prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」

2009年02月05日 | 映画
演奏会場がそれほどバカげて大きくない劇場で、クラシックな内装というのが面白い。「ラスト・ワルツ」が「椿姫」に使われた巨大なシャンデリアを会場の上に吊ったのと通じるセンス。
あそこではあらかじめ完全にカメラワークが振付けられていたそうだが、今回も驚くほどクリアにステージが撮られている(撮影・ロバート・リチャードソン)。

エンドタイトルでフィルム・ローダー(詰め替え係)という職能の名前がずらっと十人以上並んでいるのだから、相当フィルムを回してるのだろう。
MTV的なつながり無視のかちゃかちゃしたカット割でなく、カメラの位置もムリがなくて見やすい。

過去のストーンズのインタビュー映像(同じくクレジットによると日本で撮られたものもあった)がときどきインサートされ、「いつまでストーンズは続くか」といった質問が何度も投げかけられるのが、何十年も続いた今となっては一種のユーモアになっている。
ストーンズの面々のパーソナリティはみな印象的だが、チャーリー・ワッツの不機嫌なようでなんだかお茶目な感じが個人的にはお気に入り。



「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」

2009年02月04日 | 映画
レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの「タイタニック」のコンビ再び、というのがこの場合売りになるのかどうか、役の深みも演技の彫りも比較にならないくらいこっちの方が上で、なまじ意識させる分ジャマなくらい息もつかせない共演ぶり。

図式的に現実主義と理想主義との対立、というのを夫婦に割り振ったら、ふつうは妻=女が現実の側、夫=男が夢見る側に割り振られると思うが、ここで夫に仕事をやめてパリに行こう、と夢みたいなことを言い出すのも、その「邪魔になる相手」をとんでもない方法で排除するのも、妻の方だ。
夫の方は、現実から理想に飛ぼうとして妻子=生活に縛られて飛び立つことができないのではなく、飛べるようにお膳立てを整えられることで、かえって飛び立つ能力も気力もないのが暴露されてしまい、自重で押しつぶされてしまうように見える。俗な意味の「女の怖さ」とは正反対のようで通じている怖さ。
子供が二人いるのに大事な局面では顔を出さないあたり、ちょっとベルイマンの「ある結婚の風景」のようにドラマを男女の話に絞りきっている。

精神病院に入院していたという隣人の息子が、普通だったら思っていても言わないことを言わせる作為。

通勤する男たちが全員中折れ帽をかぶっているのが、クラシックな雰囲気(日本でも小津安二郎の映画の勤め人あたりは帽子をかぶっている)であるとともに画一性に飲み込まれた夫の姿を典型的に出す。帽子をかぶった顔の見えない男たちが曇った空の下にたむろしている、妙な不安に満ちた絵画を見たことがあって、なんといったか忘れたが、あれを思い出した。

アメリカが最も豊かで夢に満ちていたと思わせる時代のカラーを出した中に、何か不安をたたえた撮影と美術。素晴らしいスタッフワークの上に、「アメリカン・ビューティ」の監督らしい、イギリス人がアメリカを描くときによく見せる意地の悪さが出ている。

出だしの数カットで出合った二人がたちまち親しくなり、シーンが飛ぶと結婚している、どころか倦怠期に突入している省略法のなど、随所に間と省略と沈黙(ラストカット!)による暗示を生かした演出。
(☆☆☆★★★)


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「マックQ」

2009年02月02日 | 映画

今の目で見るとゆったりしたテンポの割りに、的確なカットの積み重ねできっちり位置関係やストーリー展開をわからせていく演出で、飽かせない。
清掃業者に化けた麻薬泥棒の車を追っているうちに、同じ業者の車がもう一台現れてどっちを追えばいいのかわからなくなるあたりや、クライマックスの長い海岸線を生かしたカーアクションなど、よく工夫している。車に追われてばーっと海鳥の群れが飛び立ったり、波を蹴立てて水しぶきがあがるあたり、美しく新鮮。
さすがに、盛りは過ぎた時期の作品とはいえ、ジョン・「大脱走」・スタージェス監督。

ジョン・ウェインは現代の警官役だからライフルをぶっぱなすというわけにいかず、ピストルを握り締めてぱんぱんと撃つのは西部劇とは違い、けっこう距離があっても百発百中のご都合主義は一緒。後半、イングラム・マシンガンを出してきて、ライフル代わりにこれで悪者どもをなぎ倒すのが大ざっぱでウェインらしい。
女を相手にする時の、照れたような困ったような感じも西部劇の彼と一緒。

McQというと、今だとファッションのブランドと間違えられそうだが、ダーティハリーと同じようにアイルランド系ということだろう(アイルランド系でMcとかMacというのは、イングランドでいう-sonみたいな意味らしい)。そういえば、ウェインが乗っている車の色も、アイルランド・カラーであるグリーン。
(☆☆☆★★)


「ジョニー・イングリッシュ」

2009年02月01日 | 映画

最近のダニエル・クレイグになってからやたらコワモテになっているけれど、もともと007シリーズ自体かなりセルフ・パロディがかっていたものだし、そのまたもじりである本作もだいたい見当のつくギャグで固めている。同じローワン・アトキンソン主演のミスター・ビーン同様ものすごいバカ、というのもわかりやすい。もっと「高級」に作れる頭の人が宴会芸的にバカやってる、という感じはする。

ドアに半身だけ出して賊と格闘しているように見せるのは、なんだか日本の幇間芸みたい。あと、回転寿司でウニの口って肛門みたいと言うあたりも実際その通りなので、意識的な日本趣味というよりもっと自然に日本の文物がイギリスに入ってきているみたい。
(☆☆☆★)