笑)。だから挑戦しやすいという一面もあります」。
そんな体質こそが現在のテレ東の好調ぶりを生んでいるのかと聞くと、謙遜とともに佐久間プロデューサーならではの分析が語られた。
「好調だという声を聞く機会も増えましたが、それは“幻想”です(笑)。テレビ全体のパワーが落ち気味ですが、うちは元からそんなに力があるわけではない。昔も今も身の丈にあった“スイング”をしていて、それが現状にはまっているだけなんです。他局がホームランバッターなら、テレ東は内野安打打者。ガタガタのグラウンドに慣れていたから上手くいっているけど、スポーツ推薦をとれるのはやっぱり他局の方々。今は力を出し切れていないだけで、現状に慣れたら他局のほうがすごいのは当然です」。
■「ネット同時配信しなければ未来はない」、視聴率だけでは量れない指標
開始当初、「目指すのは視聴率ではない」と語っていた佐久間プロデューサー。同番組は、テレビ放映とともに、複数のプラットフォームでインターネット同時ライブ配信を行っている。確かに、これを考えただけでも視聴率的にはマイナスだ。
「テレ東は、同時ネット配信について比較的理解があるんです。それに、今の時代、同時ネット配信をやらないとテレビの未来はない。それは自明なのですが、日本は高齢化社会が進んでいるせいで、構造の崩壊が見えにくくなっている。例えば、若者が番組を観る手段は、テレビ受像機だけではなくスマートフォンに移行している。ですが、そこに対する“視聴率”のような指標は完成されてない。絶対的な指標がない分、総合しての判断が問われる時代になっているのではないでしょうか」。
・番組の制作方法も、そんな時代に対応している。
「例えば番組で使うBGMも、ネット配信した際に権利問題が起こらないように自前のものを用意しています。また、ライブ同時配信しているプラットフォームサイ『SHOWROOM』がスポンサーに付いていたりと、ネット配信各社が応援してくれる制作法を取っています」。
■素人を使った「リアリティショー」が、先進的な実験の場に
同番組について佐久間プロデューサーは、「素人さんを使ったリアリティショーに近い」と語った。また、「昨今、素人さんを使った番組が増えてきましたが、これはテレビの欺瞞やウソが嫌われる時代になったから。有吉弘行さんやマツコ・デラックスさんが好まれるのは、テレビ的な建前があまり感じられないからでしょう」とも分析する。
「『青春高校3年C組』は、テレビ界でも数少ないフロンティア的な実験の場かもしれない。近い将来、未来を先取ったと言われる番組になるか、生徒からスターが誕生するか…。何かを見つけるには時間がかるし、まだ結果は見えません。ですが今後も、このドキュメンタリーにお付き合いいただけたらうれしく思います」。