prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「母性」

2022年12月15日 | 映画
戸田恵梨香の母親と永野芽郁の娘の二通りのナレーションで場面を運んでいくのだが、その内容にズレや違いがある。
実年齢が11しか違わないのは思ったほど気にならなかった。母と娘というのはここでは人間関係における立場の違いであって必ずしも年齢とは関係ないからか。

ただし「羅生門」形式みたいに各キャラクターの主観に応じて出来事のありようが違って見えるという具合に整理されていればよいのだが、ただ矛盾している場面(同じ場面で片方は朝で片方は夜だったりとか)がいきなり続いたりするから見ていて混乱する。両者を描きわける構成や映像の工夫といったものが足りない。
だからクライマックスの「実は」というところも効かない。

姑役の高畑淳子の怪演は笑ってしまうくらい。声の出し方がいちいち凄い。
ちらっとこれを木下恵介が演出したらどうなったかなと思った。

大方をロケセットで撮っているのだろうが、あまり建物や画面に厚みがない。今風のマンションとかが舞台だったら厚みがないのが当たり前なのだけれど、一応旧家なので気になる。





「すずめの戸締り」

2022年12月15日 | 映画
「君の名は」を見たとき 隕石が降ってきた後の世界という設定に、 なんとこれはタルコフスキーの「ストーカー」じゃないの とびっくりしたことがある。 で今回は 廃墟にドア だけがポツンとあるという絵で これまてまるっきりやはりタルコフスキーの「ノスタルジア」 ということになる。 偶然ですかね。

 タルコフスキーの場合は世界の破滅といったものを 詩的かつ象徴的に描いていたのだけど こちらはすでに現実にあった大災害を 明らかに 背景に置いてある。
 みみずと呼ばれる 巨大な地震を起こす物体は 「砂の惑星」のウォームのようでもあるし、地脈の具体化とも見える。

九州から四国、神戸、東京を経て東北に向かうそれぞれの背景画がまあリアル。 ロケハンをずいぶん丁寧に行ったんだろう。聖地巡礼が流行りそう。
日本中いたるところに廃墟があるっていうのが生々しい。 温泉街、学校、遊園地など日本が活発に活動していた時期の跡が完全に過去のものになっている。

すずめ他少数者にだけ破壊の兆候が見えているのだけれど、案外一般人にも見えているのではないか、見て見ぬふりをしているのではないかと思ってた。

三本脚の椅子がラストで四本脚になるといった補償はない。欠落したものは欠落したままということなのだうと思っ゛たら、見た後入場時にもらった「新海誠本2」にそのままの狙いが書いてあった。





「天使にラブソングを2」

2022年12月14日 | 映画
一作目の北米公開が1992年3月29日で、この二作目の公開が翌1993年12月10日と、ハリウッド映画としてはずいぶん間が短い。
もともと別に書かれていたシナリオをシリーズ用に書き直して使ったらしい。

こういうことはたまにあって、「ダイ・ハード3」がもとは豪華客船を舞台にする予定だったのがその前に「沈黙の戦艦」がヒットしたので船という設定を捨てて別に独立して書かれていたSimon Saysというシナリオを仕立て直して使ったりとか、もともとシナリオのストックがある(つまりそれだけの資力のある)ハリウッドならではの話。

とはいえ、そういう仕立て直しの跡は微塵も見えない。歌による生徒たちの善導映画という大きな型にはまっているからシスターが関わってもおかしくないというわけ。
三作目が準備中というけれど、うって変わってずいぶん間が空いてしまうことになるが、いくらなんでも寅さんみたいなことにはならないだろう。




「ザ・メニュー」

2022年12月13日 | 映画
アニャ・テイラー=ジョイの超細身の身体を冒頭から際立たせた衣装からしてグルメ集団の中の異物感をあからさまに出している。
というか、この人どこにいても異物感がある気がする。

対するレイフ・ファインズはかつてテレビ映画でアラビアのロレンスを演じたことがあるのだが、それを再現するかのようにロウソクの炎を手で消し、さらには灼けている燃料を鷲掴みにする。
レストランを支配する神のようなシェフ(オーナーを天使の羽をつけて処刑するあたり、神がかっている)が同時に自虐的というか自罰的で、客=消費者たちを巻き込んで破滅に向かう。
それとグルメとは無縁の女性とは対決というよりはすれ違いになる。

食というのはもろに人間の生理と直結していることなので、グルメ映画というのはしばしば見た目の豪華さとは裏腹にどこか気持ち悪い方に行きがちになる。
おかしなものでテレビで死ぬほど放映しているグルメ番組は単なる消費の対象のせいか気持ち悪さまであっさり使い捨てにされている気がする。

展開の仕方が論理的に積み上がっていく感じではなくて、コース自体の型がとにかく決まっている中で各場面=各皿で工夫を凝らすみたいな作り。
寓話的な作品かと思ったが、どういう寓意なのか必ずしもはっきりしない。





「ポゼッサー」

2022年12月12日 | 映画
二代目というのが監督にとって有利なのか不利なのか一概に言えないが、父親(デヴィッド・クローネンバーグ)と似て非なるというか、違うようでまだ似ているブランドン・クローネンバーグ監督作。

才能にあまり世襲を持ち込むのはよくはないが、グロさと乾いた画面、人間を普通にモノとして見る美意識、どこか観念的な感触はやはり似てはいる。





「香川一区」

2022年12月11日 | 映画
平井卓也デジタル大臣(当時)のNECを外す、脅しておかないと舐められるからねという発言の録音を聞くとぎょっとする。

四国新聞が平井一族と一体化していて、デジタル大臣就任に合わせておもいきりヨイショ記事を大量に載せているのが見せられる。

大島新監督が平井の取り巻きのNHK記者に向って「PR映画って言い方はないんじゃないか」とクレームをつけるところがあるが、NHKが今さらながらあからさまに自民党側というより一体化しているのが画になっている。

選挙のライバルの平井元大臣の出番がかなり多く、自民党の地域に根差した代々の組織動員力の強さというのを改めて感じさせる。竜巻に向かう螳螂の斧という感じさえするのだな。
平井側は菅首相(当時)をはじめ大物を続々と送り込んできて、東京にいるとそれがどうしたとしか思わないのだが、それなりの威力はあるらしいと漠然と感じる。
半ばカットバックしていく構成はちょっと劇映画的。

小川が演説しているところで「本人」と幟を立てているのが可笑しい。

しかし政治をやってはいけない政治家を落とすための選挙というのもあるわけで、対抗候補が当選したからといって、そっちが比例区で当選するなんて馬鹿なことが実際にいくらもある問題大きすぎ。早い話、平井は比例で当選していて現在も議員をやっている。

自分は選挙で棄権したことは一度もないが、特定の候補や政党を支持したことはないし、演説会の類に出たこともないに等しい。
それだけにああいう支持者の熱心さというのは理解の外にある。





「情炎」

2022年12月10日 | 映画
吉田喜重というとATGでの前衛的で難解な作品の印象が強いが、松竹でスター女優である妻の岡田茉莉子をヒロインに据えたメロドラマとして売られたであろうこの一作も実はそれほど違わない。
製作体制としても松竹配給の自主製作に近い(現代映画社製作)。

まずいわゆる映画における一般的な愛といった要素が排除されているあたりは、おそらく当時とするとアントニオーニの「愛の不毛」と同時代的に共鳴していたのだろう。
というか、愛の不毛なんていう当時のキャッチフレーズだと何のことだかわからないものが実際に見るとわかるように出来ている。




「樹氷のよろめき」

2022年12月09日 | 映画
大きく分類すればメロドラマなのだろうが、すでにヒロインと男たちとは関係が切れていてドラマにはなりようがなく、妊娠したかと思ったら想像妊娠でしたというのが、存在していない部分・空白が存在しているものに拮抗する、吉田喜重らしい観念的な構図。

吉田喜重らしいかっちりした構図と手持ちのカメラの併用っていうの珍しい。
役者としての蜷川幸雄がこれだけ全面的に出ている映画は見たことがない。

白黒映像特に白色がすこぶる美しい。
終盤の雪の中の撮影がさぞ大変だったろうと思われる。現代映画社とは吉田・岡田が設立した独立系の製作会社だが、ATGとの提携だけでなく、この松竹配給のメジャー系映画でも提携しているみたい。




「アムステルダム」

2022年12月08日 | 映画
ほとんど実話、というのが宣伝文句なのだが、どこがウソみたいな本当の話というほど奇想天外なのかというのがちょっとわかりにくい。
デ・ニーロ扮する将軍が神輿として担がれようとしたのを防ぐ、あるいは主人公たちの説得に乗って拒否するというのが骨子なわけで、軍人がクーデターを起こすというありがちな話をひっくり返している。

リベラル側からの「まともな」保守に対するシンパシーみたいなものが出ているのが珍しいし、裏には保守ともいえないトランプのムチャクチャさに対する作り手側の批判があるのだろう。





「土を喰らう十二ヵ月」

2022年12月06日 | 映画
オープニングで東京の風景にジャズ調の音楽がかぶり、そのまま雪に埋もれた地方に車で移動する。
都会にジャズというのはありがちだけれど、雪景色にもかぶせるのが、こういう地産地消の生活も同じようにお洒落なのですといった目配せに思える。

沢田研二が登場した時はずいぶん老けたなと思わせてお茶を本格的にたてるあたりで逆に「TOKIO」を歌っていた頃の毒気がある人から毒気が抜けた味わいを出すのが、里芋を洗って調理する素朴なようでお洒落な感覚に通じる。
沢田研二自身は鳥取の出身。

おそらくご多分に洩れずだろうが、水上勉の原作(原案)は「美味しんぼ」で知ったのだが、エコ志向と経済効率至上主義批判の臭みからは周到に距離を置いている。

通常の土井善治の一汁一菜のシンプルさをちょっと本格的にしたら、逆の意味ですごく贅沢なことをしているのがわかる。





「天使にラブ·ソングを」

2022年12月05日 | 映画
「サウンド·オブ·ミュージック」の裏返しというか、修道院から出ていくのと入ってくる違いはあるにせよ、音楽=歌のない世界にいた人たちに音楽を通じて生きる喜びに帯する感覚を甦らせる話という点では同じ。

教会の聖歌隊でも黒人教会のゴスペルといったらノリノリなんてものではないが、こちらはリーダーを務める羽目になるウーピー·ゴールドバーグを除いてみな白人。
教会や修道院と歌との関係というのもずいぶん地方や宗派によって違うのではないか。

予告編などで繰り返し流されるラスベガスの街を尼さんの群れが横切る図というのがなんとも可笑しい。

「明日なき追撃」

2022年12月04日 | 映画
カーク・ダグラスが主演を兼ねた監督した西部劇というのが興味で、当時の最近メディアだった新聞を利用して名を売り上院議員に立候補しようという保安官役。
出世作の「地獄の英雄」や「チャンピオン」の野心と出世のためなら手段を選ばない役につながっている。

ずっと前に日曜洋画劇場で放映されたとき淀川長治氏の解説だけ聞いていたのだが、たびたび挿入される乾板式のカメラに映る像が上下逆さになっているのが後の展開の逆転を暗示していますと解説していて、実際に見てなるほどと思う。
こういう解説って本当は必要なんですけれどね。

敵役のブルース·ダーンは「11人のカウボーイ」でジョン·ウェインを後ろから撃って殺す悪役で名を売ったあたりで、狡猾で仲間も平気で見捨てる強盗のボス役は、ダグラスと事実上表裏一体で、物語もそういう結末になる。

ダグラスが議員に出世した後の部下たちの身の振り方はどうなるのか部下たちに聞かれ、警備員の口があるといい加減な回答をするのだが、部下たちは収入が減るのが大不満で、ことにインディアン(と、BSPの字幕に出た)の部下は再就職などムリとあからさまに反発する。

西部劇のタテマエとしてのフロンティア·スピリットもへったくれもなく、アメリカ建国にあるのは暴力とカネと権力と売名だけという身も蓋もない価値観の世界だが、振り切ってユーモラスですらある。

ダグラスの役名がハワード·ナイチンゲールというのがなんだか可笑しい。
もっともナイチンゲール(小夜啼鳥)は啼き声がきれいな一方で夜に啼くので墓場鳥と呼ばれたりするらしい。ダグラスのええ格好しいとその裏の野心とに合わせているのだろう。

原題はposse。(保安官が犯人捜索・治安維持などのために召集する)警護団,民兵隊,一団,集団

- YouTube



「窓辺にて」

2022年12月03日 | 映画
稲垣吾郎の、妻が浮気したこと自体より、それに対して怒りが湧かない自分にショックを受ける、というのは、そういうこともあるのではないか、と思えて、あるべき常識に異なる反応がぶつかるというより、無風状態そのものが不思議としぶとく続くこと自体が描かれているように思える。

無風状態というのが必ずしも無気力や無関心ではなく、それなりに何かがあるのを感覚的に表現できていると思う。

玉城ティナの、文学賞を受賞して居並ぶメディアに対しても臆しも緊張もしないで応対し、一方で普通のというか普通よりバカっぽいボーイフレンドとつきあっている高校生作家、というあんまりありそうにない設定がもっともらしく見える。

稲垣と並んでパフェを食べると、二人とも左利きなのがわかる。
若い女性と中年男がパフェを食べたりラブホテルをただのホテルとして利用したりするあたりが不自然でもわざとらしくもない。
作り手の腕と共に時代でもあるのだろう。

- YouTube



2022年11月に読んだ本

2022年12月01日 | 
11月の読書メーター
読んだ本の数:19
読んだページ数:4613
ナイス数:1

煉獄の獅子たち (角川文庫)煉獄の獅子たち (角川文庫)
読了日:11月27日 著者:深町 秋生




おんなの窓 3おんなの窓 3
読了日:11月25日 著者:伊藤 理佐


おんなの窓 2おんなの窓 2
読了日:11月25日 著者:伊藤 理佐


おんなの窓おんなの窓
読了日:11月25日 著者:伊藤 理佐


山本五十六(下) (新潮文庫)山本五十六(下) (新潮文庫)
読了日:11月12日 著者:阿川 弘之


山本五十六(上) (新潮文庫)山本五十六(上) (新潮文庫)
読了日:11月12日 著者:阿川 弘之




アントニオ猪木の謎アントニオ猪木の謎感想
プロレスラー猪木ではなく、政治家(?)実業家(?)の猪木像が、かなり猪木と近い体質の元地上げ的不動産屋の筆で描かれる。 推測が大幅に入るとはいえ、都知事選立候補表明とその取り下げに関する呆れるしかない経緯の記述は動いたカネが具体的に目の前を通り過ぎるのだから生々しい。 また新日本プロレス株式会社を上場させようとする人たちの尽力を自分もトクするはずなのに破壊衝動のようなものが先に来てブチ壊してしまうなど、およそ付き合いきれない人としての猪木が描かれる。 楽しくはないが、あまり類書はない。
読了日:11月09日 著者:加治 将一




会社員でぶどり6会社員でぶどり6
読了日:11月04日 著者:橋本 ナオキ


会社員でぶどり 5会社員でぶどり 5
読了日:11月01日 著者:橋本 ナオキ


会社員でぶどり 4会社員でぶどり 4
読了日:11月01日 著者:橋本 ナオキ


会社員でぶどり 3会社員でぶどり 3
読了日:11月01日 著者:橋本 ナオキ


会社員でぶどり 2会社員でぶどり 2
読了日:11月01日 著者:橋本 ナオキ


会社員でぶどり会社員でぶどり
読了日:11月01日 著者:橋本 ナオキ