M・吉田のブログ

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ウィザードリィ~素晴らしき日本語訳の世界

2007-05-10 22:54:56 | ピュアでもない日々
2年位前に、ドラクエ・FFで喩えるウィザードリィという記事を書きましたが、
あの時からずっと、書きそびれてるなぁ~、と思うことがあったんですね。

それは、ファミコン版ウィザードリィの「日本語訳」の話です。


ウィザードリィというゲームは、
元々がパソコン(マイコン?)のゲームで、そして「洋ゲー」です。
ゲーム内の文章は、すべて英語だったんですね!

それを、どういう経緯があったのか、
アスキー社により、ファミコンに移植され、
ゲーム内の言葉も日本語に訳されたわけです。

しかしまあ、この日本語訳がまた、
直訳だとか、意訳だとか、いろいろと織り交ぜて、
とても素晴らしい、面白い日本語訳になっているわけです。


今日はその中でも、アイテム名という点に焦点を絞り、
ウィザードリィの素晴らしい「日本語訳」について、見ていきたいと思います。


~~~~~

○ケース1.LONG SWORD

LONG SWORD… ロングソード。
この、RPGで、特に一昔前のFFなんかでは超お馴染みの武器、
果たして、アスキースタッフは、どのように訳すのか?

ファミコン版「ウィザードリィ」を作るにあたり、
日本人…特に、多少、年齢層が若いユーザを相手にしていても受け入れられる名前。

これは、そのまま「ロングソード」と表記するのがベストか?
しかし、ドラクエが「ロングソード」という表現を使っておらず、
ご存知のとおり「どうのつるぎ」等と表記していた。

「ロングソード」表記は、
当時のファミコンユーザにとっては難しいかも知れない。

しかして「長剣」なんて表記は、漢字が使えてこその表記。
ひらがなにしたら、何のことやらわからない。


基本中の基本とでもいうべき、この武器。
基本であるからこそ、このネーミングは大切にしたい。
しかし、基本にして単純であるからこそ、命名も悩ましい。

そんなシンプルな武器に対し、
アスキースタッフが示した日本語訳は、これだっ!




「けん」




普通、なかなかこの英断には踏み切れない。

アスキースタッフが導き出した、LONG SWORDの訳…
20年以上たった今も、なおセンスに満ち溢れる、素晴らしい訳である…!





○ケース2.ARMOR OF FREON

ゲームも中盤から後半になると、「こおりのくさりかたびら」…
「氷の鎖かたびら」というアイテムを手に入れることがあります。

うーん、いかにも、
炎攻撃に対して耐性がありそうな鎧ですね!
属性ついてそうですよね!


しかし、「ARMOR OF FREON」とは、
ファミコン版で、初めてついた英語名なんですね。

元々は「CHAIN PRO FIRE」。
意訳すれば、耐火鎧でしょうか。

耐火鎧→対・火属性鎧→氷の鎖かたびら→ARMOR OF FREON、という流れですかね。


で、ARMOR OF FREON の、
FREON …って何?

Frozenならわかるし、
FREONという語感から、なんとなく冷たいというニュアンスはわかるけど、
恥ずかしながら、当方、聞いたことない単語でございます。

そんなわけで、excite辞書で調べてみました結果、
以下のような訳が出てきました。
    ↓

Fre・on
【商標】 フレオン 《フロンガスの一種; 冷媒・エアロゾールなどに用いる》.


商標使っちゃってるのかよ!

Wikipediaで調べてみても、デュポン社の商標、なんて書かれてます。
こりゃあ確実に商標ですね。


さすがです、アスキースタッフ。
ファミコン版への移植にあたり、いらん権利侵害までしていたとは…!

ていうか、仮に商標じゃなかったとしても、
ARMOR OF FREON、って直訳したらフロンガスの鎧
なぜそんな名前に変更するのか。

しかし、その名前を付けた自社自身でこれを訳すと、「こおりのくさりかたびら」。
原作どおりの、耐火鎧というイメージにはなっています。
でも意訳。

なぜ、わざわざ意訳にしないといけない英名を後付けしたのか…。

謎は深まるばかりですね!





○ケース3.SHORT SWORD+1

ドラクエで言うところの、


「どうのつるぎ」
「はがねのつるぎ」
「ロトのつるぎ」


などという、
名前から、武器の形や、その強さが想像できてしまうような華やかなネーミングは、
ウィザードリィにはありませんでした。


先ほどのLONG SWORD …「けん」は、
ウィザードリィにおける「どうのつるぎ」に当たるものです。
基本的な武器ですね。

この強化版となると、
ドラクエでは、前述の通り「はがねのつるぎ」とか「ロトのつるぎ」になりますが、
ウィザードリィでは、非常にシンプルに強さを示すのみで、



LONG SWORD +1
LONG SWORD +2



などと、+1とか+2とか、
強さの値を示す修飾子を付けただけの、
ちょっと味気ないものになっていました。

もちろん、武器を強化したり、精錬すると、
こういったプラス表記が付くゲームもありますが、
そんな強化・精錬要素がないウィザードリィで、それはちょっと寂しい。

この寂しいネーミングに対して、
ファミコン版への移植にあたり、アスキースタッフが行ったテコ入れがコレ。


LONG SWORD+1 → きりさきのけん
LONG SWORD+2 → まっぷたつのけん


見事です。
+1とか+2とか、そんな味気ない数値から、
ここまで想像の翼を広げるとは。

しかも、「まっぷたつのけん」だなんて、
ドラクエ・FFイズムの思考回路下では 思いも寄らないネーミングセンスです。脱帽。
誰が考えたんでしょう。これ。


ついでに、+1、+2、というプラス効果のアイテムがあるなら、
当然、マイナス効果のアイテムもあるんじゃ?と思うのが人情。
LONG SWORD がマイナス効果を持つようになると、こうなります。



LONG SWORD-1 → なまくらなけん



なまくらな剣…。

あえて「錆びた剣」のような、ありふれた表現を避けているというあたりに、
スタッフのコダワリを感じますね。



LONG SWORDの他にも、+1 +2 表記の武器防具は、
アスキースタッフの、溢れんばかりの意訳が織り込まれており、


CHAIN MAIL(くさりかたびら)のパワーアップ型は、


CHAIN MAIL+1 → ひかるくさりかたびら
CHAIN +2   → エルフのくさりかたびら


光ったり、エルフのモノになったりします。

「ちょっと強い防具?」というイメージから、
一気にイワクありげな魔法のアイテムっぽい雰囲気に大変身です。
名前でここまで変わるとは…!

これが、
LEATHER ARMOR(かわよろい)になると、


LEATHER+1 → かたいかわよろい
LEATHER+2 → ごうかなかわよろい



+1の「かたいかわよろい」という表記はもう、
どこからどう見ても、「硬い」ということが明白です。
明らかに、「かわよろい」のパワーアップ版です。素晴らしい訳。

+2の「ごうかなかわよろい」という表記も味わい深く、
無闇にセレブな気分を醸し出す かわよろい であると言えましょう。



そんな中、個人的に最もオススメの訳と言えるのが、
SHORT SWORD…たんけん(短剣)シリーズのパワーアップ版です。

LONG SWORD+2 が「真っ二つの剣」とか言っちゃったり、
CHAIN MAIL+1 が「光る鎖かたびら」とか言っちゃったり、
なんだかもう、言いたい放題になっている中、これらを超えるようなものなんてあるのか?

という疑問の中、
やはり、アスキースタッフは、ドラクエやFFのような、無難なネーミングに徹さず、
独創性溢れる訳を当てることにしていたのである!

そんな、SHORT SWORD+1…
「短剣」のパワーアップ版の日本語訳が、これだ!




「よいたんけん」




「良い」んですよ!
「たんけん」よりも明らかに良い!
だからこそ、良い短剣!

「短剣」よりも better なものであるというニュアンス、
「短剣」よりも upper であることを表すニュアンスは、
この日本語訳によって限界まで、これ以上表現しきれないくらいの限界まで到達しましたね!


「『かたい』かわよろい」は、果たして貴方にとって有益なのか?
むしろ柔軟性が必要なのではないか?

「『ひかる』くさりかたびら」は、果たして本当に適切な鎧なのか?
隠密行動の際には、邪魔になるのではないか?

これらは、本当にプラス効果となっているのだろうか?
疑問点を挙げだせば、きりが無いところだ。


それに比べてどうだろうか?


「『よい』たんけん」とは。


誰がなんと言おうと、『良い』としか言いようがないのだ。


だって、『よい』んだもん。


何が『良い』のかは知らないけど。


ちなみに、この「よいたんけん」…SHORT SWORD+1 が、
さらにグレードアップすると、SHORT SWORD+2になる。


これの日本語訳は、「さいきょうのたんけん」。

なるほど、いかに『良い』短剣であったとしても、
流石に、『最強の』短剣と、最上級の単語を用いられては、敵うべくも無いというわけである。

素晴らしき、ウィザードリィのネーミングセンスの世界である。



~~~~~



いかがだったでしょうか、
ファミコン版「ウィザードリィ」の、素晴らしき、日本語訳の世界。
なんというか、本来ありえない楽しさに満ち溢れていませんでしたか?


ウィザードリィは、いわゆる「洋ゲーの移植」です。

昨今では、様々な高品質の洋ゲーがリリースされていますが、
日本では、まだまだ偏見も多いところでしょう。

しかし、「洋ゲー」であるという点を
センス次第で、原作にはなかった魅力を醸し出すことが出来る、
そんな可能性を見出すと言うことは、今よりもずっと前に既に示されていた、ということですね!


ビバ!ウィザードリィ!





コメント (32)
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