夕鶴{モラ版}

昔昔のある日のこと、若者が歩いていると一羽の鶴に出会いました。
見ると鶴はかわいそうに、羽から血を流して倒れています。

若者は思いました。
「おお、こりゃいいカモだ。こいつを治してやると将来メリットがあるに違いない。」
そして若者は手厚く鶴を看病してやり、数日後鶴は嬉しそうに空に帰って行きました。
空をクルクルまわりながら、お礼を言っているかのようでした。
若者は村に行き、「俺はこんなに偉いやつだ、こんなことをしてやった」と
触れ回りました。

またある冬の寒い日、若者が家にいると、きれいな若い娘が尋ねて来ました。
聞くと、今夜泊まる宿がなくて困っているとのこと。
若者は思いました。
「おお、若くてきれいな子だ。こいつを泊めてやればいいことがあるに違いない。」
そんな汚い心は隠して若者は
「そうですか、それはお困りでしょう、どうぞ泊まって行って下さい。」と
快く娘を迎え入れました。
そして村に行き、「俺はこんなに偉いやつだ、こんなことをしてやった」と
いつものように触れ回りました。

娘は毎日少ない食材で上手に料理を作り、掃除をして、若者の世話を焼きました。
そして娘は雪が深く、すぐには帰れないので、機を織りたいと言い出しました。
「どうぞこの部屋を使って下さい」と自分で働くのがキライな若者は、快く言いました。
そして「いい娘を拾ったもんだ、あの時の判断をした俺はすばらしい。さすが俺。」
とほくそ笑みました。

しばらくして娘が部屋から出てきました。見ると美しい布が仕上がっています。
「どうぞ、これを売ってお金にしてください。」
「ありがとう、では早速売りに行って来ます。」
金の計算の働く若者は、とっとと村に行き、いい値段で布を売ってきました。
もちろん、「俺が世話を焼いてやったら娘がこんなことをしてくれた」と
触れ回って帰ってきました。
「お前らも、困っている人が居れば助けてやった方がいいぞ」と
説教すらしてくる始末でした。

帰ってきて若者は娘に言いました。
「もっと織ってくれ、どんどん織ってくれ。」
娘はおかしいなと思いながらも、
昼夜を忘れて機を織り続けました。
若者はどんどん村へ行き、それを売っては自慢の種にし
どんどん財を成していきました。
若者の布は殿様の目に止まり、殿様がどんどん布を織って欲しいと
言ってきたのでした。若者は喜びに飛び上がりました。
「すべては俺がすごいからこうなったのだ。帰ってもっと娘に頑張らせよう。」

若者が帰ってきたとき、まだ次の布ができていないのを見て
若者はため息をつきました。
「はぁ~」「作っておけと言ったはずだが」
見ると娘は真っ青な顔をして痩せ衰えていました。
今にも倒れそうになっていました。
それでも恩のある若者のため、懸命に言いました。
「もう一枚だけですよ。それから、決して部屋だけは覗かないで下さい。」
若者は
「わかった、部屋は覗かないから、一枚と言わずにどんどん織ってくれ」
娘が「いいえ、一枚以上はもう・・・」と言いかけるやいなや若者は
「どういうつもりや!俺に恥をかかせるつもりか!殿様からの注文やねんぞ!」
「ここに置いてやってるのは誰や?誰のお陰でメシが食えてると思ってるんや?」
「泣いてもごまかせないぞ!ちゃんと食った分は払ってもらうからな!」

娘は泣きながら機を織りました。
あんなにいい人だったのに、私が悪かったんだろうか。
私がもっと頑張れば、あの人はあんなふうに豹変しなかったのだろうか。
もう少し我慢すれば、もっと機を織れば、いつか戻ってくれるだろうか。
羽根を抜き抜き布を織り上げるうち、娘はふと気付きました。
自分の羽根がもう、飛べないほどに少なくなっていることに。

部屋の前で若者は強く言いすぎたことを少しだけ後悔していました。
「しまった、強く言いすぎて生産効率が落ちたらどうしよう。」
「もっとうまく操縦するべきだったかな。あいつには頑張ってもらわないと。」
「まああとでまた機嫌とっておけば大丈夫だろう。」
「どうせ他に行くところがないのだし、俺を気に入っているようだしな。」

娘は涙をボロボロ流して、悲しくて機を織る手を止めました。
「私はあなたに救って頂いた身。」
「傷ついた私を助けてくれたのはあなただった。」
「その恩があればこそここまで頑張ってこれたし、あなたにも恩を返せたと思う。」
「だけど、このままここに居ては、私は飛べない鶴になってしまう。」
「鶴は飛べなくなったら、生きてはいけない。」
「だからあなた、ごめんなさい。私は飛び立ちます。」
最後まで添い遂げられなかったこと、
どんなに頑張っても優しい言葉をかけてもらえなかったこと
傷ついたとき助けてくれたのに、その人を裏切ること
だけどそうしなければ自分がダメになってしまうこと・・・
考えた末、娘は家を出ることにしました。

そこにちょうど若者が入ってきました。
娘は「見てしまったのですね。私はあの時助けていただいた鶴です。
あなたに恩返しがしたくてここに来ましたが、
見られてしまっては仕方がありません。
命を助けてくださってありがとう、さようなら。」
と鶴は若者の横をすり抜けて飛び立ちました。

鶴は傷ついた羽根を羽ばたかせながら思いました。
「この羽根を残しておいてよかった。」
「飛べる羽根が残っていなかったら私は死んでしまっていた。」
「あの人は酷いことを言ったけれど、私も悪かったのかもしれないし。」
「これでよかったのだ。すべて終わったのだ。」

若者は、「鶴よ~!!!」と鶴のあとを追いかけました。
追いかけているうちに涙が出てきました。
悔しいので泣き叫びながら走って追いかけました。
「鶴よ~!お前がいなくなったら俺はどうなるんだ~!」
「鶴よ~!殿様には何と言えばいいんだ~!」
「鶴よ~!俺は明日から何を食えばいいんだ~!」

鶴は良心の呵責に苛まれ泣きながら飛び続けました。
あの人は私がいなくなったらどうなるんだろう。
でも、戻ってはいけないことだけはわかっていました。
力を振り絞って、出来るだけ遠くに飛んで行きました。

若者は、その後も、どこまでいっても自分のことしか考えていませんでした。
いつものように村へ行き
「家に置いてやっていた娘に、俺がどんなに酷い目に遭っていたか」
「俺は被害者だ。俺は偉いのに、アイツは恩をあだで返すとんでもない人間だ。」
と、話して聞かせたのでした。

おしまい

大切なのは、
羽根があるうちに
飛び立つことです。
コメント ( 15 ) | Trackback ( 0 )
« 「モラルハラ... 「夕鶴」のそ... »
 
コメント
 
 
 
リアルです (よもぎ)
2005-02-20 23:41:26
新版 本当は怖い「鶴の恩返し」ですね。

モラ男の描写がリアルです~。
 
 
 
ぶぁはっは!! ()
2005-02-21 01:14:52
全く私の夫がやりそうなことです。

今回は、まっちーさんの想像力に脱帽。



さすが、モラ夫との付き合いが長いだけあって、とてもリアルだと思いました。
 
 
 
うんうん (まっち~)
2005-02-21 01:26:07
いやぁ、たとえが美しすぎるけれど

自分的に、どんどん羽根をもがれている感覚があって

「気付き」のあとの「心の相談室」の人にも

「そのままそこに居たら脱出の力すらその男に奪われる」

と予言されまして、

その時も心に浮かんだのはなぜか鶴だったんですよね・・・



この物語はまるで私とモラ夫です。

モラ夫は私より5歳も年下で

家庭も複雑で学歴の差もある私と結婚してくれました。

「愛」だと思っていたらそれは

「計算」だったし、

どんなに尽くしても受け止める能力が欠如している

人がいるなんて想像もしない頃だったから

安易に幸せになれると、一緒になっちゃいました。



モラの恐ろしさが短い物語に

如実に表現できたかなと思います(笑)

 
 
 
感動! (うるさい女 Ko...)
2005-02-21 02:34:34
いやー、すごいです、まっち~さん。

モラの描写と鶴の心理描写が秀逸!



最後の3行が心にずしんと響きました。

今この瞬間にも、飛び立つ羽根を奪われてしまった声なきモラ被害者がたくさんいるのでしょうね。



いや、ひょっとすると本当はどんな被害者にも飛び立つ羽根はちゃんと残っているのかもしれません。

被害者自身にも自らの羽根の存在が見えなくなっている、あるいは羽根があることも忘れさせてしまっているのが、本当のモラルハラスメントの怖さであるような気がします。



苦しみの許にある全てのモラ被害者が、自らの羽根の力を信じて飛び立つことができますように…。
 
 
 
やるわ~ (西丸)
2005-02-22 17:40:54
残グリもまっ青。すばらしいモラと鶴の心理描写。笑っちゃいけないと思いつつ笑っちゃいましたw

みんな「この人私がいなくなったら」と思って去ることが出来ないんですね。

でもモラにとっては、金をくれて、自分のわがままを聞いてくれて、身の回りのことをしてくれれば誰でもいいんですね。

とにかくしゃぶりつくされないうち。ということですね。
 
 
 
サイコーです(∀≦ (美月)
2005-02-22 23:33:21
いや、素晴らしい。その一言に限ります

最後の【俺は被害者だ】ってところ。もう言葉も出ません

もし良かったら美月のブログも遊びに来てください。

見て頂いてお気に障らないようでしたら、リンクも貼らせちゃってください
 
 
 
ありがとうございます~ (まっち~)
2005-02-23 01:49:07
Ko...さん

そう、最後の3行が大事。

トラの檻の中の生活から、「逃げよ」と言ってくれた人が居まして

「逃げていいのか」と驚いた自分でした。

>苦しみの許にある全てのモラ被害者が、自らの羽根の力を信じて飛び立つことができますように…。

ほんまそうですわ~信じれば叶う、というかなんとかなる、ですよね♪



西丸さん

そうそう!「この人私がいなくなったら・・・」って思っちゃう。

いや、現実私は「あなたのサンドバックは引退します」と書置きして出てきました(爆)

これも、笑える?ぶわははは(≧▽≦)

そうそう、金やらなんやらしゃぶりつくされますからね~逃げるしかなぃっすね。



美月さん

初めまして~

ブログおじゃまして来ました☆

また遊びにきて下さい♪

「俺は被害者だ」

このセリフは、今うつ病で入院している主人の口から出たリアルなセリフです。

私はDVで鼻骨を折られたのですが

それは「たまたま」らしいですわ。

命あるうちに、脱出を!
 
 
 
すばらしい~! (nasa)
2005-02-23 12:11:03
まっち~さん、はじめまして。

モラハラ被害者同盟から飛んできました。

実は昨日も読んでたのですが、セリフがあまりにもリアルで、鶴と当時の自分がダブって、ちょっと涙でして...(笑)



羽があるうちに飛び立っておいて良かった!

とつくづく思いました。

もうすぐ、バッサバッサと飛びまくるゾ~!
 
 
 
鋭いです! (沖亜)
2005-02-23 19:37:42
モラハラ板からとんできました。

先日、テレビで「フォレスト・ガンプ」の映画を初めて見ました。白い一枚の羽の描写から始まって最後も再びその羽が舞い飛んでいく描写で終わりました。

ヒロイン・ジェニーの父親が、酒瓶を持って畑の中を、娘である彼女の名を呼びながら探す場面がありました。まだ幼い娘のジェニーは、「神様、どうか私を鳥にして空へ逃がしてください」と畑に隠れながら祈っていました。父親にどんなことをされてきたのか、父親の顔すら映りませんでしたが、ぞっとしました。



逃げる羽がどんなに大事なものか、羽が残っている人はどんなに幸いか、まっち~さんの夕鶴を読んで、フォレスト・ガンプのことも考え合わせて深く深く思いました。



私も、離婚してから、日本の童話を元にした小説書いたんですよ~。



今日は鼻骨の手術された大変な日だったのですね。私は大河ドラマが好きで見ているのですが、今日は新撰組の山南敬助の命日だそうです。自分らしく生きようとして飛び立つことが許されず、飛び立った先には死が待っていた山南敬助のような人はこれまでどれほどあったでしょう。



逃げて自分の場所を見つけることを許された幸福を感じずにはいられないです。
 
 
 
涙が・・・ポロリ (風花)
2005-02-25 21:59:07
もう3月です。

下の娘はもうすぐ家を出ます。

まだ羽が残っているうちに出してやれるのかしら・・・モラハラの渦の中で楽しいはずの高校生活を過ごさせてしまった。

父から羽をもがれ、そして母もきっとこの子の羽にしがみついていたのでは・・。

少しの羽でも残っていれば

きっと子のは美しい鶴になってくれると信じながら・・・。

出ない涙を此処で流してしまおう、

娘が出るときには笑って送り出したい。

そうしなきゃ、娘は家を出る事を躊躇するから。

 
 
 
ありがとう~ (まっち~)
2005-02-26 03:26:28
nasaさん

ようこそいらっしゃいました。

フラバするかた、多いですよ。

私もその一人ですもん(笑)

フラバしてフラバして、きっと記憶が薄れて

いつかフラバしなくなるのでしょうね。



バッサバッサと飛んでnasa宇宙局まで行っちゃいましょう☆

果てしなく広がる星空、サイコ~ですね☆

ええHNやぁ~



沖亜さん

こんにちは♪親サイトモラハラ同盟でよく拝見しています。

小説、是非一度ご紹介下さい☆

フォレストガンプ、いいですよね~あの白い羽根私も気になってました。

彼のピュアなイメージにぴったりの、白い羽根。



そう、私達にも背中に羽根があるということ、

それは愛する人のためでさえ、むしってはいけないということ

そういうことも伝えたかったのです。

最後の

「逃げて自分の場所を見つけることを許された幸福」

この「許された」がとっても深いですね・・・激しく共感しました。



風花さん

ようこそいらっしゃいました

モラハラ同盟でいつも拝見しています!

風花さん娘さんの話多いですよね、それを聞くたびに、

自分は傷ついても大きな羽根を広げて子供たちを守る風花さんの

潔くはかなく、そして強い姿を思っていました。

私も強い母になりたい。

モラを乗り越えて、子供たち守りたいです。

大丈夫、お子さんたちはちゃんと戦う母の背中見てますよ!

「あなたにはキレイな羽根がついている」

そう信じて疑わないことが何より、娘さんにとって幸せじゃないでしょうか

なんてエラそうなことを(笑)すんません・・・
 
 
 
感動しました (もんちっち)
2005-02-27 15:17:45
はじめまして。私もモラハラ被害者同盟でお世話になっているもんちっちです。

羽がほとんどなくなって、仕方ないから泣きながら歩いて家を出てきた感じです。

今、モラ菌が少しずつ剥がれ落ちて、羽が生え変わりつつあるところです。

大空は見えています。後は飛ぶ練習をするだけ
 
 
 
いらっしゃい (まっち~)
2005-02-27 16:05:35
もんちっちさん

いらっしゃい☆いつも見てましたよ~



>大空は見えています。後は飛ぶ練習をするだけ

その「大空」こそが「希望」ですよね。

希望のない生活から命からがら脱出して、

希望を持てる生活へやってきたのですよ。



傷はいつか癒えるし、私達は幸せになれる。

一緒に頑張りましょう☆







 
 
 
 (竜駅)
2005-09-07 23:52:34
実は、私は日本じゃないです。さっき、卒業論文を準備していますので、このBLOGを見ました。大好き。

私は今日本語を分勉強していますので、この文章の意味がすっかりわからないですが、やはり大好き。
 
 
 
かんさいべん (ar)
2018-03-07 20:03:13
的を得た例えで笑えました。自分は飛び立てるか不安ですが、、、若者が関西弁なのが笑えました。
 
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。