prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「オールド」

2021年09月16日 | 映画
予告編で見ると時間の流れ全般が早くなるのかと思ったら、生物に限って成長老化が早くなるという設定でした。
光速に近い宇宙船に乗って旅して戻ってきたら元いた世界の人間は年取っていて自分だけ若いというのと逆の現象。

うるさいことを言うと色々気になって、食料に多少なりともついているだろう細菌の働きはどうなるのか、生物の活動が促進されるのなら腐敗が早くならないかとか思っていると、後で細菌絡みの展開があるからほら見たことかという気分になる。

監督のシャマランが毎度のことながら出演して、それもヒッチコックみたいなワンカットだけの特別出演ではなくちゃんとした役で、なんなら象徴的ですらある。
本編の前にビデオによる映画館へ帰還ようこそといった挨拶まで象徴のうちに映る。

これまた予告編で煽っていたビーチを囲む岩のオープンセットにもちゃんと意味があったりする。つまり岩そのものに役割があるということ。珊瑚にも意味があったりするが、このあたりの理屈は原作でも読んでみないと腑に落ちないのではないか。

撮り方が独特で、カメラが人物と関わりなく勝手に移動したりパンしたりして、そこに人物がフレームに入ってきたりカメラについて歩いたりいつの間にか出て行ったりといった、キャラクターがあってそこから世界を見ているのではなく、世界が先行して存在していて人間はそこにたまたま出入しているにすぎないといった世界観になっている。
ちょっとフェリーニの中期作品(「甘い生活」「8 1/2」など)を思わせたりも下。

ある場所から出られなくなったブルジョワたちの行動観察記としてはブニュエルの「皆殺しの天使」風でもある。
ただ、なぜ出られないのかという理由が一応説明されているのが違うのと、深海魚がいきなり浅い海に出ると破裂してしまうようにこの時間が圧縮された世界からいきなり外に出ると死ぬという理屈はわかったようで今ひとつわからない。

ただし終盤でその世界観をさらに俯瞰するようにどんどん外から見た視点に広がっていくあたりの独特の快感はシャマラン映画の独擅場。