そよ風に乗って

過ぎ去った思い出や、日々の事を
そっとつぶやいています。

晩鐘(佐藤愛子作) を読んで

2017-11-25 11:46:19 | 読書

 図書館で借りて読んだ本です。

 

晩鐘 文芸春秋 平成26年12月 初版

 

これは佐藤愛子が88歳の時から2年をかけて書いた長編私小説です。

主人公の老作家、藤田杉が、かつて夫であった畑中辰彦の訃報を

恩師梅津玄への手紙で知らせる場面から始まります。

現在と過去を行き来しながら、物語が進み、梅津玄に過去の思い出を交えて

語りかける手紙を間に挟みながら進行していきます。

 

ご主人との事は、今までに読んだ随筆などで、少しは知っていましたが

これほど金銭的に、周りにも迷惑をかけた人物だとは驚きました。

しかし、かつては同人雑誌の仲間であり、ともに文学を目差し尊敬していた時期も有った元夫、

娘の父親でもあります。

 

事業の倒産による破産により、妻に迷惑がかからないようにと偽装離婚するのですが

知らない間に、別の女性が空いた戸籍に入っており

それを隠して、次に興した事業の金銭の穴埋めに社員を寄越して借金を申し出てくる元夫。

 

腹を立てながらも、家を抵当に入れられている従業員のためにお金を出してしまう藤田杉。

そして落ちぶれていく元の夫と、作家として成功していく青春時代の仲間たちとの比。

 

その人たちはみんなあの世に旅立ってしまって

一人残された老作家、作者の寂しさと、

人生を振り返って、長いかかわりのあった元の夫とはいかなる人物であったのかと

自分に問いかけている小説です。

 

後書きに書かれていますが

かつての夫の事を今までも繰り返し同じような内容を書いてきたそうですが

ある時は、容認であり、ある時は愚痴、ある時は憤怒、

そしてある時は面白がると言う変化があったとの事。

それは自分でしかわからない推移。

90歳を目の前に不可解な人物を書く事によって

彼への理解を深めたいという気持ちからこの物語を書かれたそうですが

やはり書くほどに分からない男であったらしく

結局は黙って受け容れる事しかできないのではと思うようになり

彼が生きている間にそれに気づくべきだったと書かれています。

 

年を取って、仲間が皆が逝ってしまって、しみじみと人生を振り返る寂しさ

無念さや、後悔もあるでしょうね。

 

明るく美しい笑顔で、言いたい事をズバッと言われる佐藤愛子さんですが

凄い人生を歩んで来られたのですね。

そしてこの元夫が小説を書く原動力になっていたのではないかと思うと

不思議なめぐり合わせだという思いです。

 

晩鐘  しみじみとした寂しい響きです。読みごたえが有りました。

 


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