prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「明日を創る人々」

2023年03月09日 | 映画
1946年東宝。監督はクレジット順に山本嘉次郎、黒澤明、関川秀雄。
戦時中の「虎の尾を踏む男達」と戦後の「わが青春の悔いなし」の間の、敗戦直後1945年12月に東宝で組合が結成された少し後の製作ということになる。

黒澤は自分のフィルモグラフィーにこれを入れておらず、荻昌弘のインタビューに対して、
「これはどうも、僕の作品とは言えないし、といって誰の作品とも言えないものだな。要するに闘争委員会が作った写真で、そういう形の作品はいかにつまらなくなるかといういい見本みたいなものだね。一週間で作り上げたものなんだがね。今でもメーデーの歌を聴くとこの撮影を思い出して眠くなってくる始末でね。まあ一週間で作ったにしちゃいい方かな」
と、にべもない。

実際見ていても、どこを誰が撮ったのかさっぱりわからない。黒澤調のワイプがときどき使われたりするけれど、だからといってここは黒澤と決めつけられるわけもない。
全編にわたって♪発て 全国の労働者と歌われ、映画会社、鉄道、ダンサーなどあらゆる業種の労働者の団結が訴えられる。こうやって見ると、日本戦後史とは労働者の分断と組合の解体と馴致化の歴史でもあるなと今さらながら思わせる。

お話らしいお話はなくて、薄田研二の父のもと 中北千枝子他3人の娘のいる一家があって、物価高に特に電気代高騰に苦しんでいて賃上げ要求を勝ち取るべく組合結成を呼びかけているのだが、父親が組合などに入る必要などないと頑固に反対する。なんでああ頑強に反対するのかよくわからない、会社に一体感を持っているかららしいのだが、あまりはっきりしないし、心変わりするあたりも説得力がない。

黒澤は映画界に入る前は共産党のレポ(連絡係)をやっていた時期があったがやめて、東宝争議でいったん東宝を離れて新東宝、松竹、大映を巡ったりした。組合活動にどの程度シンパシーを持っていたのかはっきりしないが、要するに芸術家的なエゴ優先ということだろう。

藤田進、高峰秀子がそれぞれ藤田、高峰という役名でクレジットされている。
それぞれ当人役といっていいだろう。
藤田は戦時中は軍人役や姿三四郎でならした人で、それがスタジオに入る時に吸っていたタバコを消す。大スターでも倹約にはげんでいるという表現。
ちなみに二人ともに46年10月の第2次東宝争議では組合側にも会社側にもつかず、争議から離脱する。

70年代初めの日活が共産党系組合主導で会社が売却したスタジオを買い戻して仕事場を守ったり、「戦争と人間」みたいな大作路線に行きかけて結局ロマンポルノに活路を見出したり、労組の委員長だった根本悌二が社長に就任したりといった経緯などそれこそドラマになるのではないか。労働運動から見た映画史というのも多分あるだろう。





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