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少年少女文学と挿画の甘い罪

2007-12-19 20:47:14 | Book 積読 濫読 耽読
月曜、品川での打ち合わせ後、外苑前にある「ギャラリーハウスMAYA」の企画展
「本という宇宙 vol.1 L'innocente 文学にみる少年少女達の心のゆらぎ」(12/10~22)へ。
少年少女の物語をモチーフに、21人のイラストレーターが独自の切り口で
その作品からイメージする画を描きおろすという試み。

山本タカトによるコクトーの『恐るべき子供たち』(↑)、宇野亜喜良によるギュンター・グラスの
「ブリキの太鼓」、城芽ハヤトによるカポーティの『誕生日の子どもたち』などが、
個人的には意外性があってよかった。この『恐るべき子供たち』は、コクトーよりもむしろ
ベルトルッチの映画『ドリーマーズ』にイメージが近い気がしたが。
カポーティ作品の中でも私がとりわけ好きな短編『誕生日の子どもたち』は、
主人公である10歳のカリスマ的少女が コケティッシュなバレリーナ姿で描かれていて ぞくっとした。

先月、原マスミライブのブログでも書いたが、原マスミによる矢川澄子の
『ありうべきアリス』は、左右に三つ編を垂らした少女が、片方の三つ編みをちょきんっと
根元から切り落としている画だった。えもいわれぬアンビバレントな感覚。深い。


他にも 三島由紀夫の『午後の曳航』、太宰治の『女生徒』、マルグリット・デュラスの『L'amant』、
夢野久作の『少女地獄』、トーベ・ヤンソンの『誠実な詐欺師』、サガンの『悲しみよ こんにちは』、
ガルシア・マルケスの『エレンディラ』など、どれもフェイバリットな作品がモチーフになっているだけに、
見入ってしまった。期待していたアゴタ・クリストフの『悪童日記』は、
主人公である双子の兄弟のイメージ画がちょっとぴんとこなくて残念。。

***
文学作品に描かれる登場人物の造形は、彼ら彼女らが魅力的であればあるほど、
それをヴィジュアライズするのは、ひとつの“罪”であるともいえる。

たとえば子供の頃、『不思議の国のアリス』を、オリジナルのジョン・テニエルの挿画本で読んだのか、
ディズニー絵本で読んだのかによって、アリスのイメージは全然違ってくる。
盟友えとさんの愛娘りんちゃんは、私のあげたシュヴァンクマイエルの『アリス』を赤ちゃん時代に
観ていたそうで、恐らくりんちゃんのアリスや三月兎のイメージは、通常よりかなり濃厚なのでは。。
↓ヤン・シュヴァンクマイエル 映画『アリス』より。

今夏『ヤン&エヴァ・シュヴァンクマイエル展』でついにこの実物の三月兎と邂逅できて感慨無量。
しかし、こんなに邪悪で凶暴でグロテスクな三月兎は、ルイス・キャロルも想定外だっただろう。

『星の王子さま』は、挿画も作者自身によるものなので、『アリス』以上に 挿画のイメージが大きい。
ぬいぐるみなどのキャラクター商品もあるほど、その造形イメージが定着している。
↓サン=テグジュペリ作『星の王子さま』挿画(岩波書店刊)

これは砂漠にいる星の王子さまが「一本の木が倒れでもするように、しずかに倒れました。」
というシーン。「音ひとつ、しませんでした。」と続く。王子の最後の登場シーンである、
この“倒れる王子”の画が 私はいっとう好きだったりする。
世の中、なにかと“王子”流行りだが、王子は 倒れてこそ(<?)。

『ポールとヴィルジニー』も、大好きな作品のひとつだが
「ブロンドに青い瞳、珊瑚の唇を持つ」少女ヴィルジニーと、
「日焼けした顔に黒い瞳、長いまつ毛が優しい陰をおとした」少年ポールのキャラクターイメージは、
このアンティークな18世紀風の木版挿絵によって決定づけられた。
↓サン・ピエール作『ポールとヴィルジニー』挿画(旺文社刊)。

(顔のあたりが、諸星大二郎の漫画みたいに見えなくもない…)

メルヘンを大人用に編集した澁澤龍彦訳『長靴をはいた猫』は、片山健による挿画がとても妖しく。
↓シャルル・ペロー作『長靴をはいた猫』のカバー画(河出書房新社刊)

これは、『アンアン』創刊号(1970年3月)から澁澤氏が連載していた翻訳をまとめた作品集。
その際、アンアンに掲載された片山健氏の挿画を 澁澤氏が大いに気に入って依頼したようだ。

↓こちらはポプラ社刊『江戸川乱歩全集』の裏表紙。
少年少女時代、乱歩にはまった人は、猛烈な既視感を否めないはず。
特大トランシーバーで話しているのは、たぶん少年探偵団の小林少年。当時憧れだった。
しかし、、少年なのに 休日のおやじ風コーディネートなのは なぜに。。


で、同シリーズの表紙をめくると、必ずこの方↓が ひらんと眼に飛び込んでくる。

マントにボルサリーノ(?) 結構ダンディ。これが怪人二十面相とはどこにも書いてないが
なんとなく怪人二十面相のイメージは これによって刷り込まれてしまった感がある輩も多いのでは。

小学6年生になって初めて、隠微で濃密なカバー画の春陽堂版 乱歩文庫を手にし、
子供向け乱歩を逸脱した瞬間、いままで夢中になって遊んでいた子供部屋に、
実は知らない通路が隠されていて、そこから妖しい迷宮がめくるめく広がっていた・・・
・・みたいな衝撃を覚えたことを 忘れない。挿画はつくづく罪つくり。ゆえに魅かれてやまないのだけど。
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