鴨が行く ver.BLOG

鴨と師匠(ベルツノガエル似)と志ん鳥のヲタク全開趣味まみれな日々

最近読んだSF 2022/12/29

2022年12月30日 12時19分25秒 | ゲーム・コミック・SF
年も押し迫って、まだまだSFを読んでいますヽ( ´ー`)ノ
重厚なハードカバーを久しぶりに購入して、さすがに通勤電車内では読めないサイズなのでお正月に自宅でゆっくり読もうと思ってたんですが、面白過ぎて年を越す前に読了してしまいました。さすが、直木賞候補作。

地図と拳/小川哲(集英社)

一読しての印象は、日本の近現代史から立ち上ったマジック・リアリズム。
小川哲代表作の一つ「ゲームの王国」と似通った構成で、現実の歴史をなぞりつつも絶妙な塩梅で架空の歴史を挿入し、多数の風変わりなキャラクターが入れ替わり立ち替わり登場して歴史を織り上げていきます。
主要キャラの一人である孫悟空こと楊日綱の人間離れした能力や、李大綱の千里眼あたりにSFっぽい設定が見られますが、全体的にSF風味は薄めです。キャラの突飛さも「ゲームの王国」に比べると控えめで、元ネタとなっている満洲国の史実の重さ故か、読後感はずっしりと重たく、でもそれと同時に不思議と乾いた爽やかさも感じさせます。

物語の最初から最後まで登場し、要所要所で展開を牽引するドライバーである細川の存在はありますが、明確な「主人公」はなく、トリックスターとして物語をかき回す孫悟空、巻き込まれ型キャラながら物語の思想面を強烈に体現する須野父子、後半のドライバーとなる丞琳、冒頭とラストシーンで物語を引き締めるクラスニコフ神父、この辺りが主要キャラと言えるでしょうか。この他にも多数の個性派キャラが怒涛のように登場しますので、読みながらメモを取らないと途中で誰が誰やら分からなくなります(汗)。
それだけ多数の登場人物が好き勝手にあれこれ動き回るわけですが、それでも一貫性があり、まさにタペストリーが織り上げられている様を見るかのような重層的で分厚い世界観は、綿密な取材をベースに(巻末の「参考文献」の数たるや)相当な筆力を持ってグリップを効かせながら書き進めないと、あっという間に手綱を失って雲散霧消してしまうと思います。ラストシーンの「オチ」までしっかりと書き上げる小川哲の筆力に脱帽。まったくのフィクションでありながら「こういう都市もあったかもしれないな」と思わせてしまう表現力の豊かさも素晴らしいです。
分厚いだけあって、中ダレするところも正直あります。が、それも含めてこれだけのページ数をかけたからこそ、架空の都市の興亡を描ききることができたのだろうと鴨は思いました。

何分にも分厚いことと、元ネタの史実が頭に入っているか否かで面白さの度合いが異なることで、万人向けの作品ではないと思いますが、一読の価値はあります。歴史好きには無条件におすすめ。
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