ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

アルメニア大通り

2010-09-26 03:03:42 | ヨーロッパ

 ”Heartbeat of My Land”by Inga and Anush

 しばらく前から興味を持ってチョコチョコ買っているアルメニア・ポップス。まだその概要さえ掴めずにいるのだが。そのなかでもひときわ気になるアーティストがこの二人、インガ&アヌーシュだった。
 どうやら姉妹らしいデュオ・チームなのだが、何よりそのきっちりアルメニアの民族衣装を身に付けて、楚々とした風情で佇む、アルカイックな微笑み付きで、なんてジャケ写真が強力な印象を残した。
 おそらく彼女らはアルメニア・ポップス数あるなかでも、より伝統派というか民俗音楽よりの音楽性を売り物にしているのではないか。

 なんだかアジアとヨーロッパの要素が複雑怪奇に入り乱れて、しかもそのミクスチュアは昨日今日に始まったことではない。そもそもミクスチュアでさえなくこちらが元祖、文化のすべてはここに発し、遠い昔にオリエントとヨーロッパに分かれて行ったのだ、なんて言い出しそうなアルメニア文化なのである。
 遠い歴史に連なる中央アジアの文化とヨーロッパ文化が、もう千年前からこうしているんだよ、とでもいいたげに当たり前の顔をして共存している。

 アルメニア文化をイメージで言えば、いかにも中央アジアらしい草原の遊牧民の素朴な暮らしのど真ん中に、中世からの歴史をそのうちに抱え込んだ中央ヨーロッパの城砦都市が、深い憂鬱の溜息のうちに沈み込むように広がっていて、最先端のファッションに身を固めた非行少年ご一行がその大通りを我が物顔に闊歩しているのだ。何かね、この世界は?
 その謎を解く鍵の、そのまたありかを解く鍵にでも出会えそうな予感が、彼女らにはあった。まあ、まだ彼女らのCDも手に入らず、ネットで写真を見ているばかりの頃に抱いた根拠のない幻想なのだが。

 そして先日やっと手に入ったインガ&アヌーシュのこのアルバムを今、聴いてみれば。それどころじゃない。そこには、これまで聴いたアルメニアポップス中でも最高に自由奔放、まさにやりたい放題の世界がクルクル目くるめく展開しているのだった。
 まあ、オープニングはそれらしく、イスラムの香りを湛えた中央アジアの草原を想起させる勇壮なリズムが、きらびやかな民族楽器の響きを伴って聴こえてくるのだが。

 そのうちエレキギターがハードロック丸出しフレーズをかき鳴らし、状況は一変する。
 二人の歌声も、慎ましやかな民俗調から、いつのまにかゴージャスなユーロポップスっぽい朗々たるスタイルへと姿を変えている。ドラムがファンクを脈打ち、あるいはジャジーにベースが唸り、ホーンセクションが吠え。気が付けばインガ&アヌーシュの歌声もソウル歌手そのものへと変化しきっているのだ。ともかくエネルギッシュ、民俗調の衣装の時のおしとやかな印象にすっかり騙されていたな。
 で、一騒ぎ終わったら、おしとやかにユーロ・トラッドっぽい憂愁のバラードが始まり、歩道の落ち葉を踏みしめて歩いているんだから、これはクセモノだよ。

 なんか非常に濃い遊園地遊びに引き込まれたみたいな混乱状態で盤を聴こえたのだが、う~ん、こいつは参った。すごいね、アルメニアポップス。ますます。ますます興味が出てきてしまったのだった。





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