泉野アーカイブズ・図書館問題研究所 in 石川県

石川県に未だ皆無の文書館の開設と図書館サービス改善を目指す、利用者市民・行政関係者すべての人々の交流の場です。

「葵上」:三島由紀夫「近代能楽集」の内

2006-06-29 08:39:15 | Weblog
小生が 文芸部員として参加する、地域演劇集団「浅野川倶楽部」の夏の朗読公演の演目として、三島由紀夫「近代能楽集」のうち「葵上」が含まれる。この演目の解説を書いたので、ここに紹介します。 なお、パンフレットに掲載されるときには、さらに刈り込まれる可能性があることを お断りしておきます。


 「葵上」紹介と解説   石川雅明(浅野川倶楽部文芸部)


 今回の演目「葵上」は、戯曲として1954(昭和29)年に発表、翌年文学座アトリエ公演として作者自身の演出で初演され、翌々年初版の「近代能楽集」に他の数編と共に収録されている。

 「葵上」とその主人公六条の御息所といえば、源氏物語第九帖「葵」中、源氏の愛が遠のいていた六条の御息所が葵祭で正妻葵の上との「車争い」で牛車を破却され、生霊となって産後間もない葵の上を憑り殺す(フリガナ:とりころす)くだりが思い出されよう。室町期に謡曲「葵上」が創られ、幽玄物の代表作の一つとなり、能楽鑑賞をとりわけ愛した三島によっていわば二重の「本歌取」ともいえる戯曲化がなされた。三島は「(近代能楽集は、)能楽の自由な空間と時間の処理や、あらわな形而上学的主題などを、そのまま現代に生かすために、シテュエーションのほうを現代化した」ものといっている。(「近代能楽集」あとがき)彼が単純に謡曲の現代的翻訳を試みたものでは断じてないことが注目される。

 三島の独自性をこの演目に即してたどってみよう。三島の戯曲「葵上」は、入院して毎夜悶える妻葵を夫光が旅先から見舞いに駆付ける場面から始まる。謡曲では生霊の口寄せをするだけの中立的な照日の巫女も、戯曲では明らかに生霊の側に内通する看護婦として登場している。源氏物語における車争いで破却された牛車は謡曲では破れ車(やれぐるま)となり敗北を象徴するが、戯曲では六条康子が生霊となって葵の入院する病院へ呪いに通う銀色の大型車となり、また光を連れ去る、昔の交情の復活にも見立てられる白い帆のヨットなって、勝利を象徴するかのようである。戯曲では、源氏物語や謡曲の場合と大きく異なって、まず、二人の関係の過去と現在に焦点があたる。そして謡曲では登場すらしない光は、戯曲では六条康子との会話を通じて、彼女に再び惹き寄せられてゆく。生霊が、光をドアの向こう側=アチラの世界へと誘い出して妖しくも気高い冷艶さを発揮してゆく存在であることに焦点は絞られて行く。やがては成仏させられ鎮められるところに焦点を当てた謡曲の場合とは際立って対照的である。戯曲のクライマックスでは二人はヨットで病室から飛翔して去る。後には、むなしく響く電話の向こうの現実の康子の声と葵の死が遺される。

 この演目の紹介としては僭越の極みであることをも省みず、あえて私見を申し述べる。この戯曲では、現実への回帰すなわち生霊の鎮魂は否定され、反対に虚構である生霊の方が勝利して現実に転化する。これこそ、作者三島独自の詩的美意識が提示した「あらわな形而上学的主題」といえよう。
その現実と虚構の間に切り裂かれて見える深淵の狭間に横たわる虚無の正体を、三島にいざなわれつつ観客の皆様と共に覗き込んでみようとするのが、この演目に朗読という形式で迫る演者たちの企みではなかろうか。

金沢・浅野川尾張町界隈の歴史(その3)

2006-02-14 19:34:18 | Weblog
 この源法院に出入りして、庭掃除など寺男の真似事をさせていただくようになった。源法院は 崖下にあり日当たりは悪い。建坪百坪に満たぬ小寺院である。境内は狭く、前の通りは主計町の裏通りにあたり通常は軽自動車も入らぬほど狭い。境内の枝垂桜と百日紅の木は日差しを求めて高くのびている。落葉はきの量は意外とあるが、面積はさほどではない。
 

金沢市民の歴史:浅野川・東山界隈(その2)

2006-02-10 04:00:46 | Weblog
 というのも、2004年4月から、浅野川大橋そばの 真言宗の小寺院「源法院」にかかわりができたのが 発端だ。詳しい経緯は 後述するとして この源法院の庫裏に、寺守をかねて移り住んだ女性友禅作家の伝手でいわばパート「寺男」よろしく出入りさせてもらうようになった。
 源法院は 寺の由緒によると元和3年(1618)年に僧張清により「再興」された寺であり、浄土真宗が多数派を占める金沢では数少ない真言宗に属する。
 この寺院は、江戸時代金沢と江戸をつないだ飛脚「江戸三度」(月3回往復)の飛脚たちが城下直下の飛脚問屋を出てまず祈願に立ち寄る寺であった。
 加賀前田藩の江戸三度は先年直木賞作家山本一力氏の「かんじき飛脚」として週刊新潮に連載された。
 江戸時代には、川向こうの東の郭との縁も浅からぬものが伺える。(詳細は後述)これは、室生犀星の養家として知られる犀川大橋河畔の、同じく真言宗の「雨宝院」の場合とよく似ており、本尊のほかに、不浄を焼き払う「烏枢沙摩明王」がまつられている点も平仄があっているように思われる。縁切りの願掛けが行われていたらしいのも、東西の郭や岡場所を背負った寺としての共通点であるようだ。
 このお寺を基点に、金沢の近世から近代への町人の息吹を確かめていくことができたら、面白かろうというわけである。すでに書かれて先人の業績におそわりつつ、界隈の地域の息吹の記録を掘り返し再構築しみることができたら、と願いはじめた。地域アーキヴィストたらんとする私の原点にできたらとの思いもある。(つづく)

金沢市民の歴史

2006-02-09 19:54:56 | Weblog
(アーカイブズそのものではないが 関連ネタ?として:まーぼう)  この3月で 東京から故郷金沢に戻って19年になる。金沢の歴史には常々注意を払ってきたが、気が付いてみるとそこそこの関連書籍文献の収集はしてきたようだ。しかし金沢の歴史一般では 焦点が絞れず、関心は深まらなかったというのが正直なところだ。しかし2,3年前から、生地の犀川界隈ではない、浅野川界隈、城下の旧中心地尾張町、橋場町、計(かずえ)町 川向こうの東山旧東新地(郭)の、幕末明治近代初期の地域の息遣いに興味が湧いた。(つづく)

石川新情報書府および石川県の情報政策関係年表

2006-01-26 13:45:59 | Weblog
 昭和62年以来の石川県の情報政策関係の年表を載せてみます。作成はmabouで、
 アーカイブズ関係年表の一部です。
11月 石川県立図書館機能活性化検討委員会設置        1987 S62
10月 「21世紀のビジョン-石川県長期構想-」策定                                           1988 S63
3月 石川県立図書館機能活性会委員会報告書「石川県立図書館の大
綱」 提言・報告                         1989 H元
北陸先端化学技術大学院大学 辰口に設立、11月 石川県立図書館
機能活性化検討委員会:「石川県立図書館整備基本構想(報告)」
を提言(百万県民の書府と図書館ネットワーク)           1990 H2
2月、石川県知事選挙 中西知事 副知事の杉山栄太郎氏を破り、8選を果たす。知事 夏には県庁移転を始動。                1991 H3
県庁移転問題夏ごろから急浮上=6月議会で取り上げられる。(報告書6:本岡会長まえがき)                         1992 H4
3月 石川県情報公開懇話会 提言、3月 金沢大学跡地利用懇話会が提言、
7月 新県庁舎整備並びに跡地利用構想懇話会設置(7月30日)、9月補正
予算で新県庁舎整備構想策定費計上(公文書館もちろんもりこまれず)     12月 石 川県情報公開制度大綱発表             1993 H5
中西知事任期途中の死を受けて、知事選、谷本正憲副知事当選、谷本県
政始まる以後3選。9月27日 情報公開条例制定           1994 H6
石川県 「国に先駆け」(金沢市、七尾市に送れて)4月1日 情報公開
条例施行、3月:金沢大学、金沢城キャンパスから移転完了(跡地の公文
書館図書館利用の論議県レベルではなし!!)5月「都心地区整備構想検
討委員会」発足・12月中間報告取りまとめ、 11月28日「世界の文化を
未来に継承するデジタルアーカイブ国際会議」に、石川県として参加
(今年解散したデジタルアーカイブ推移協議会の企画に乗ったもの)石
川新情報書府」構想策定(文化遺産のデジタル化・保存、マルチメディ
ア産業の振興)                       1995 H7
3月:石川県、国から金沢城跡を取得、石川新情報書府構想第Ⅰ期(H8~
10年):伝統工芸36種のCD-ROM 及びインターネット・コンテンツ制作、
56企業の参加により、10テーマの作品の保存・発信。        1996 H8
石川県新長期構想:「世界に開かれた文化のくにづくり構想」策定
(自然史博物館の整備・尊経閣文庫の誘致をうたう、公文書館には触れず)
3月:「都心地区整備構想検討委員会」報告書取りまとめ 
金沢市、「美術館建設構想」策定                 1997 H9
3月 石川県情報化推進プラン -情報遷都をめざして-策定、
11月金沢市、「広坂芸術村(仮称)建設構想」策定      1998  H10
石川新情報書府発展構想策定委員会を結成し、「次の展開」を模索、
 3月石川県「県庁移転跡地等検討懇話会」設置           1999 H11
石川新情報書府事業第Ⅱ期(H12~14年):DVD及びインターネット・コ
ンテンツ制作、41企業の参加により、自由テーマ11の作品の保存・発信。    
8月:「県庁移転跡地等検討懇話会」中間報告取りまとめ    2000 H12
9月「県庁移転跡地等検討懇話会」報告書取りまとめ(県企画開発部が主務)   10月30日  第1回全国地域デジタルアーカイブ研究大会 in Ishikawa
 開催                             2002  H14
石川新情報書府事業第Ⅲ期(H12~14年):DVD及びインターネット・コンテンツ制作、41企業の参加により、自由テーマ11の作品の保存・発信。 2003 H115
5月成立の{コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律案への協力。
石川県産業政策ビジョンの改定(「石川県産業革新戦略」の策定。合わせて
第Ⅲ期構想の策定作業→11月 「いしかわ文化・情報総合センター
(仮称)」基本構想骨子取りまとめ(旧県庁本庁舎の前面部分を保存、活用し、
新たな施設建設を先送りするとした)。谷本知事は新年度当初予算案に旧本
庁舎前面部分の保存、活用に向けた事業費を計上するとした。         (株)石川県IT総合人材育成センターでデジタルアーカイブ専門研修開始    金沢市21世紀美術館、開館                  2004 H16

3月:石川新情報書府構想(第三期)策定、 3月いしかわ文化情報
フォーラム(座長:宮原誠)「いしかわ文化・情報総合センター基本構想」策定 (企画振興部主務)4月1日付北國新聞 「知事、施設棚上げ示唆」なる記事
掲載(県選出某代議士派の反対といわれる)            2005 H17

 以上

埼玉県文書館の30年

2005-12-28 09:30:32 | Weblog
 先日市立玉川図書館でコピーしてきた埼玉県文書館紀要「埼玉県文書館の30年」1を読み、小生作成の文書館建設史年表の埼玉県の動向の欄に打ち込む作業を開始。石川県の(公)文書館建設運動の歴史を調べる過程で、他県、先行・既設県の建設・設置の動きを調べておくことは当県の動きを評価する上で欠かせない作業。
11月に実に拙いレポートを提出したが、その際こうした他県の動向についての調査が足りなかったことを痛感したので 遅まきながらの作業である。しばらくかかりそう。

開設の言葉

2005-12-27 11:46:03 | Weblog
 はじめまして

 石川県には 未だ「文書館」というものが開設されていません。
 「文書館」は、国や地域の文化、歴史、市民の利益にとって必須の情報を記録化して集積・利用するための総合的公共部門です。
 小生は公共図書館をはじめ様々の情報データベースの恩恵を被って市民運動のための情報取得、私的興味関心・利益を享受してきた金沢市民ですが、利用者の立場から主に公共図書館サービスへの不満を感じ苦情を申し立ててきたことから、この問題に突き当たりました。
 石川県は「天下の書府」を誇りにしており確かに近世までの古文書、歴史文化遺産の収蔵は量、質ともなかなかのものでしょうが、近・現代のそれの収集・保存は未だしのはずであります。とりわけ、そうした記録の保存・利用を市民の利益のために総合的に管理する「文書館」を未だに持っていないのはそろそろ当県の恥となっておるのではないかと思います。。石川県郷土資料保存研究会を先頭に、関係者の皆さんが、県議会・知事に約四半世紀にわたって開設を働きかけてきたのにも関わらず開設の計画もないのですから。
 すでに北陸中部では県立(公)文書館の未開設は石川県のみになってしまいました。(全国では約3分の2の都道府県が開設)
 あわせて旧態依然の県立図書館施設・サービス・職員モラールの抜本的改善も早急に望まれます。
 こうしたことは、ただ行政の責任を追及していればすむのではない、県民、市民自体の自覚の、見識・能力の問題、連帯能力の問題ではないかと愚考します。
 2005年を終えるにあたって、これまでの経験と約半年の学習をもとに、個人で、おっとり刀で開設しました。
 これまでの小生の取得した情報をアップしつつ私見を述べさせていただきますが、このブログを見られる皆さん忌憚のない意見、感想、質問、情報提供を歓迎します。すべての皆さんと手を携えて県立、市立の文書館の開設に少しでも寄与できればとの思いです。
 なおこのブログの運営・その他あらゆる事項に関する 疑問・苦情の提起、提案、批判を歓迎します。提案者の希望に沿ってですが それを原則公開して議論していきたいと思います。このブログのアカウンタビリティを重視したいと思います。