ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

モロッコの一夜

2011-02-07 01:19:52 | イスラム世界
 ”La Plus Grande Soiree Marocaine ”by YOUMNI RABHI & ORCHESTRE CHEMSSY

 モロッコの民族ダンス音楽界の人気者。現地の人々には非常に大切なイベントである結婚式のパーティーには引っ張りだことか。

 機械の打ち込みのリズムと民族打楽器の生打ちの音と手拍子がひとかたまりになって押し寄せてくる。安物のCDラジカセで聞いていた当方、この楽器三種の聴き分けが出来なかったりする。
 前に突っ込み気味の高速ハチロクのリズムがヒョコヒョコと揺れながら北アフリカの茶色の大地を疾走する。それに乗せて交わされる、シワガレ声の男たちによるコール&レスポンス。シンプルなメロディのやり取り怒鳴りあいのうちに、次第にトランス状態に入って行く、もやはモロッコ名物といいたい呪術的サウンドが爆走する。聴き手のこちらもすでに、血の騒ぎを押さえられない。

 鄙びた響きの撥弦楽器が砂漠の砂嵐のイメージを運び、安物のシンセがピロピロと妙に哀切な調べを奏でながら、リズムの奔流を渡って行く。
 彼等がこれまで評判を取ってきた曲17曲が収められているとのことだが、曲の切れ目はないノン・ストップ状態の構成になっている。どれもハチロクのアップテンポで、曲と言っても似たようなイスラミックなコブシ声の交し合いだから、一曲一曲の区別はなかなか付かない。実質的には”全1曲”なのである。

 気が付けば2曲目が3曲目が4曲目が始まっている。時々唐突にリズム処理が変わる瞬間があり、そこが曲の変わり目かとも思うのだが、音楽の非常に高揚した瞬間にそれが訪れることもあり、編集点としてはまことにふさわしくなく、むしろ盛り上げるためにそのようなアレンジになっているのかも知れない。
 とはいえ、そんなほんの”中途のインフォメーション”レベルの仕掛け以外、特にサウンドの構成上の工夫というものはあまりみられず、基本的には一本調子の豪腕による突撃のみのようである。韓国のポンチャクあたりに通ずる”美は単調にあり”の法則はここにも生きている。

 ボーカル陣はいつしか、ほんの短い吠え声の応酬となっている。打楽器間のリズムのやり取りもきわめて熱を帯び、おお、これは凄まじいことになってきたなと期待したところで、「毎度ありがとうございます。これで終わります」という冷静過ぎるコメント(そう言っているのかどうかは知らんよ。ニュアンス的にはそう聴こえるというだけの話)をもってCDは演奏終了。そのミもフタもなさに吹き出しつつ、なぜか故・三波春夫先生の「お客様は神様です」なんてセリフを思い出していた。

 そしてプレイヤーからCDを取り出すと遠い砂漠の冒険行の幻は消え去り、私はやっぱり憂鬱な日曜日の終わりを、一人居間でもてあましているのだった。







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