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原マスミと月と矢川澄子

2007-11-21 11:31:50 | Music
朝方に仕上げた原稿をメールで入稿し、爆睡。そして夜は@神楽坂。
学生時代からの盟友えとさんと、9月に続いて今年二度目の原マスミのライブへ。

えとさんとは学生時代、スープが冷めない2軒隣に互いに巣を構え、
80年代サブカルワールドをピュアに濃く語り合った仲。珠玉の青い時代に。

思えば、ムーンライダーズの話題で意気投合したのが仲良くなるきっかけだったが、
その時に彼女が「原マスミって知ってるう?」と云ったことから、
私は原マスミという極めてワンアンドオンリーな世界に開眼することとなった。

ライブでは、相変わらず天然なMCのすべてが私のツボで、涙が出るほど笑った。
しかし、不意に弾き語り出すその詩世界には、めくるめく昏い淵が
ぽっかりと口をあけて広がっていた。。

会場で買ったリマスター版のCDを聴いて改めて感じたが、彼の詞はほとんどが月の夜。
どこまでもシュールな言語感覚と性別年齢不詳な歌声で、ルナティックな世界へといざなう。。

♪ヒマラヤのふもとの方に シワクチャになった月が
たくさんちらかってるらしいヨ…ウソだョ・・・「月面から目薬」
♪月がかけてくヘンテコな夜 ゴムの木のカゲで目を光らせて ノドをふくらませて
 甘いものを喰べている私の大切なカメラ・・・「カメラ」
♪月は今夜、宇宙をやめちゃうんだよ そしてこの星へこっそりおりてきて
 海で頭を洗って森で着替えをする・・・「夢の4倍」
♪窓辺の君の黒髪に 満月の炎が燃え移る テーブルクロスのサリー裸に纏い
 食卓に立ち上がって踊りながら 手品のような指先で胡桃を柘榴を喰べる・・・
・・・「トラキアの女」

昨夜のライブは、嬉しいことにお饅頭のお土産付だった。
帰宅後、えとさんに昔もらった原マスミの月のイラストのマグカップに入れた
茉莉花茶と一緒にいただく。左がチーズ味、右がよもぎ味。ごちそうさま!



ちなみに、原マスミは、音楽のみならず、吉本ばなな諸作のカバーや挿画から、
コアラのマーチのコマーシャルMCまでこなすジャンルレスなアーティストでもある。

ポール・ギャリコの心融かす繊細な物語『ひとひらの雪』(新潮文庫)のカバー装画や挿画も
原マスミの作品。うつくしい。この本は、私の冬のベッドサイドの常連でもある。
(ちなみに、ギャリコの傑作『ジェニー』は、世にあまたある猫をモチーフにした物語の中で私的№1)


『ひとひらの雪』の訳者は矢川澄子。澁沢龍彦の最初の妻であり、
彼の盟友・種村季弘とグスタフ・ルネ・ホッケのマニエリスム美術大全
『迷宮としての世界 』を共訳したことでも知られる。

この種村・矢川の名訳『迷宮としての世界』もまた、私の長年の愛読書のひとつ。
三島由紀夫に「今までの貧血質の美術史はすべて御破算になるであろう」と
云わしめた快作だ。

『ユリイカ増刊・不滅の少女/矢川澄子』によると、
2002年に矢川澄子が黒姫で自殺し、その亡骸が発見された際、
原マスミのテープが大音量で回り続けていたという・・・

実際、原マスミの音楽世界には、死に限りなく近い深淵な夢の闇がある。
ただし本人は、あたかもその夢世界の狂言回しの如く、
あっけらかんとした月明かりみたいなひとなのだが。

来る12月10日(月)~12月22日(土)に、青山のGALLERY HOUSE MAYA
開催される「企画展・本という宇宙 vol.1 L'innocente 文学にみる少年少女達の心のゆらぎ」にも
原マスミは矢川澄子の著作を題材に出品するよう。
・・・と、モチーフになっている文学作品名をつらつら見ると・・・
↓↓↓
●参加作家&出品予定作品
東逸子:「午後の曳航」三島由紀夫/井筒啓之:「女生徒」太宰治/宇野亜喜良:「ブリキの太鼓」ギュンター・グラス/作田えつ子:「L'amant 」マルグリット・デュラス/佐々木悟郎:「ライ麦畑でつかまえて」J.D.サリンジャー/城芽ハヤト:「誕生日の子どもたち」トルーマン・カポーティ/スズキコージ:「エレンディラ」ガルシア・マルケス/原マスミ:「ありうべきアリス」矢川澄子/古屋亜見子:「悪童日記」アゴタ・クリストフ/山田緑:「少女地獄」夢野久作/山福朱実:「誠実な詐欺師」トーベ・ヤンソン/山口はるみ:「悲しみよ こんにちは」フランソワーズ・サガン/山本タカト:「恐るべき子供たち」ジャン・コクトー  e.t.c…

・・・ことごとく私のフェイバリッツ! このブログのタイトルにもオマージュとして用いている
アゴタ・クリストフの「悪童日記」もモチーフに。必見!
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