今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

549 盛岡(岩手県)よ市にてホームスパンを紡いだぞ

2013-12-11 13:14:26 | 岩手・宮城
今度の旅の目的の一つに買い物があった。ホームスパンのコート地を見つけることである。岩手では、かつて英国の宣教師が伝えたホームスパンの手紡ぎが守られ、いまでは本場スコットランドでも消えかけている技術が伝承されているというのだ。どこかおとぎ話のような、それでいて東北人の粘り強さを黙々と示しているような物語を伝え聞いて、私はすっかり感動した。そこでこの際、コートを新調しようと思い立ったのである。



いろいろ調べてみると、北上山中の岩泉という町に、羊を飼い、毛を刈って染め、糸を手紡ぎしているおばあさんたちのグループがあるという。また花巻近郊にはホームスパン専業の会社・工場があり、その売店が盛岡にあることがわかった。行程に都合のいい花巻の工場に立ち寄ると、休業日ということで工場は無人だった。しかし入り口に施錠はなく、製品が積んだままになっている。のどかな手工業の世界に迷い込んだようである。



ホームスパン(Homespun)は、直訳すれば「家庭で紡いだ糸・織物」ということになろうか。丈夫で暖かそうだ。花巻の会社のホームページにはこんなことが書いてある。「羊の毛を家庭で手紡ぎ・手織りしたホームスパンは、
産業革命以前の英国で生まれました。
長い時間をかけて織り上げた手織りの毛織物には、独特の風合いがあります。
わたしたちは、英国でも用いられなくなった伝統の技法を受け継ぐ、
世界で唯一の企業です」



そのショップは盛岡市の材木町商店街にあった。様々な色に染められ織られた生地が揃っている。コートやジャケット、それにマフラーなどの製品も並んでいる。生地を買って仕立ててもらうつもりだったのだが、サイズが私にぴったりのコートがあって、デザインも気に入った。丈や裄を好みに合わせてくれるということなのでそれに決めた。とても暖かく、一生ものだと奨められたけれど、一生持つか心もとない程、軽いコートである。



1着分の生地が編み上がるまで、大変な手間がかかっているようだから仕方のないことだが、価格がなかなか高い。シルクや和紙を織り込んだ斬新な製品も並んでいるものの、街にはもっと手軽なおしゃれ着が氾濫している。技術を継承し、製品を経済ベースに乗せて行くのは大変な苦労なのではないか。ホームスパンの価値を広く認識してもらうよう、私も颯爽と街を歩いて宣伝に一役買いたいのだが、東京はまだそこまで寒くない。



ショップを出ると、通りは露店と買い物客で溢れていた。4月から11月まで、毎週土曜日に開催される「よ市」が始まったのだ。露店には近在の農家らしいおばさんが並べる野菜や茸、山菜、それに遠く海辺の街からやって来た海産物も並んでいる。材木町商店街が盛岡市中でどのような位置付けの街なのか知らないが、この催しは40年も続いているというから大したものだ。地方の街を歩いて、これほどの元気に出会うのは珍しい。



市には笑い声が響き、客と売り手の丁々発止も賑やかだ。キノコを買おうとしたら、隣りで品定めをしていたおばさんが「もっと他も見てからがいいわよ」と耳打ちしてくれた。漬け物を売っているおばあさんが強い訛で何か言った。「オラたちはじぇじぇなんて言わない、ですって」と他の客が翻訳してくれた。NHKが流行らした「じぇじぇ」が気に入らなくて、東京者と見破られた私たちが叱られたらしい。トバッチリである。(2013.9.28)









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