prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「少年は残酷な弓を射る」

2012年09月02日 | 映画
上下二巻にわたる長大な原作は主人公の女性が夫に宛てた書簡体で書かれているようだけれど、脚色ではずいぶん思い切って時制をばらばらにして再構成し、ぱっと見るとどう他とつながるかわからない画と音でジグゾーパズルを組み立てていくような作り。
音楽担当はジョニー・グリーンウッドだが、むしろ日本の琴や三味線を含めた既成曲(か、それらしい曲)の多用が目立つ。それと赤を際立たせたた色彩設計など、往年のニコラス・ローグ作品、特に「ジェラシー」を思わせたりする。

毎年恒例のスペインのトマト祭は先日も報道されたばかりだが、冒頭その血のような「赤」の中で磔刑になるキリストのように両足を揃えて伸ばし両腕を広げているヒロインの姿に、その後続く受難劇を予告しているというわけだろう。
家の外壁にかけられる赤いペンキをはじめ、スーパーに入ればトマトスープの缶詰の棚の前に立ちすくむなど至るところで赤が追いかけてくる。
それに対抗するように夫と過ごす夜のベッドは青い光の中、家の中の壁を塗るペンキの色は青といった具合。

こういう作りだと構成力とともにワンカットワンカット、ひとつひとつのイメージがそれ自体触発力を持っていないとだれるのだが、その点は割とうまくいっている。ただ積み重ねていく手際が若干もったいぶっているように見えて少しかったるい。

宣伝でフューチャーされている美少年(品性の悪さを表に出す役作りだが)は意外と出番が少ない。
幼児期でわざとおもらししたり言うことを聞かなかったり、父親と母親に対する態度が極端に違ったりするあたりはありそうだけれど、成長すると「生まれついての悪」といったやや因果ものめいたおどろおどろしさに傾き、リアルさが薄れる。
(☆☆☆★)

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