ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

総統の午後への前奏曲

2009-09-25 03:04:41 | ヨーロッパ

 ”Gold Und Liebe”by Deutsch Amerikanische Freundschaft

 ドイツのニューウェーヴ・ロックを語る上で重要なバンドなんだそうな。70年代の終わり近くに登場し、主に80年代の初めに活躍した連中だが、何度も解散再結成を繰り返しているようなので、もしかしたら現時点でもバンドが存在している可能性もある。
 バンド名は”ドイツ=アメリカ友好協会”とでも訳すのだろうか。日本だったら”日米安保条約ズ”というところか。

 その種の、我が国でいわゆるところの”ネット右翼”の連中の言動をパロディとしてなぞってみせる、みたいな露悪趣味がバンドの基本コンセプトのようだ。この出世作、”Gold Und Liebe”のジャケもネオナチっぽいイメージ演出を隠していないし、この一つ前のアルバムには、”ムッソリーニを讃える”みたいな歌も収められている(面白いから試聴にはその曲を貼っておく)

 ニュー・ウェーヴ・ロックなんかに興味を持ったこともない当方だが、この連中だけに妙に惹かれてしまったのは、ほとんどシーケンサーとドラムスによるリズム提示だけの味も素っ気もないサウンドに乗って呪文のように歌詞が唱えられる、そのバンドサウンドの感触が、ふと我が最愛の音楽、ナイジェリアのフジやアパラといったイスラム系ダンスミュージックに通底するなにかを持っているように感じてしまったから。

 電子楽器が単調に繰り返す不吉なイメージのベース音と、灰色のイメージの音空間で一人だけ静かに狂気染みた熱を放つドラムスのリズム。素っ頓狂に絡んでくるチープなシンセのフレーズ。ヴォーカリストのワイルドな、というか剣呑な、時に号令みたいに聞こえる歌声。全体を覆う、ひどくヘヴィな抑圧感も異様だ。
 この、ハードボイルドにして今ひとつ意味の読めないファンキーさを放つ不吉な臭いのスカスカの音空間、なんか癖になるものがあるのよな。

 彼らがこんな音楽を作り出した80年代の初めというのは、もちろんドイツはまだ東西に分かれており、ベルリンの人々は「次に核兵器が使われることがあるとしたら、それは我が国においてだろう」なんて強迫的ともいえる不安のうちにあった、とも聞く。
 そうか、そういえばこの音楽の親戚筋みたいな代物が、巷ではポップスの顔をして横行しているよなあ、などと納得しかけてみたりする秋の夕暮れ。踊れ、脊髄で。