SEA side

静けさの中で波の音だけが永遠に響きつづける。
美しいものとの出会いの記憶・・・・。

映画 「ぼくを葬る」

2006年09月06日 | 映画(ハ行)
 もし若くして余命が無いことを宣告されたらこんな風に死を迎えたいと思うような穏やかな対峙、波の音に包まれて迎える静かな境地を観客も追体験することになる。

 同性の愛人との関係、家族との関係、息子(主人公の父親)を捨てて家を出た祖母との関係、何を残して何を残さないか、一つ一つを整理していく主人公が丁寧に描かれる。そして、その道中で偶然出会う子供のいない夫婦との間に奇妙な絆が生まれることになる、という当たりがフランソワ・オゾン監督らしい。

 オゾン作品では海が象徴的に描かれる。

 「まぼろし」では主人公夫婦の夫が海で死ぬ。また前作「ふたりの5つの分かれ路」では二人の幸せがそこから始まる日没の海辺がラストシーンだ。

 続く本作では冒頭とラストに海辺のシーンが配置される。冒頭は海に向かう子供のころの主人公。「宣告後」主人公はしばしばこの少年時代の幻影を見る。

 その姿を通して、彼は自分の人生を肯定し、他人を思う優しさと生命に対する愛おしさを心の中に回復するのだ。