(1)日記から-つづき-
・2月11日(水)
「キメラ」を70頁。増補分はまだだが、もともとの本文は読み終わった。日本が日中戦争に突き進み、さらに日米戦争に跳躍する中で、満州国の姿はどう変わったか。一言で言えば、植民地国家の相貌をますますあらわにした。日本本国への食糧供給-そのための供出-石炭、銑鉄などの資源の供給。そして兵站基地化。これら国策の遂行は日本のために日本人官僚によってなされた。五族協和などはもはやスローガンでさえなくなった。注目すべきは、満州国における政治・経済の統制方法が、日本本国のそれに影響を及ぼした、ということ。政治面では、満州国の協和会による一党政が近衛の大政翼賛会に参照された。経済政策については、計画・統制策が、総動員体制のモデルとなった。その意味で満州国は本国の実験台であった。
騙されたにしろ、善意であったにしろ、この地で日本の軍人、官吏、日産の鮎川ら独占資本家が行ったことは天地に恥じる行為だった。しかし、これはたかだか70年前のことだ。この負の歴史をどれだけの人が知っているのだろう。俺も目を開かされた。
・2月12日(木)
「キメラ」を読了。今日は増補部分を読んだ。王道楽土を無邪気に信じて大陸に渡った人もいた。また、遅れた大地に文明をもたらす使命を抱いて渡った人もいた。一攫千金を狙った山師ばかりではなかった。が、著者は言う。自分の善意が、相手がどう思うかということへの感覚をマヒさせる。使命感がかえって善意の押しつけとなる。ここには「自意識の過剰」と「他者意識の欠如」がある、と。この警句は教育の世界にも当てはまるだろう。善意の教師が陥る陥穽。自他の違いの認識から出発すべきだ。内容が豊富で綿密に考証された良書だ。
自分の無知をしらされた。
(つづく)