オープニング、第二次大戦中シシリーの独立運動に参加していた山賊のサルヴァトーレ・ジュリアーノの死体が発見される場面から始まるのだが、銃声の響き方の不自然さなど証言が真実に迫るというよりは微妙な距離感と矛盾を持ち続け、その距離とずれは映画が進行しても一向に埋まらない。
何しろ、主人公であるはずのジュリアーノの生きて活動している姿というのがまったく出てこないのだ。
代わりに死体がとっているポーズが冒頭で克明に記録され、これが思いがけない形でポーズそのものが何かのメッセージであるかのように繰り返されることになるのが不気味。
元はただのコソ泥で警官を殺して山に逃げ込んで山賊になったという経歴らしいが、独立運動に参加したといっても高邁な理想があったのことなのか怪しいもので、星条旗がアジトに立てているところからわかるようにアメリカをはじめとする連合軍のバックアップを受けていた。
白黒映画だから色はわからないがおそらく赤旗を立ててデモしている集団が出てきて、もともとイタリアは共産主義が強いこともあって戦後アメリカが防共活動のために山賊を利用したのではないかと思わせる。しかしジュリアーノが戦っていたのは政府軍なのだから、ほとんどこれは国家転覆に近い行為ということになる。
さらに国外に出られるはずのないジュリアーノが外国で憲兵や警察と会っていたという証言が裁判で出たりして、当局の内部でも分裂があるらしく、もうわけがわからない。
身の危険を感じたジュリアーノがマフィアにガードを頼んだりして、「日本の黒い霧」ではないが(もちろん邦題はこの松本清張の著作からとられたのだろう、原題はただのSALVATORE GIULIANO)、さまざまな黒い結びつきと陰謀がはっきり表に出ない沈められたままの形で、しかし描写そのものは徹底したリアリズムで描かれていく。
表面のリアルさがかえってわからない部分の大きさ不気味さを感じさせるのがフランチェスコ・ロージ監督の真骨頂だろう。
ひとつの殺人事件からさまざまな局面に話が広がっていき、中でも最も関係のなさそうなただの庶民、特に女たちにしわ寄せが来たためシシリーの女たちが大挙して当局に向かっていく場面などすごい大がかりで迫力たっぷりで、庶民が怒りをすこぶる率直に表す姿が今の日本で見ると爽快であり後ろめたくもある。
裁判の場面でもひとりひとりの証人や被告がすごい芝居っ気たっぷりにしゃべりまくるのを見ると、実にイタリア人というのは役者だなと改めて思わせる。
まあ、すごい映画でした。
ちなみに同じサルヴァトーレ・ジュリアーノを扱った映画としては、マイケル・チミノがマリオ・プーゾ原作でクリストファー・ランバートを主役に据え、一種のキリスト劇として描いた「シシリアン」があった。まあここまでアプローチによって違う映画になるものかと思う。
(☆☆☆☆)
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