池部良の銀行員が新珠美千代の料亭の女将に惚れながらも銀行の分を守って度が過ぎる貸しつけはしないでおいたのを、上役の平田昭彦がルール破りの貸しつけを餌に女将を横取りし、あまつさえ責任を部下の池部に押し付けて左遷し、池部は復讐しようとするが全部裏目に出て泥沼にはまっていくという、まあ松本清張原作らしい救いのない話。
半沢直樹みたいな調子のいいところはゼロ。
各シーンの切り上げ方が水際立って簡潔で、もっとやりとりがだらだら続きそうなのがぱっと省略される演出(鈴木英夫)が冴えており、八方陰惨なストーリーを冷ややかでドライなタッチでむしろ救っています。
原作はかなり前に読んでいたが、まあ読んでいてやりきれなくなったのを映画は非情さ自体を楽しむ感じにシフトしています。
丹波哲郎のヤクザが出てきて、ずらっと物騒な連中を並ばせごく儀礼的に名前と前科何犯とだけ名乗らせて脅すあたり、凄まない分怖い。
平田昭彦がエリート銀行員(コネで出世したのをちらっとうかがわせるセリフがある)の非人間的な感じを、ほとんど自動人形的な調子でやっております。布団で寝るときですら厚手のメガネを外さないのには、ほとんど笑ってしまう。
宮口精二がインチキな探偵、志村喬がいつも愛人をはべらせた総会屋と、とことんロクでもない奴の役で出ているのにびっくり。
池部良が大仰な感情表現をおよそ見せないで、実は振幅の大きい役を演じおおせているのが見もの。一瞬たりとも説明的な芝居をしないでこの役をやりおおせる、というのはなかなかできないのではないか。
(☆☆☆★★)