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大乱歩、大佛次郎、ゴリラ、MJ

2009-11-20 09:42:17 | Book 積読 濫読 耽読
「あれは夢だったのかしら、それとも、
だれかのいたづらに、うまく一杯かかったのかしら。」

――江戸川乱歩『人間椅子』の草稿冒頭より



ここのところずっと、原稿を書いてはソファーでうたた寝し、また起きては原稿に向かうという
日々だったので、朝も昼も夜も、寸断されたゆめとゆめの間に間に漂っているような感覚だった。
先週はとうとう一歩も外に出ず、書き続けていた。おかげで、あれやこれやの入稿や校正は
無事済んだけど、ブログは随分間があいちゃったなぁ。。

日曜、まる一週間ぶりに小休止して外出。どうしても観たい催しが2つばかり、
この日が最終日だったので、見逃すわけにはいかなかったのだ。

まず向かったのは、横浜元町。ちょうど去年の今頃、横浜レトロ散歩取材を楽しんでいたので
懐かしい。あっという間の1年。今年はいろいろ考えさせられる深い1年だった<既に回顧モード。
と、これは山手 港の見える丘公園で目に留まった薔薇。その名も、「カトリーヌ・ドヌーヴ」!


公園の奥の神奈川近代文学館の前には、サンザシの実がぷりぷり鈴なりになっていた。


どうしても観たかったというのは、こちら。


しかし「大乱歩」とは、よくいったもの。
展示物にあった『三角館の恐怖』の新連載開始告知にも、「大乱歩遂に沈黙を破る!」とある。
他にも「大快報」「熱賛驚嘆」「大反響」と、まあ 煽る煽る(笑)
ちなみにこれは1951年に面白倶楽部に連載していたよう。
私は小学時代にポプラ社版の『三角館の恐怖』を所蔵していた。

↑これは小説名からがして『大暗室』ですからね。しかも「大長編大探偵小説」「大確信」と
やはり「大」の大連発。この作品は1936~1938年「キング」に連載していたよう。
私はやはり小学時代にポプラ社の『大暗室』を愛読していた(今も本棚にある)。
『大暗室』というインファンテリズムあふれる造語の響きには、当時からうっとりだった。


「大乱歩展」は最終日とあって予想外に混んでいたけど、同時代に乱歩作品と親しんだと思しき
往年のファンらしき姿もちらほら。たとえ白髪で腰が折れていても、
食い入るように展示物に見入るまなざしは、少年のそれだった。

↑ベレー帽で相好崩す乱歩先生を囲む 同時代ファンの少年少女たち。


乱歩という人は恐ろしく几帳面だったらしく、都内を転々とした足跡を解説付きの詳細地図に
したためていたり、自身の手書き年表(鳥瞰図と乱歩は云っている)をこと細かに残していたり、
とにかく偏執的記録魔だったようだ。そんなマニア垂涎の資料の中には、こんな嬉しいものも。

左は『人間椅子』の生草稿!(1925年に連載された発表稿とは設定などがかなり異なっている模様)
右は『押絵と旅する男』の橘小夢によるオリジナル挿画(丸尾末広風味ですが..)


乱歩の全集は春陽堂をはじめ、さまざまな出版社からが出ており、どれも装幀が凝っている。
1931~1932年に出た平凡社版の全集には『探偵趣味』なる付録小冊子が付いていたよう。
竹中英太郎が手がけた挿画(2号以降)は、どこかアールデコの匂いもして洒落ている。
ただ、最終号の『犯罪図鑑』は生々しい図版が多く、風俗壊乱のかどで発禁になったのだとか。。



大乱歩展を大満喫した後、すぐ側に「大佛次郎記念館」があったので、ついでに立ち寄ってみた。
大佛次郎といえば、自分の棺に自著ではなく猫を入れてほしいとのたまったほど大の猫好き。
記念館のエントランスや館内にも彼が収集した麗しい猫オブジェが何匹も。


正直、鞍馬天狗など大佛次郎の時代小説は未読ながら、エッセイ集『猫のいる日々』や
そこに入っている童話『スイッチョ猫』のような猫モノは、愛猫家にはたまらない快作かと。
しかし、生涯500匹もの猫たちと暮らしたり餌付けしたりしてきたという大佛次郎大先生の
まなじりの下がりきった猫愛で顔は、どうにもひとごととは思えないものがある。。

平凡社『作家の猫』より


閉館時刻の17時には、すっかりとっぷり陽も落ち、ヨコハマタソガレ。

この後、元町通りの老舗 喜久屋洋菓子舖の2F喫茶室に立ち寄り、コーヒー&レモンパイで一寸休憩。
すぐ背後の初老のご婦人が、まるで秘密の恋話でも打ち明ける女子高生みたいな調子で
小娘時代の奇妙な心中未遂の顛末を朗らかに話していて、ついつい耳ダンボに。。
大乱歩先生、大佛先生、事実は小説より奇なり、ですねえ?


その後、横浜から新宿に出て、大学時代の先輩、芝田文乃さんの写真展
「TOKYO-KRAKOW,COME AND GO vol.10 いったりきたり日記/2008年版」へ。
こちらも最終日滑り込みだったけど、無事に観られて ほっ。

東京とクラクフを往復しつつ、過去1年に撮ったスナップショットの中から約30枚を選び、
時系列に展示するという毎年恒例のこの写真展、今年でなんと10年目だそう!
継続は力なり。気負わず、どこかユーモラスでシュールな文乃ワールド、
クセになる面白さがあり、今年も興味深い傑作が多々あった。
これはそのひとつ、今回の案内葉書などに文乃さんが使用した写真。

私はてっきり森の中でマントのような衣をまとってしゃがんでいるお婆さんかと思っていたのだが、
上野動物園のゴリラだったよう!! いわれてみれば、確かにゴリラなのだが。。
文乃さんいわく「お婆さんと思っていた人、これで4人目です」(笑)
でもってこのゴリラ、本を読んだり携帯メールを打っているようにも見えるという。。


文乃さんも会場(サードディストリクトギャラリー)でゴリラと同じ読書ポーズを
してくれたので、パチリ。 来年もまた楽しみにしています!



そして今週半ば、オーリエさんリスペクトの全世界同時公開映画「This is It」を
まいかさんと3人で観てきた。もっともシンプルな感想をいうと
「どんな先入観があっても構わないから、とにかく一度体験してみるべき映画」
私もオーリエさんもまいかさんも決してMJ信者ではないが、観終わった後しばし放心――

稀代のエンターテナーMJの天才っぷりを、ことさらに大仰な演出をすることなくリアルに描き出した
この傑作ドキュメンタリー、本来はロンドン公演の圧倒的熱狂のフィナーレがクライマックスとなる
予定だったのかもしれない。が、その本公演は もはや永遠に実現しない。
リハーサルやオーディションなど、本公演の裏側のみを追った映画の中で、MJは最後まで
本公演で着る予定だった衣装で踊ることもなければ、フルヴォイスで歌うこともない。
しかし、そのソフトな歌声こそが、オーリエさんいわく「まるで妖精みたい」に美しい。

スキャンダラスな伝説の数々に、MJを長らくモンスター的に捉えていたけれど、
映画の中のMJは、その一挙一動も、スタッフに発する言葉も実にエレガントでスウィート。
そのしなやかな痩身から湧いてくる無邪気なI love Youがフィルムから溢れ出していた。
「MJはこの感覚を世界中に伝播するために逝ったのでは?」byオーリエさん。
たぶん、彼はもはや生死を超えた永遠の妖精なのだろう。

映画を観た後、オーリエさんちでまいかさんと3人で朝まで盛り上がる。
↓初対面とは思えないほど意気投合するまいかさん&オーリエさん♪


少し曇った朝、紅葉の代々木公園をてくてく通過して帰宅。
冷涼な11月の朝の空気に凛とたたずむ、散りかけの薔薇たちが愛しい。
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コメント
 
 
 
丘から港が (toujirou)
2009-11-23 18:44:59
 時々覗かせてもらっております。
「丘の見える公園」は多分「港の見える丘公園」ではないかと存じます。かなり以前はそうだったように思います。
 横浜生まれの一人として見過ごすことが出来ませんでした。(ごめんなさい)

 また次の記事を楽しみにしています。(本当は暇つぶしですが、またまたごめん。時にジンと来ることもありました)
 
 
 
ご指摘ありがとうございます (LunaSubito)
2009-11-23 20:36:24
はじめまして。ご指摘ありがとうございます!
たしかに、あの公園から見えるのは「丘」じゃなくて「港」ですよね--;) 
すみません、おっちょこちょいなんです。。
またお気づきのことがあればどしどしご指摘ください。
 
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