prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「レッド⋅スネイク」

2021年04月16日 | 映画
メディアでもいくらか話題になったクルド人の女性部隊をモチーフにしている。

クルドのことを知ったのはクルド出身のユルマズ⋅ギュネイ監督によるカンヌ映画祭パルムドール受賞作「路」(1982)でのことだ。

ギュネイはトルコ生まれだが、トルコ政府は長いことクルドの存在そのものを認めない政策をとっていて、クルド人として小説を書き映画を出演し監督したギュネイは政治犯として投獄され、しかし刑務所の中で脚本を書き演出プランを立て毛布をスクリーンにして試写して周囲の囚人の意見を取り入れて脚本を直し、つまりリモートで映画を監督して最後に刑務所を脱獄してスイスで編集ダビングして完成したという、それ自体映画みたいな経緯で作られた映画だ。

もちろん現場に監督はいたわけで、現在はその現場監督のシェリフ⋅ギュレンの方が監督としてクレジットされてはいるが、精神的シンボルとしての監督クレジットではあったのだろう。
なお、ギュネイは亡命後間もなく死亡している。

今にして思うと、「路」の製作支援と受賞自体がクルドの独立を支援する政治的な動きのうちだったように思う。

「路」は刑務所から仮釈放されて故郷にとぶ囚人たちのそれぞれの運命を描く壁画的な巨編で、それらのエピソードを貫く重要なモチーフがトルコとその中でも特にクルドにみられる封建制と女性に対する抑圧ということになる。

女性の働き口は極端に限られているため、夫が投獄されて困窮した末に売春したところ、不義を働いた女は夫の手で成敗(!)しないといけないという村の掟がのしかかってくる、これが20世紀の出来事かと思うようなエピソードが全編の締めくくりに来る。
ここで夫が掟を破り妻を助ける道を選ぶ(が、すでに手遅れで死なせてしまう)クライマックスでは紋切り型でなく爆発的な感動を呼んだ。

そのイメージが強いので、この映画で描かれるクルド人家族は特に女性の地位が低いようでもなく、差別的抑圧的なのはもっぱらISIS(この映画ではこの呼称を採っている)という描きかたなのは映画としてのわかりやすさを考えれば首肯できる範囲だが、どちらが本当だろうとは気になった。女性たちがクルド人社会で抑圧されている分自ら銃を取ることを選んだ話なのかと思ったら、そうではなかった。
言葉がかなり英語が共通語として使われているので、クルド内部より外の世界向けに作られているのがわかる。クルド語が使われているのか、どの言葉が使われているのか本当にはわからないのだが。

ISISの連中ときたら女に殺されると地獄行きだとか、ジハードで死ぬと天国で美女に囲まれた生活ができるとか、現世でもやたらと処女にこだわって貢ぎ物として貴重品扱いするとか、もう呆れるばかりに差別的。

性暴力の描きかたには慎重で、それ自体を見せ場=見せ物にしないように気を配っているのが伺える。

一番タフで優秀な狙撃手でロケットランチャーまでぶっぱなす黒人女性兵士の胸に星条旗のワッペン?が見えるのはいかにもという感じ。

英語タイトルはSisters in Arms。Brothers in Armsだと普通に「戦友」という意味。