prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「彼女と彼」

2012年09月03日 | 映画
1963年製作だからもうざっと50年前の映画。
百合ヶ丘の団地が舞台だが、団地と相対するようにバタ屋(放送禁止用語二連発)があるという設定にびっくりしてしまう。
左幸子演じるヒロインがまるで警戒心を持たずにバタ屋に住む夫の大学の同級生とつきあうのは特殊にせよ、団地に住む奥さんたちもあまりいい顔はしないまでもそれほど文句を言って撤去させようとするわけでもないのにまたびっくり。今だったら、汚いの不潔だの子供の教育に悪いの何のでどれだけ騒ぐだろう。
その子供たちも野っ原で遊んでいるとバタ屋の子だか団地の子だと見分けがつかない。

もちろん悲劇的かつ差別的な展開になるのだが、今から見ると格差があるようだがブルジョワもプロレタリアートも(こういう言い方したくなる)両方目に見える範囲で同居しているわけで、むしろ混在しているみたい。
この50年はルンペン・プロレタリアート(といっても若い人わからないのではないか)を「見えない」ようにしてきただけなのだな。

今ではここに出てきたような団地にエレベーターがないものだから、映画でここに住んでいたような若夫婦の多くが歳をとって階段の上り下りに難渋しているのだろうと思う。言ってはなんだが、ある意味団地が時代が経つにつれここで相対されているスラムの地位にスライドしたのかもしれない。

インテリにしてルンプロの同級生をやっている人はあまり見かけない顔だと思って調べたら俳優ではなくて画家の山下菊二。すごく柄に合っている。羽仁通らしいキャスティング。
松岡正剛の千夜千冊に出てくる山下は部屋中にフクロウを飼っていたというが、ここではインコ。

撮影の長野重一はもともと岩波写真文庫の写真部員で、映画の「東京オリンピック」の撮影に参加したり、大林宣彦のCMを撮ってたりしていたという。

武満徹の音楽は前衛的(今でも!)な響きと叙情を併せ持つ素晴らしいもの。
出だしの火事の場面でぱちぱち火が爆ぜる音を入れないで、なんともいえない非現実的な音を入れているのが、団地との距離を典型的に現わしていたと思う。こういう音響設計はどういうスタッフ間のやりとりで達成されたのかと思う。

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