”19” by Алсу
私のようにロシア・ポップスに興味のあるワールドミュージック・ファンには、いろいろ分離して少なくなってしまったとはいえ、ロシア連邦を構成する各共和国からやって来た歌手なんてものも、なかなかに血の騒ぐものを覚える存在である。そんな次第で、今回はタタールスタン共和国出身の歌手、アルスーのことなど。
タタールスタンは、ロシア共和国の首都モスクワからシベリア目指して東への旅を続け、行き先にウラル山脈の見えて来たあたりに展開する。アルスーの出身地であるウグルマという街は、あのサハロフ博士が旧ソ連政府の弾圧を受け追放されて最初に幽閉された村より、さらに東にある。アルスーのプロモーション・ビデオなど見ると、彼女の故郷の街を行く人々の面立ちは、かなりアジアの色が濃い。
アルスーのフルネームはAlsu Rälif qızı Safinaといい、毎度のことですいません、正式な読み方は分からない。顔立ちは確かにロシア娘のそれではない。といって、どのあたりの出身と予備知識無しに当てるのはかなりむずかしく、でも、なんとはないエキゾチックな感じが魅力ではある。
1983年生まれ、17歳のときにモスクワの音楽シーンにデビューした美女の誉れ高き彼女は、まあ、アイドル歌手と言ってもいいのだろうが、ステージ姿など見るとすっかり落ち着いた風で、もはや大人の風格がある。というか、日本のアイドルのようにキャピキャピした歌など歌わず、一貫して静かなバラードを歌う、それは彼女の芸風というべきか。
以前にも書いたかもしれないが、ロシアの大衆音楽には、80年代に世界中で流行ったエレクトロニクス音楽の影響がロシア風に洗練されつついまだ尾を引いていて、そのあたりがロシア民衆の普遍的な音の好みと解釈しても良さそうだ。
打ち込みのリズムに乗ってクールな和音を積み上げるシンセの響きなどによって構成される、ちょっと聞いた感じではスカスカに隙間の空いたそのサウンドは、冷たいようでいて、その裏には一つ突かれると激情の爆発を呼ぶ、なにやら危ない予感を孕んだロシア独特のものだ。
そんなサウンドの中でアルスーはスローバラード中心の、あくまでもアンニュイな歌の世界を提示してみせる。まるで霧の渦巻く彼方から聞こえてくるような儚さを滲ませ、短調の旋律にほのかな悲しみをたたえつつ淡いメロディは歌われ、それは彼女がやって来た地、東の異郷への憧れなども喚起してみせる。
ここにあるのが、彼女がまさに19歳の時に発表されたアルバム、”19”である。自作の曲なども含まれた意欲作であり、何より1曲だけタタール語で歌われた”Эткей”のエスニックな響きには血が踊る思いがする。
現在の彼女は”国際的展開”など目指し、あのフリオ・イグレシアスの息子のエンリケとのデュエット盤をリリースしたり、活動の本拠をロンドンに移して英語版のアルバムを発表したりの活動をメインとしているようだ。
残念ながら、と付け加えるべきだろう。その作戦が成功するか否かはともかく、”グローバル・スタンダード”を目指した彼女の音楽世界はアメリカ寄りのものに変化し、私などに楽しめるものでは、急速になくなりつつあるからだ。「19」が結局、私にとってのアルスーの最高傑作となってしまうのかも知れない。
「Etkey」は、わたしも好きです。
アルスーの英語アルバムも一度聴いてみたんですが、
アメリカや北欧の金髪アイドルみたいな感じの曲だったので、面白くありませんでしたね・・・。
それでも、新作が出たら、聴いてみたいですが。
ご訪問いただき、光栄です。
このようにマイナーな話題に反応があると、無人島からビンに入れて流したメッセージに返事があった、くらいに喜ばしい奇跡と思えますです。(そちらのブログをこちらのリンク集に加えさせていただいてよろしいですか?2~3日中にやる気でいますんで、ご都合が悪ければ、仰ってください)
アルスー、あの独特な霧に巻かれたような感触が好きなんですが、あんまり西欧化(?)はされないで欲しいですね。英語版とロシア国内向け、2本立てでやってくれればいいのに・・・
うちはほとんどポップなネタばかりだし、駄文ですけれど・・・。
こちらもリンクを貼らせていただきました。
アルスーの西欧化路線は、タイのタタ・ヤンと同じような方向に向かってるんじゃないかと言う気がしますね・・・何だか、グローバル化=アメリカ化な感じがして嫌ですね。
そういえば、タトゥーは、英語版とロシア国内向けの2本立てでやってました。
ロシア国内向けはまだ聴いてませんでした。
kisaraさんの話題の選び方、非常に共鳴するものを感じています。これからもよろしくお願いいたします。
タトゥーは、私もさすがに聴いていませんが(笑)せめて国内と国外の2本立てでやって欲しいですよね、世界進出を目指す人たちには。