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春トリップ3 犬島編

2009-04-06 17:47:34 | Travel 国内外猫の目紀行
これはどこぞの空爆跡――ではなく、犬島。 前回に続き、春トリップ第3弾は「犬島編」。

犬島精錬所は近代日本の経済を支えた銅精錬所として1909年に造られた近代化産業遺産。
精錬時に発生する煙害対策などから瀬戸内に建設されたものの、銅の暴落で栄えたのは僅か10年。
「犬島アートプロジェクト」第一期は、そのすっかり廃虚化した精錬所の遺構を、
三分一博の建築×柳典幸のアートワーク×岡山大理工学部の環境システムにより、
環境に負荷を与えない形で再構築しようという試みだ。

見学は人数制限ありの事前予約制なので、大混雑のテーマパークみたいには決してならない。
構内のサインはすべて赤錆びたレリーフで表示されており、ロゴも美しい。


精錬所跡は、さながらローマ遺跡の如し。
銅の精錬過程の産物である黒々としたカラミ煉瓦と瀬戸内の青い海景の淵には
廃虚化した人工物のまがまがしさと美しさが分かちがたく同居していた。




遺構を巡りながら、りゅうちゃんいわく「なんだかガス室に送られるような気分(笑)」
今にもくず折れそうな煙突からは、深い深い吐息が漏れ聞こえてくるような気がした。


面白かったのは、煙突を利用して精錬所内の気温調整ができる環境システムに基づいた
三分一博氏の建築と、柳幸典氏のエキセントリックなインスタレーションの絶妙な協働。
背後にマグマのような焔を従え、煙突上空に広がる天光を目指し、暗闇をうねうね練り歩く作品は、
鏡仕掛けの妖しい芝居小屋みたいでトリッキーなのだけど、自然エネルギーの摂理に適っており、
体験としてもなかなかエキサイティング。

驚いたのは、三島由紀夫が思春期から青年記に暮らした渋谷・松涛の家の廃材を駆使した
柳氏のインスタレーション。なぜ犬島でミシマ…?! しかもうちの近所の松涛の廃屋が何ゆえここに?!

先入観を排除するため あえて予備知識を入れずに臨んだので、インパクト絶大。
三島の『太陽と鉄』にインスパイアされたり、最期の檄文の文字をヴィジュアル化した
4つのインスタレーションは、どれもアイロニカルな演劇の舞台空間のようだった。
日本の近代化の残滓である犬島の遺構で、日本の近代化の矛盾を象徴するアイコンとして三島を
モチーフにしたというのが、このインスタレーションの深層らしい。いやはや。

スタッフに訊ねたところ、福武總一郎氏が廃棄されかけていた旧三島邸の廃材を買い取って
このプロジェクトのために提供したのだそう。何から何までやってくれます、福武さん。
ちなみに、三島が12歳から25歳(1937~1950年)まで住んだ松涛の洋館とは、こちら。
『花ざかりの森』も『仮面の告白』も、ここで生まれたわけですね。
(渋谷区郷土博物館・文学館資料より)
このアーチ型玄関扉も作品に使われていた(扉にNHKシールが残っているのをりゅうちゃんが発見)。

それにしても、柳幸典氏の作品には既成概念を揺るがす諧謔パワーがある。
(直島のベネッセアートミュージアムにも彼の作品が幾つかある。そのひとつ、
「ザ・ワールド・フラッグ・アント・ファーム」は、色砂で作られた各国の国旗に蟻を放ち、
次第に国旗が蝕まれていくインスタレーション。’90年代のヴェネツィア・ビエンナーレでも
ちら見したが、改めてこの時代に見ると感慨深いものがあった)


精錬所跡地見学後は、船が来るまで島の周囲を散策。犬島は直島同様、高齢・過疎化が深刻な島。
船の待合室のベンチにほこほこ置かれた手作り座布団に、なんだかほっとする。



犬顔のお役人が猫を駆逐しようと躍起になっている―そんな宮沢賢治の寓話的世界を勝手に妄想(笑)


真昼の春光にきらめく澄んだ海には、ラリックの硝子細工みたいな海月が2体、ゆらゆら漂っていた。


犬島から再び直島へ戻った後のくだりは、前回blogの通り。りゅうちゃん&はーちゃんのお陰で
寄り道も含めて非常に効率よく周れたし、ふたりの社会学的な見解もなかなか興味深かった。
そして何より一緒に旅できてすごーく楽しかった!(多謝)



折りしも週末から連日の花見三昧。その話は次回の旅日記が終わった後、追って更新します。
(次回は、倉敷から京都へ。春トリップ最終回「京都編」なり)
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