プーランク:ヴァイオリンソナタ
2つのクラリネットのためのソナタ
チェロソナタ
ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン
ピアノ:ジャック・フェヴェリエ
クラリネット:ミシェル・ポルタル
モーリス・ギャベー
チェロ:ピエール・フルニエ
録音:1972年11月22日、25日(ヴァイオリンソナタ)
1972年3月1日(2つのクラリネットのためのソナタ)
1971年11月3日、29日(チェロソナタ)
LP:東芝EMI EAC‐40135
主にドイツ・オーストリア系音楽の作曲家の作品を中心に聴いているリスナーにとっては、プーランク(1899年―1963年)の作品は、少々”奇妙な”印象の音楽に聴こえるはずである。フランス音楽の典型のようなプーランクの音楽は、モーツァルトやベートーヴェン、ブラームスの作品を愛好する人々にとっては、鬼門とも言える音楽なのだ。しかし、これは、明治維新以来、日本の政府が取ってきたドイツ・オーストリア系音楽教育重視の結果に過ぎず、本質的にフランス音楽と日本人が疎遠な関係にあるわけではない。それどころか、日本の古来の詩歌管弦の世界は、むしろフランス音楽のようなニュアンスを漂わせてすらいる。ということで今回は、普段あまり聴く機会に恵まれないプーランクの室内楽を3曲収めたLPレコードえある。まず、第1曲目は、1943年に作曲(1949年に改訂版)されたヴァイオリンソナタである。このソナタは、1936年にファシストのために銃殺されたスペインの偉大な詩人フェデリコ・ガルシーア・ロルカ(1898年―1936年)を追悼するために書かれ、その霊に捧げられた曲。当時、ロルカの死は、西欧の知識人に深甚な衝撃を与えた。このため、プーランクによるこのヴァイオリンソナタも、曲全体のわたって悲壮感が漂い、聴くものの心に重く響く。このLPレコードでは、プーランクとも交友があったというユーディ・メニューイン(1916年―1999年)のヴァイオリン、ラヴェルから高い評価を得ていたジャック・フェヴェリエ(1900年―1979年)のピアノで演奏されている。各楽章の感情の起伏が明快にリスナーに伝わり、聴き応えのある仕上がりとなっている。次の2つのクラリネットのためのソナタは、プーランクが19歳の時の短い作品。プーランクがフランスの楽壇に登場した時に書かれた作品で、作曲者の意欲が感じられると同時に、フランス音楽の静寂さがリスナーに切々と伝わってくるようだ。最期のチェロソナタは、1948年4~9月に書かれ、このLPレコードで演奏している、当時”チェロのプリンス”と謳われたピエール・フルニエ(1906年―1986年)に献呈されており、初演もピエール・フルニエのチェロで行われた。作曲者から献呈を受けたピエール・フルニエの演奏は、流石にこの曲の本質をずばりと突いた名演を聴かせる。これら3曲は、プーランクを聴かず嫌いなリスナーには、是非一度は聴いてほしい曲だ。(LPC)