prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」

2016年08月08日 | 映画
赤狩りをする側としてマッカーシーやニクソンといった政治家より、元女優のコラムニストのヘッダ・ホッパーを主にジョン・ウェインなどが加わるハリウッド内部の協力者たちを前面に立てている。
反共ヒステリーは冷戦下のアメリカ全体を覆ったのだが、かなりハリウッド村内部の相克に絞った描き方といっていいだろう。

そして告発されて戦う側も一枚岩ではいられず、進歩的なことを言っていられる人間は経済的に恵まれているからという皮肉や、売れている者といない者の間の金の貸し借りから来る感情のしこりや、脚本家のように表に出ないで脚本だけ書いていれば一応仕事になるのと違い、表に出られなかったら仕事にならない俳優業(エドワード・G・ロビンソンに代表される)の苦境と転向など、立場によって違う複雑な色合いとニュアンスに彩られている。

その中で軸になっているのは家族の存在というのがアメリカらしい。父親が逮捕され投獄されても見放さず、とにかく匿名でやたら書きまくって生計を立てる間も協力し続けている様子がおもしろく、娘が大きくなって反抗期を迎えたのをパンチングボールをひっぱたいてみなさいとダイアン・レインの妻がまず自分がやってみせるのが可笑しい。
そけらを過剰に感動的に描かないで、とにかく生活、生計を立てなくてはならず、そのためには家族が一致して協力する姿が自然に描かれている。

投獄される場面で全裸にされ(ブライアン・ラングストンは「ブレイキング・バッド」でもよく裸になっていたなあ)、肛門まで調べられるシーンの屈辱感というのは相当なもの。

ヘレン・ミレン扮するホッパーが元女優で、役と引き換えに身体を要求され断った、といったセリフがあるが、だから女優業からコラムニストに転向して権勢をふるったのではないかと思わせる元女優らしい華やかさと厭らしさをないまぜていて流石。
心根の腐ったには違いないが、それなりの根拠がありそうな厚みがある。

エドワード・G・ロビンソンのマイケル・スタールバーグ、カーク・ダグラス役のディーン・オゴーマンなど顔もかなり似せていて、バックステージもののにぎにぎしさを出している。

ダグラスの自伝「くず屋の息子」によると、「スパルタカス」でトランボのクレジットを出せないのでどうしようと他のプロデューサーと相談していると、当時新人だった監督のキューブリックが「それではぼくの名前にすればいい」と言い出したので「君は一行も書いていないだろう」とダグラスは怒ってしまい、映画で描かれたようにすでになし崩し的な情勢にはなっていたのだが、ではトランボの名前を出すことにしようとへそを曲げたということになっている。
さらにキューブリックを「才能あるくそったれ」と書いているという調子。まあどっちも相当なものです。
キューブリック側に言い分だと、シナリオが気に入らず改訂しようとしたのだが受け入れられなかったということになる。

ジョン・グッドマン扮する三流映画専門のプロデューサーが役者を使わせないぞと圧力をかけられて、俺の作る映画にまともな役者などいるかと反撃し、バットで叩きだすシーンが痛快。
イデオロギーなど関係あるか、儲かればいいのだという態度で結果として自由を守るというのは、「右も左も関係あるかい、わしは大日本映画党や」と左翼系監督を起用したマキノ光男や、ロジャー・コーマンを小粒にしたよう。
(☆☆☆★★★)

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 公式ホームページ

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